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世界を解き明かせベータ  作者: 幸・彦
第1章 ノスタウの街の出会い
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お散歩タイム

「ええっと、ですね。」


口を開いたベータが、目をぐるぐると回していきなり言葉に詰まる。

言うべき言葉が見つからないというわけではない。むしろ、逆だろう。

何から話せばいいか分からない、と言った方がいい。傍から見ていても

それは明らかだった。


「その…」

「あのさ、ベータ。」

「は、はい?」

「だったら、まずちょっとこっちの質問に答えてもらえるかな。」


テンパっている様を見かねたらしいカンドフが、助け舟を出した。

救いを得たようにベータも頷く。


「はい。むしろそっちの方がいいと思います。」

「じゃあさ…」


言いながら、カンドフがラモンドにチラと視線を向ける。


「彼のお仕事は、特殊清掃員。この職名、知ってる?」

「いえ全然。内容も知りません。」

「マジで言ってるんだよなそれ。」

「え…ええ。嘘偽りなく。そこまで設定が練られてなかった…あ、いや、

何でもないです。」

「そうか。」


話を振られる形になったラモンドが小さなため息を突き、ベータの顔を

まっすぐに見据えた。


「じゃあ、今のこの世界…ってか、国の法律とかも全然知らないか。」

「知りません。」

「嘘じゃないな?」

「もちろん。」

「よし。じゃあ、むしろこっちから話をしよう。そっちの話を聴くのは

それからの方がいい。」


腹を括ったらしいラモンドが姿勢を正し、ちゃんと座り直す。

ベータたちもそれに倣い、しゃんと背筋を伸ばした。


「君が何なのかは、重要な疑問だ。昨日聞いていた話を思い返しても、

分からない事が多過ぎる。だったら君に訊くしかないが、今の時点では

何をどう訊くべきかも定かでない。それならまず、説明すべき君自身が

現状をきちんと知るべきだ。」

「確かにそうね。」


同意を示したカンドフが、すっくと立ちあがって告げる。


「じゃ、お散歩に行きましょう。」

「え?」

「そうだな。」


キョトンとするベータを差し置き、ラモンドも立ち上がる。


「ホラ立って。」

「あ、はい。」

「言っとくが、俺の仕事はよからぬ奴らの監視とか捕縛も含まれてる。

状況があまりにも特殊だったから、君がそういう輩だとはとりあえず

思っていない。が、絶対じゃない。くれぐれも逃げたりはするなよ。」

「逃げませんってば。」


今までずっと不安そうだったベータが、初めてはっきり即答を返した。


「よく分かんない世界で、いったいどこに逃げるって言うんですか。」

「まあ、そりゃそうだ。」

「何をするにもまず見聞。でしょ?カンドフさん。」

「そうそう、その意気で!」



答えるカンドフは、嬉しげだった。


================================


「おおぉ…!!」


気絶したまま運ばれたベータには、事実上これが初めてとなる光景。

それを目にした彼女の声は、甲高く裏返っていた。


「す、スチームパンクの世界!!」

「は?何だそれ?」

「蒸気機関が発達した近未来の世界ですよ!うわぁ、うっそぉ!!」

「そんなに違うの?」

「全然違います!ベータテスト版の世界って、中世ヨーロッパっぽい

世界観だったから…!」

「中世よーろっぱ?何それ?」

「あ、いえその…つまり…」

「何でもいいから歩こうぜ。往来で喋ってるだけなのは目立つから。」

「そうね。」

「行きましょう!」


明らかにテンション上がったらしいベータが、率先して歩き出す。

慌てて後を追う二人は、ほんの少し苦笑を浮かべていた。


まあ、困惑しているだけよりよほどマシだ。



そんな思いを共有しながら。


================================


ビビーッ!!


