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世界を解き明かせベータ  作者: 幸・彦
第5章 ジオリルの少女
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新たなる道連れ

「とりあえず教えてよ。」


そう言ったのは、カンドフだった。語気は荒げず、淡々とした口調で

足元のミニ蜘蛛に問いかける。


「お店の中身は無事なの?」

『もちろんです。』


その体を左右に軽く揺らしながら、ミニ蜘蛛が即答を返した。


『ベータさんの銃の弾倉はいわゆる圧縮空間収納ですが、私の場合は

異空間収納。もう一段レベルの高い収納術です。サイズダウンの時点で

別の空間にマトリクスを移し変えていますので、全て無事ですよ。』

「マトリクスって…」


その単語を耳にしたベータの顔に、形容し難い表情が浮かんだ。


言いたい事はおおよそ理解できる。しかしその形容は、この世界自体が

やはり情報集合体であるという事の裏付けにもなり得る。今までも散々

虚構か現実かと迷ってきたものの、いざ核心に触れる言葉を前にすると

身構えてしまうのも事実だ。


「まあ、そういう魔術って事ね。」

「え?」

「便利なもんだなまったく。」


思考の堂々巡りに陥りそうになっているベータを尻目に、他の二人は

あっさりと説明を受け入れていた。そんな柔軟さに、ベータはちょっと

苦笑を浮かべて頭を振る。


そうだよね。

悩んだり怯えたりしても、先に進む事には繋がらない。どうせ自分には

明確な過去も後ろ盾も無い。なら、確たる現実を求め焦る必要もない。

どっちみち、今もそれを探すために旅をしているんだから。


そう。



前を向いた者勝ちだ!。


================================


開き直ってしまえば、シャクソンのもたらした機能は実に便利だった。

一軒の建物だった蜘蛛足が、本当に片手で持てるサイズになったのだ。

サイズだけではなく、重さまでもが劇的に軽減されている。文字通り、

片手で持つ事さえ出来るのである。折り畳み自転車など比較にならない

圧倒的な携帯性だった。


「ホントに中身は無事なのね?」

『もちろんですとも。』


念押しするカンドフへの即答には、自信が満ち満ちていた。


『先ほども言いましたが、この形態に変形した時点で内部の備品などは

別空間にそっくり移し替えてます。さすがに自由に取り出す機能などは

ありませんが、安全性という意味で言えば縮む前よりも確実ですよ。』

「へぇー。」


カンドフのみならず、傍らのベータも感心したような声を上げる。


「て事はつまり、備品だけじゃなく構造材とかも別空間にあるわけ?」

『ご明察です。素材は同じですが、サイズに合わせて再設計してます。

で、余った分は別空間に。』

「リメイクでミニランドセルを作るサービスみたいなもんね。」

『……………まあ、そうですね。』


ベータの例えがよく分からなかったのか、初めてミニ蜘蛛が言い淀む。

しかし確かに、そういうシステムと考えればすとんと腑に落ちた。


ただ単に縮小しているのではなく、サイズに応じて形も変えている。

なかなか革新的なシステムだろう。少なくとも今の現実世界にはない。

色々と、興味は尽きないところだ。しかし、今はもっと目の前にある

問題を早急に片付けるべきだろう。


これなら州を越えられる。



前途は洋々だ!


================================


「…ああ、やっと着いた。」

「思ったより遠かったね。」

「足痛い…。」


目指す州境がようやく視界に入り、三人はやれやれと大きな息をつく。

蜘蛛足が小型化した事に、三人ともおかしなテンションになっていた。

いったん元のサイズに戻すという、当たり前過ぎる選択を何故か一蹴。

このまま歩いていこう!という話になってしまったのである。結果的に

それは、かなりの長距離徒歩移動になってしまっていた。


「何やってんだかな、俺たち。」

「まあ、たまには運動しないと。」

「苦しい苦しい。」

『皆さん大丈夫ですか?』


疲れたで語り合う三人に、足元から気遣いの言葉が投げられる。

ずっとチョコチョコと随行しているミニ蜘蛛だ。さすがにその様子には

疲れの気配など微塵も見えない。


「仕方ないよね。」


ふうっとため息をつき、カンドフがミニ蜘蛛を見ながら呟く。


「あんな馬鹿げた拡大縮小を往来で何度もやると目立つし、かといって

その大きさであたしたちが乗るってのも無茶だし。」

「だよなぁ。」

「ここ一番って時に限定しないと、やっぱり目立つよね。それを…」


『いや、そうでもないですよ。』

「「「は?」」」


食い気味に言い放ったミニ蜘蛛に、三人の尖った声が返る。


「何がそうでもないんだよ。」

『確かにこのサイズで上に乗るのはバランス的に難しいでしょうけど、

出力的には問題ありません。何しろ元々はあのスケールなんですから。

人三人くらい、楽勝で運べます。』

「…だけど、そのサイズじゃ」


ギュイン!


ベータの言葉を待たず、ミニ蜘蛛は一気にその大きさを変化させた。

元に戻るのではなく、大型バイクを思わせるサイズと重量感の形態に。

ただの拡大ではなく、各部の構造がサイズに合わせて複雑化したのが

ひと目で見て取れた。


『このくらいなら乗れますよね?』

「…………………」

『あ、乗りにくいなら、屋根の上にサドル付けましょうか?』

「…………………」

『あの、どうされましたか?』


一瞬の沈黙ののち。


「「「出来るなら早く言え!」」」


乾いた叫びが、きれいに重なった。


『え?説明したと思ってましたが…足りてませんでした?』

「だからぁ!!」

「何でもっと早く…」

「ああもういい!!」


疲れ果てた怨嗟の声を、ラモンドが雑に遮る。


「さっさと街に入って宿を取ろう。いつもの部屋よりいい宿を。」

「…うん。」

「そう、ね。」

『お疲れのようですからね。それが最適だと思います。』


「「「お前が言うな!」」」


不毛なツッコミがまたも重なった。


仰ぎ見る空には、気の早い一番星が瞬いている。



明日もいい天気になりそうだった。

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