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第4話 恋バナしようぜ!

 翌日の火曜日。


 午後の授業が終わり、帰り支度を終えた俺はホームルームが始まるのを待っていた。


 窓際の席に座りながら、がやがやと落ち着きのない教室を横目にあくびをかみ殺す。


「眠そうだなー」


 見ると、漆畑が近寄ってきて俺の席のすぐ前の窓辺に寄りかかった。俺は椅子に座ったまま顔を上げる。


「まあ、ちょっと寝不足かな」

「あ、あれか。意中の女の子のこと考えて寝れなかったとか?」

「断じて違う」

「照れんなって。俺も初めてカノジョができた日は夜寝れなかったもん。今でもたまに遅くまでメッセとか電話が途切れないことがあってさ、ほんと困っちゃうよなー」


 聞いてもないのにのろけてくる漆畑を「ハイハイ」と適当にあしらう。


 実際俺はというと、昨晩久しぶりにベースを練習してみたらつい楽しくなって夜更かししてしまっただけだが、これはわざわざ言わなくてもいいだろう。


「そういえばお前、昨日の放課後デートはどうだったんだよ。上手くいったのか?」

「何度も言うがデートじゃないぞ。まあ、これからも定期的に会うことになりそうだよ」

「へー、やるじゃん! 二回目に繋げられたら初回にしちゃ上出来だぜ」


 グッと親指を立てる漆畑。


 その代わりに謎のハードロックバンドをやらされることになったけどな。


 内心で苦笑していると、一人のクラスメイトの女の子が近づいてきた。


「ちょっと、うるしー。そこ私の席なんだけど。どいてくんない?」

「えー、いいじゃん。今ヒロの恋バナ聞いてんのよ。なっちゃんも一緒にどう?」

「えっ」


 宮島君が恋バナ? みたいな顔で見てくる女子。わかるぞ、その気持ち。でも君といい漆畑といい、もう少し俺に気を遣ってくれ。


 この微妙な空気をどうしようかと考えていたら、


「皆さん、遅くなってすみません」


 扉がガラリと開いて、教室内の視線が集まった。漆畑が「あー、しきこちゃん来ちゃったかー」と言いながら窓辺から離れていき、他の生徒たちも各々の席へと戻っていく。


 助け舟の如く現れたのは俺たちのクラス担任――毒島(ぶすじま)四季子(しきこ)先生。


 長い黒髪を下ろして眼鏡をかけたその容姿はまさに大人の女性という印象だ。担当科目は英語。わかりやすい授業に定評があるが、英文を読む声がちょっとエロくて集中できないというのが男子生徒たちの悩みになっている。


 ちなみに大人しく見られがちな毒島先生だが、意外にも軽音部の顧問も務めている。もっとも俺がお世話になったのは入部後わずか一カ月くらいの短い間だったけど。


「それではホームルームをはじめます。まず連絡事項ですが――」


 教壇の前に立っていつも通り淡々と話す毒島先生。内容は行事関連など事務的なものばかりだが、気品のある立ち姿や時折見せるさりげない微笑みが多くの生徒(主に男子)の視線を釘付けにしていた。


「――では、本日はここまでです。最近本格的に寒くなってきましたので、皆さんお体に気を付けてくださいね」


 先生の愛のあるお言葉をありがたく頂戴し、今日のホームルームが終わった。


 途端に空気が一気に弛緩し、教室内がざわめき出す。


 俺も席から立ち上がると、両手を掲げて大きく伸びをした。


 さて、今日も特にすることはないし、帰って昼寝でもするかな。


 鞄を肩にかけようとしたそのとき、ポケットの中のスマホが突然震えた。


 確認すると、一件のメッセージ。差出人は――


 上倉茉莉『いま暇? 紹介したい子がいるんだけど』



 ◇◇◇



 で、放課後。


 茉莉に急遽呼び出された俺は県庁近くにある喫茶店を訪れた。


 クラシカルな雰囲気の店内は平日の午後ということもあり客足はまばらだ。客席に見えるのは世間話に花を咲かせる年配の女性くらいか。


 茉莉がまだいないことを確認した俺は、奥まった四人掛けの席に一人で腰かけた。


 運ばれてきた水を一口飲んで、茉莉が送ってきたメッセージをもう一度見返す。


 どうやら早くもバンドのボーカル候補が見つかったらしい。今日はさっそくその新メンバーとの顔合わせがしたいとのことだ。


 まさか昨日の今日でまた顔を合わせることになるとは思わなかったな。


 それにしても、茉莉がたった一日で見つけてきたという新メンバーとはどんな奴なのだろう。ハードロックバンドのボーカルということはやはり屈強な大男なのだろうか。だとしたら俺とは絶対気が合わなそうだけど大丈夫かな。


「いらっしゃいませー」


 誰かが店に入ってきた。背筋を伸ばして入口を一瞥する。そこにいたのは一人の見知らぬ女の子。つい先ほどの俺と同様、店内をキョロキョロと見回している。


 なんだ別人か、とホッとしたのも束の間。その子はまっすぐにこちらに歩いてくると、なぜか俺の席の前で立ち止まった。


「ひょっとして、君がヒロ君?」

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