【ネタバレ】湊かなえ著:白ゆき姫殺人事件【感想文】
湊かなえ著:白ゆき姫殺人事件
読了した後に読んでください。
この作品は、登場しないヒロイン二人を関係者が語る事で物語が進む。群像劇ミステリーだ。
殺害された、美しいが性格の歪んだ三木典子。
容疑者扱いされる、地味で大人しい城野美姫。
私は、物語が進むにつれ、
城野美姫にも、三木典子にも『可哀想』だ。
と、胸が締め付けられる思いになった。
城野美姫が自身や、親友夕子のいじめに絶望していく時も胸が痛んだ。
だが、三木典子のことを、トロフィー彼女としか見ていない嘘つき二股野郎の係長。
三木典子を弄んでいた雅也。
三木典子は、結局誰からも心から、愛される事なく、雅也との恋で勝利したと勘違いしたまま、惨殺されたことが、本当に気の毒だった。
三木典子は、美しいがゆえに、歪んだ性格の女だが、なぜ歪んだのか?
その背景は描かれないまま、物語は終結する。
言わば、負けヒロイン。そして、殺害被害者。
読者からも、ザマァ。されるポジションなのだ。
確かに、三木典子は性格が悪い。
だけど、彼女は、殺される程の悪事を働いていただろうか?
私はしていないと思う。
本当に気の毒で、可哀想な女性じゃないか。
自分の美しさだけがアイデンティティー。
それ以外に誇れないから、人の服のセンスを盗み、同じ洋服を買い、相手にその服を着させない、自己満足で幼稚な嫌がらせをする。
どこにでもいる、小悪党でしかない。
人の彼氏を欲しがり、城野美姫にマウントを取らないとプライドが保てない、実は、メンタルが不安定な、弱者女性だ。
スクールカースト等と言う、馬鹿げた価値観では、常に一軍だったんだろう。
でも、何か満たされない鬱屈を抱え、
人を見下さないと、生きていけない、か弱い女だ。
(だからこそ、下らない男たちの手に落ちる)
だが、所詮片田舎に住む、顔が綺麗なだけの女。
仕事も城野には敵わない。
犯人の狩野里沙子に殺されなかったら、彼女はどうなっていただろうか?
25歳でアーティストの雅也に、本命の恋人がいることに絶望。社内で腫れ物になり、城野美姫に慰められてプライドが更に傷付くのか?
そして、それを待ち構えた、つまらんオッサン係長に嫁いで、嫁姑の醜い争い(絶対にこの女は姑をいじめるか、いじめられるかの二択の関係構築しかできないだろう。幸せな結婚生活は送れまい)をし、
不倫をしたり、されたりしながら、子供を育て、顔のキツい老婆になって、子供にも嫌われ、孫からもよそよそしく扱われ、その歪な生涯を終えたのではないだろうか。
そんな想像をしてしまう程には、惨めな女だ。
そして、三木典子を殺した狩野里沙子も同じくらい性格が歪んでいる。
似た者同士が引き合わされるという、ことがある。
でも、狩野里沙子は、三木典子を凌駕するレベルの悪党だった。
悪党に殺される、小悪党。
それが三木典子(25)の生涯。
可哀想すぎるだろう。
涙は出ないが、
なんでこうなった?
どっから、人生をやり直せば、この黒焦げ死体になる結末は回避できたの?
と、私は逆に完全沈黙を貫く、三木典子に聞きたくなった。
なんだか、小さなコミュニティ内での、脳内勝ち負けにだけ拘り、そんな嫌がらせを続けないと、平常心を保てないなんて……。
でも、三木典子のような女性は、いる。
白ゆき姫殺人事件は、非常に、寂しく悲しい話だ。
そして、資料としてのマンマーロや週刊誌記事。
赤星の杜撰な取材。それに答えていく、無責任な町民達。
三木典子のような、小さいプライドにしがみつく人物が出てくること、出てくること。
誰の中にも、三木典子はいるのかもしれない。
三木典子は美しいが、城野美姫と同じ平凡な女だ。
死んだ後、語られるのは城野美姫のことばかり。
被害者家族の取材がないのは、天涯孤独だったからではないか?
つまり、三木典子は真に孤独な女だったんだろう。
夕子は、恐らく性自認が男性の、美しい女性だ。
引きこもりのニートだが、城野美姫を、今もずっと愛している。
愛されているのは、城野美姫ばかりだ、
なぜ、週刊誌でデマを流され、田舎で誹謗中傷される城野美姫が愛されていていて、三木典子には、愛されエピソードがないのか?
そうか。だから、三木典子は歪んだのか。
そして、その歪み故に、狩野里沙子に殺される。
ネットや週刊誌、近所の噂話に、真実はない。
明らかに嘘をついてるのが狩野里沙子で、マンマーロで城野美姫の名前を出した画像を見た瞬間、犯人が誰かわかった。
言ってることと、行動がおかしいのは、狩野里沙子だけだ。
犯人がわかった時、城野美姫が三木典子を白ゆき姫はもういない。と、悼む。
城野美姫は、ホテルの便箋に書き留める。
『自分の記憶で作られる過去と、他人の記憶で作られる過去。正しいのはどちらなのでしょう。』(原文ママ)
城野美姫は、当事者として、悪質な憶測記事を書かれていても、どこか冷めている。
彼女は賢いのだ。そして、優しく、しなやかに強い。
本物の強者。圧倒的ヒロインとして、物語の最後に登場し、三木典子が雅也に弄ばれていたことにもザマァ見ろと、言わない。
――典子さん、かわいそう。
城野美姫は、三木典子の為に、号泣する。
死者になった三木典子。彼女に心を唯一寄せるのは、城野美姫だけだ。
三木典子は、完膚なきまでに城野美姫に倒される。
三木典子が泣いてる城野美姫を見たら、きっと、臍を噛む程悔しがっただろうに。
来世はもっと、人に愛されるように、
生まれ変われるといいね。
三木典子の冥福を祈る。
出典を見たら『白ゆき姫殺人事件』は2011年5月に発表された作品だった。
マンマーロは、当時のTwitter、現Xを模している。
東日本大震災の直後に爆発的に普及したTwitter。
英語圏で2006年から開始されたサービスで、日本では2007年から英語版でも認知されだす。
『白ゆき姫殺人事件』が発表されたのは、まさにTwitterが普及し始めたそんな時期だ。
でも、出てくる単語が、ブログとか、フロッピーとか、だいぶ古い。
湊かなえさんは、ネット文化やIT黎明期の時代を知ってる世代なんだろう。
割とギークな、男性中心になりがちなネットコミュニティを、女性目線でコラージュした視点の新しさ、先見の明があったから、ヒットしたのだと私は分析する。
『白ゆき姫殺人事件』が発表されてから14年が経った。
Twitterのネットリンチや、意見の分断は苛烈になり、デマの温床になっている。
誹謗中傷で、亡くなる人も出てしまった。
多分、50年後また、全く見たことのない新媒体で、人々は匿名で薄い関係を広げ、扱えない程の情報の濁流に飲み込まれ、デマを信じたり、否定したりし続けるんだろう。
湊かなえ先生の別の作品も読みたいです。