「おお、自動車ッ!」


クラクションに反応したベータは、感極まったような声を張り上げる。


「そんなに珍しいのかよ。」

「以前はホントに馬か馬車でした。課金すればドラゴンとかにも乗れる

設定でしたけど。」

「お金払うの?」

「まあその…はい、そうです。」

「金払えばドラゴンに乗れるって、そんな時代があったのかよ。」

「いえ、まだこの世界における話だとは断言できません。石化した後、

異世界転移した可能性もあるし。」

「何だよそれ。」

「テンプレです。」

「テンプレ?何それおいしいの?」

「それは天ぷらです。」

「少しは分かる事を話せよ。」

「ああっ!高架鉄道だ!産業革命!凄いぃッ!!」

「走るなってのに!!」


不審人物の話を聴いていたはずが、完全に観光案内になっている。

図太い上にマイペースなベータに、二人はやや振り回され気味だった。


================================


「それにしても、馬車が使われてた時代って、またずいぶん前よね。」


言いつつ、カンドフがベータに目を向けて続ける。


「この世界なら、って話だけど。」

「そうですよね。動力機関の発明に至っているという事は、想像以上に

時代が変わってるのかも…」


そこまで言ったベータが振り返り、二人に問いかける。


「じゃあ、電気もあるんですか?」

「デンキ?何だそれ。」

「聞いた事ないなあ。」

「ああっ、それは無いんだ…」


瞠目したベータが、通り沿いの店の玄関照明を指差して更に質問する。


「じゃあ、あれはどうやって?」

「魔動力だよ。」

「えっ!?」


ますますベータは瞠目した。


「魔力とか魔術とかって、この時代でも残ってたんですか!?」

「むしろそれは知ってるのか。」

「そりゃ重要な設定でしたから!」

「まあ落ち着けよ。」


詰問するかの如きベータの剣幕に、さすがのラモンドもいささか引く。


「残ってたというより、魔術体系と技術進歩を同じ概念で考える理論が

確立されたんだよ。もう、百年以上前の話だ。蒸気機関系が主力なのは

見ての通りだが、その中に魔術的なノウハウも組み込まれてるのさ。」

「へぇー、それは想像しなかった。まさかそんな風に世界が……。」


感慨深げに言ったベータの視線が、頭上を縦横に走るパイプラインに

向けられる。心配げなカンドフが、遠慮がちに質問した。


「やっぱり、ちょっとショック?」

「カルチャーショックです。」


見上げたままそう答えるベータに、今度はラモンドも問いかける。


「ってか、気に入らないのか?」

「いえいえとんでもない!」


予想以上に即答したベータの顔が、ぎゅんとラモンドの方に向いた。


「個人的に、めっちゃ好みです!」

「…そ、そうか。そりゃ何より。」

「ははは、困ってるね。」


掴めねえなあ、こいつ。

そんな内心がありありと顔に浮かぶラモンドを、カンドフが少し笑う。


「それじゃあ…」

「ああッ!!」

「今度は何だ!」

「あれ映画館ですか!!?」

「だったら何だよ。」

「映画あるんだぁ!信じられない!じゃあアニメとかもあります!?」

「あにめ?何それ?」

「あー惜しい無いんだぁ!惜しい!観てみたかったなあ!!」

「頼むから落ち着けって。」


ラモンドが、諦めに似た表情でそう告げる。

少し連れ出しただけのはずが、ここまでのリアクションに繋がるとは。

思っていたのとは全く違う方向で、二人はかなり疲れ果てていた。


だけど悪くない。


あんな特殊な状態から目覚めた身でありながら、ベータは実に明るい。

世界が全て変わってしまったらしい現実を前に、押しつぶされそうな

気配もない。むしろ、テンションをとことん上げている感じだ。


少なくとも、きちんと話を聴く事はできるだろうという確信がある。

いや、むしろ確信が今「持てた」。


「どのみち、古書は開いたんだし。とことん見極めましょ。」

「だよな、やっぱり。」


はしゃぐベータを見ながら、二人はそんな言葉を小声で交わす。

そのくらいしてもいい。そう思える程度には、目の前を歩くベータには

前向きな生命力がある。だったら、開き直って面白くいこう。


そう、盛大な謎解きに挑む。そんな展開も悪くはない。

本気でそんな事を考えられる己が、面倒でもあり誇らしくもある。



のどかな午後の散歩だった。

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