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世界を解き明かせベータ  作者: 幸・彦
第1章 ノスタウの街の出会い
9/54

見えざる世界に向けて

店に戻る頃には、日が暮れていた。


「いやー楽しかったー!」

「そりゃ何よりだ。」

「ねえ…」


満足げなベータと、どこかげっそりしているラモンドとカンドフ。

対照的な様相の三人は、揃って店のテーブルを囲んで座る。

ほんの少し外を回るだけのはずが、街中引っ張り回される事になった。

あれこれ買い食いしたので空腹感はない。しかしとにかく疲れていた。


「さてと、だ。」


カンドフが用意したアイスコーヒーをひと口飲み、ラモンドが告げる。


「おいベータ。」

「はい。」

「とりあえず、率直な感想を言え。お前の話はそれからだ。」

「はあい。」


疲れからか慣れからか、ラモンドの口調がかなり砕けてきている。

ベータはベータで気にしていない。そのやり取りを見つつ、カンドフが

フフッと小さく笑った。


息苦しいのは好きじゃない。

究明は大事だけど、だからと言って取り調べ然とした空気も願い下げ。

こんな感じでいいんじゃないかな。



そう考えている自分が、カンドフは何だか嬉しかった。


================================


「実に浦島太郎の気分ですね。」

「誰だよそれ。せめて分かる例えをしてくれよ。」

「要するに、己の知らぬ間に時代が変わってた!…って実感ですよ。」

「やっぱり時の流れを感じたの?」

「ええ、それはもう。」


アイスコーヒーを美味そうに飲み、ベータは元気な口調で言った。


「元々いた世界とここが同じかは、あんまり判断できません。だけど、

もし同じ世界の未来なんだとすれば相当な時間が経ってます。」

「お前の見立てでどのくらいだ?」

「そんなに技術進歩の歴史に詳しいわけじゃないですが、まあ最低でも

数百年。下手すりゃ千年単位です。自動販売機まであったし。」

「…なるほどな。」


頷いたラモンドが、カンドフの方に振り返って告げる。


「悪い、そこの本とってくれ。」

「え?ああこれね。はい。」


来た時にカウンターに置いた何かの本をカンドフから受け取った彼が、

あらためてベータに向き直った。


「文字読めるか?」

「え?…ああはい。読めますね。」

「これは昔の行方不明者や、土地の開発についての資料だ。今朝早くに

役場でまとめて製本してきた。」

「ええっ、もしかしてあたしの事を調べるために?」

「地味に大変だったぜ。」


実感のこもった声で答え、ラモンドはその本の中ほどを開いて置く。


「このノスタウでの、過去三百年の行方不明者のデータが収まってる。

ざっと確認してみたが、少なくとも見つけた時のお前の特徴に該当する

不明者はいなかった。届け出がないだけかも知れんが、今の状況だ。」

「三百年、ですか…」

「それともうひとつ。」


少し語調を変えたラモンドの指が、別のページを開いて指し示した。


「スワンプトードが生息していた、あの沼だ。」

「あ、はい。あそこが何か?」

「あそこに関してはもっと古くから資料が残ってた。と言うかむしろ、

何にもなかった事が分かった。」

「え?」

「どういう意味?」

「言葉の通りだ。」


興味深げなカンドフの問いかけに、ラモンドは更に別のページを示す。


「土地登記簿を見ても完全な空白。街にあるのに開発計画なんて一度も

立ち上がった事がない。周りの森が禁猟区として保護下になってるのは

ともかく、あんな半端な場所にある沼をどうにかしようと考えた人間が

誰もいない。ってか、まともに人が足を踏み入れた記録すらもない。」


そこまで述べたラモンドが資料から手を離し、背もたれに体を預けた。


「六百年以上も前からだ。ここまで来るともう、何かしらの呪いの力が

あの沼から人を遠ざけていたとしか考えられん。カエルを倒して石化が

解けた人間がお前だけだったのも、変な意味で納得できてしまった。」

「つまり最低でも数百年、あの沼に足を踏み入れたのはあたしたち三人

だけって事になるの?」

「調べた限りでは、そう考えるしかないだろうな。」

「………………」

「なあ、ベータ。」


黙り込んでしまったベータをじっと見つめながら、ラモンドは言った。


「昨日お前が言ってた話。ハッキリ言ってワケが分からなかった。が、

ここまで不自然な事例が揃えば逆に納得できるんだよ。」

「…どんな納得ですか?」

「この世界が、誰かの作りものかも知れないって事への納得だ。」


即答だった。


================================


「本気で言ってる?」


さすがに呆れ声でカンドフが問う。しかしラモンドは冷静だった。


「もちろん。と言うか、そう考えた方がしっくり来る事が多い。なら、

開き直って話を聴くのも手だ。」


言いながらベータを見つめる顔に、ニッと小さな笑みが浮かぶ。


「どうせ突拍子もない話が出てくるのは確定だ。そうだろ?」

「まあ、そうでしょうね。」


いささか気を呑まれていたベータもまた、不敵な笑みを浮かべる。


「あらまぁ、似たもの同士。」


その様を見ていたカンドフでさえ、笑みを堪え切れなかった。


「ま、乗り掛かった舟よね。」



相変わらず呆れ声のそのひと言は、どこか嬉しげな響きだった。


================================


「お二人とも、ご理解いただき誠にありがとうございます。」


姿勢を正したベータがそう告げた。


「正直な話、昨日の時点では自分の置かれた状況に絶望していました。

ここがゲーム世界なのか違うのか、あたしを操作していたプレイヤーは

どうなってしまったのか。とにかく分からない事だらけでしたから。」

「その割によく寝てたね。」

「いやその…それはそうですが。」


若干赤くなりつつ、ベータは言葉を選んで続ける。


「ですが今日、お二人にあれこれと見解を述べてもらえたおかげで、

それなりに考えが整理できました。今いるここがどういう世界なのか、

その点も含めて。それで」

「ちょっと待て。」

「え?」

「言いたい事は分かるが、いちいち言い方が丁寧過ぎて回りくどい。」

「え?えと…それはその…」

「年上だから敬語を使わないと…と考えてるなら、そりゃお門違いだ。

少なくともお前は、この世界基準で最低でも数百歳なんだからよ。」

「そう言えばそうね。」

「ええー…」


さすがにベータの目が泳いだ。


「そうかも知れないけど…」

「年齢の事は、気にしなくていい。普通に喋れってだけだよ。」

「いいの?」

「もちろん。さん付けもいらない。カンドフって呼べばいいよ。」

「俺もだ。」


………………………………


「助かる!」


そこでベータは大きく息を吐いた。


「ホントにそれでいいなら助かる!じゃあ普通に喋るね!」

「ああ。んじゃ早く本題に入れ。」

「了解!」

「おなか空いてない?」

「後にしてくれ!」

「はあい。」


言い交わした直後、ベータは大きな伸びをした。おそらく、それなりに

気を張っていたのだろう。その事を察し、ラモンドたちは苦笑する。


どこから見ても正体不明だ。しかし少なくとも、人間らしさはある。

話を信じるかどうかは別としても、前向きに訊こうという気になれた。

これもまたブフレの古書の導きだというなら、なかなか悪くない。


おそらく待つのは厄介事だ。

だけど、それでも構わない。

俺はきっと、こんなのを待ってた。今だから確信できる。だからこそ、

古書を売る気にならなかったんだ。



ラモンドは、久々に未知への昂りを覚えていた。

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