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第21話 嘘だと言ってくれ

 ライブが始まってからは一瞬だった。


 いつも通り安定感のある梨々華のドラムに合わせながら一心不乱に弦をはじく。


 曲中でときどき現れるエミリーのハイトーンシャウトや茉莉のテクニカルなギターソロの度に観客から「おおッ‼」という歓声が上がるのが聞こえてきた。


 特に大きな事故もなく最後まで演奏を終えた俺たちは、気づいた頃にはホールからの大きな拍手に包まれていた。


「ブルー・アンド・ベリーズさん、ありがとうございました! それでは次のバンドの準備に移りますので皆さま少々お待ちください」


 演奏が終わるや否や、スタッフが容赦なくステージからの退場を促してくる。


 どうやら全体のスケジュールが予定よりも押しているようで次のバンドとの転換を急ぎたいらしい。


 スタッフに背中を押されるようにして早々にステージを下りた俺たちはそのまま楽屋へと移動した。


 楽屋に戻って来ても、ステージに上がったときの高揚がなかなか抜けず、ライブが終わったという実感が湧かなかった。


 ひとまずベースを下ろして近くにあったパイプ椅子に座る。腰を下ろして一息つくと、一気に疲労感が押し寄せてきた。


 俺たちしかいない楽屋は先ほどのライブの爆音が嘘みたいに思えるほど静かで、まだ微かに残っている耳鳴りだけが鮮明に聞こえてきた。


「いやー、私けっこうミスっちゃったなー。でも楽しかったよ!」


 最初に会話を切り出したのは梨々華だ。


 悔やみながらも明るい声に、室内の空気が和らぐ。


「うん、私もいっぱいミスっちゃった。でも良い出来だったと思う!」


 労うような茉莉の笑顔に、梨々華がうんうんと満足げに頷いた。


「そうね。でもなんだかあっという間に終わっちゃった気がするわ。次は十曲くらいはやりたいわね」


 本気なのかふざけているのかわからない口調でエミリーが続く。


「それもうワンマンライブじゃん」と俺が突っ込むと、エミリーが「そうかもね」と笑いながら俺の隣にあった椅子に腰かけた。


「まあいいんじゃない、ワンマンライブで。私たちならきっと上手くいくわ」

「まだ一曲しかないけどな」

「そんなのまた作ればいいのよ。皆で協力すればすぐに曲のレパートリーを増やせるわ。もちろんヒロ君にもたーくさん作ってもらうけどね」

「えぇ……俺、作詞作曲はさすがにできないって」


 いたずらっぽい笑みを浮かべるエミリーに俺が真顔で答えると、それを見ていた茉莉と梨々華が声を上げて笑い出した。ひっそりとしていた楽屋に高らかな声が響く。


 一体何がそんなにおもしろいんだと首を傾げつつ、俺は顔を合わせて笑う三人を見る。


(ま、いっか)


 よくわからないけど皆楽しそうだし、これ以上余計なこと言わないほうがよさそうだ。


 俺はなぜかにやけてしまう口元を隠すようにテーブルに頬杖をついて、目の前の微笑ましい光景を見つめた。


 とりあえず今は何も考えずに、もう少しこの余韻に浸るとしよう。



 

 楽屋でのおしゃべりに興じた後、俺たちはホールに戻って残りのバンドのライブを鑑賞した。


 やがてすべての演奏が終わると、出演者たちがホールに集められて閉会式が始まった。


「それでは皆様お待たせしました! これより結果発表に移ります。見事グランプリを受賞したバンドはさいたま地区の代表として決勝大会に進むことになり――」


 俺は司会進行役の声をぼんやりと聞きながら、天井のミラーボールを見上げた。


 星百合祭の日から唐突に始まったバンドだったが、なんとか無事に初ライブを終えようとしている。思えばここまで長かったようで、短かったような気もする。色々と大変なこともあったけど、こうやってライブハウスに出ることができたのはいい思い出だ。


 おそらく俺のバンドマン人生においてピークであろう今日という日をしっかりと胸に刻んでおこう。


 前方に目を向け直すと、ステージでは一人の壮年の男性がマイクを持って何やら話をしていた。


 あの人、今回の大会の審査員長だったっけ。たしかここのライブハウスの店長だと開会式の挨拶のときに言っていた気がする。


 そんなことを思いながら、男性の話に耳を傾けようとした、その直後――


「エントリーナンバー七番『ブルー・アンド・ベリーズ』」


 ……?


 ふいに名前を呼ばれて、目を瞬かせる。


 一瞬何が起きたのかわからなかったが、すぐに隣にいた茉莉たちがいっせいに飛び跳ね出した。


「いやあぁったあぁぁぁぁーー‼」


 奇声を上げながら、満面の笑みを浮かべて抱き合う三人。


 気付けば周囲の人たちも皆こちらに顔を向けて手を叩いている。


(は……? まさか、俺たちがグランプリ⁉)


 鳴り止むどころかさらに大きくなっていく拍手がその疑問の答えを告げていた。


 信じられないと言いたげに大口を開けていると、女子の輪から抜けた茉莉が俺に向かって一歩踏み出してきた。


「ほらね!」みたいな顔で、へんてこなピースサインを送ってくる。


 俺は言葉を失ったまま、その晴れやかな顔をただ見つめることしかできなかった。

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