目指す世界の形
多分、これが最後のハードルだ。
どんな世界にするのかという点で、あたしという存在は相性が悪い。
理由はたったひとつ。
あたしが、清水健児という人の事を知っているという点である。
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やろうとしてる事は、いつも通りのゲーム制作。それは間違いない。
そして、誰にも言えないサブの目的が健児さんの意識のダウンロード。
チームの面々にも、さすがにこれを話すわけにはいかない。違法だとか
そういう事はないけど、もし話せばものすごいプレッシャーになる。
いくら赤の他人と言っても、現実の人の命だ。ゲーム開発者が軽々しく
背負うものじゃない。非常に勝手な理屈になるけど、万が一この行為が
糾弾されるような事態になったら、潔くあたしが全ての罪を被ろう。
…いや、被るって言ってもそれほど重罪にはならない。そもそも現状、
健児さんはもう既に死を待つだけの身になっている。何もしなくても、
再来年に安楽死が待っているんだ。あたし自身が血縁者である以上は、
その判断にあれこれと罪状を被せる権限はないはずだ。そう信じよう。
罪になるかどうかを省くとしても、やはり気安く他人は巻き込めない。
あくまでも普通のゲーム開発として進めていき、無事に発売された後で
健児さんの意識をダウンロードする形になる。後のサポートはもはや、
あたし自身の個人的なお仕事だ。
要するに何が言いたいかと言うと。
世界の設計は現状、このあたししか出来ないって事だろう。
実に深刻である。
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どんなゲームでも、最初から完璧に作り上げられてるなんて事はない。
ベータテストを繰り返し、理想形に近い形でアップグレードしていく。
現在のオンラインゲームってのは、そうやってリリーズ後に仕上げる。
もちろん、今回のゲームも同じだ。
…だけど、世界設計をこのあたしがやるってのはどうにも引っ掛かる。
できないって意味じゃない。むしろそれがあたしの本職なんだから。
ここで言うのは技術とか技能とか、そういう問題じゃない。
あたしが考えたら、まず間違いなく「健児さんのための世界」になる。
意識しないようにするのは無理だ。フラットな思考では考えられない。
そこには悲しいかな、確信がある。自分の事だから分かってしまう。
それの何が悪いかって?
何もかもだ。
誰かのために創られた世界なんて、世界と呼ぶよりただの「箱庭」だ。
いかなる設定になっていようとも、健児さんを中心に回る世界になる。
あの人の境遇を知っていればこそ、そうなってしまうのは絶対だろう。
そこに生まれるのは、新たな生き方じゃない。ご都合主義だけの世界。
主人公にとって都合のいい摂理が、根幹を成している底の浅い世界だ。
無条件で好意を寄せてくるヒロインとか、楽々で最強になれる力とか。
そんな忖度だらけの世界に否応なく放り込まれる健児さんが、果たして
まともな人生を歩めるのだろうか。個人的には「無理だ」と断言する。
陰キャの妄想じゃないんだ。そんなゲームが面白くなるはずがない。
いや、もしかしたら健児さん中心と見抜く人だっているかも知れない。
創世神であるあたしが一人の人間にこだわる以上、絶対に世界は歪む。
それが望ましい形にならないのは、火を見るより明らかなのである。
少なくとも今のあたしは、そういう身内びいきをしてしまう人間だ。
じゃあ、どうするんだ。
理想を言えば、いくつかの候補から世界を選びたい。そうする事で、
自分でも考えつかなかった設定とか仕様とかが見出せるかも知れない。
選んだ世界を、順次アップグレードしていければまさに理想的だ。
けど、そんなの無理に決まってる。理由はわざわざ考えるまでもない。
ゲーム開発は時間と手間がかかる。いつの事態でも変わらない事実だ。
そんな状況で、健児さんに合う世界を見出すためだけに何種類も試作を
繰り返すなんてのは絶対に不可能。ブラック過ぎてストライキが起こる
未来しか見えないよ。少なくとも、そういうリサーチは他社のゲームか
何かを参考にするしかないだろう。非常に不本意な話だけど、少しでも
多様な選択肢を得ようと思うなら、それしかない。
自分の考えたゲームこそが正解ですなんて、そんな上から目線な事…
…………………………………
……………………………………
うん?
ちょっと待てよ。
多様な選択肢を得ようと思えば…
そう、ゲームが沢山あればいい。
オンラインゲームとしての完成度は稼働開始後も上げていけるから、
そんなに作り込む必要はない。
とすると…
…………………………………
そうだ。
ユーザーに創ってもらえばいい!
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「今の時代に、ここまで本格的かつ大規模なメイキング系を出すのは
なかなか冒険ですね。」
「逆に面白そう!」
あたしの企画書を読んだ制作チームの面々は、興味津々と言った態で
あれこれ言い合っている。だけど、少なくともネガティブな雰囲気には
なっていない。大いに結構ですね。
確かに、コンストラクションツールで独自のゲームを創るなんてのは、
今さらメーカーがやる事じゃないと思われるだろう。つまり時代錯誤。
だけど、一周回って新鮮って事にもなり得る。何よりこのシステムは、
ただ創って発表するだけじゃない。ちゃんと正式なリリースになるし、
プレイヤーが増えれば創った人にもちゃんとお金が入る事にもなる。
かなりの力技だけど、あたしの創るゲームからどんどん派生した作品が
生み出されていくって事だ。人気が出れば、プロクリエイターになれる
道が開けるかも知れない。そして、ユーザーがサービスを提供するって
形が確立できれば、そうそう簡単にサービス終了にもならないはずだ。
そしてあたしは、ギリギリまでそのゲーム世界を渡り歩いて捜し出す。
健児さんをダウンロードするのに、もっとも相応しいと思うゲームを。
結局、丸投げじゃないかって?
そんな事はない。むしろあたしは、自分で創るよりも健児さんに対して
責任を持って臨もうと思ってるよ。
何より大切なのは、持続性である。
どんなに秀逸なゲームを創っても、世の中に飽きられればそれまでだ。
サービス終了に至らなくても、誰もプレイしなくなった時点で終わり。
それ以上、世界は拡がりを持てないままきっと停滞してしまうだろう。
だからこそ、プレイヤー自身が己の思うゲーム世界を構築できるという
システムを整える。もしかしたら、プロが興味を持つかも知れない。
埋もれた才能を発掘する事にもなるかも知れない。あたしはとにかく、
元となるゲームを創って世に放つ。そしてその中から、健児さんという
ひとりの人間が生きていける世界を見つける。誰かが創るその世界を。
あたしは、神様にはなりたくない。
なりたいとすれば、後見人だ。
健児さんという人間を、ゲーム世界の中で見守っていける存在だ。
よし。
まずは全力で制作に臨もう。
その名は『オメガクリエイター』。
待っててよ、健児さん!




