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世界を解き明かせベータ  作者: 幸・彦
第4章 彼女たちの目指すもの
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ハードルを越えろ

「これはまた…珍しいコンセプトを打ち出してきましたね。」

「自分でもそう思います。」


三日後。


新ゲームの企画書を呼んだ社長は、想定通りのリアクションを見せた。

まあそうだろうね。あたしからは、ほぼ絶対に出ない発想だったから。

だけど、悪くないはずだ。


「でも面白い。想定できない部分が大きいってのもまた、大きな強みに

転換できるかも知れませんね。」

「じゃあ、行けそうですか?」

「ええ。来年の発表ラインナップに入れましょう。ただし…」

「何でしょうか?」


言われる事はほぼ分かってるけど、あえて訊いてみた。


「可能な限り急いで詰めて下さい。このゲームを売るためには、従来と

違う宣伝や営業が必要になります。そこで停滞させたくないので。」

「やっぱりそうですよね。」

「具体的な開発より、まずしっかりコンセプトを固めるのが先決です。

早急にプロジェクトを立ち上げて、ガンガン進めて下さい。」

「了解です!」


よっしゃ、GOサインが出た。

想定通り、急げとも言われた。

あたしとしても、望むところだ。



急がなきゃいけないってのは、別の意味でも切実だからね。


================================


健児さんが体から離れ、生きていくためのゲーム世界。

やると決めた以上は、全力で創る。母たちが想定していた以上のものを

創ってこそ、クリエーターとしての本懐が遂げられるってもんだろう。

だけど、越えるべきハードルの数はとにかく多い。

とにかくひとつずつ考えてみよう。


まず、そもそもの大前提として。

転生した時、健児さんはどういった精神状態で覚醒するのだろうか。

「冷凍睡眠に入る直前」の記憶から意識が続くのか、それとも睡眠中も

意識が継続していたのか。あるいは完全に記憶をリセットし、文字通り

赤ん坊のような状態で目覚める事になるのだろうか。


それとなくエターナルメモリーズの電話相談で訊いたけど、これに対し

確実な答えはなかった。というか、向こうも分からないらしかった。

もしもの想定として質問したけど、そんな想定は向こうにもなかった。

テストケースなんかもほぼ皆無だと思うし、そりゃ分からないだろう。

だとすると、出たとこ勝負になる。…いや、リスキーだなあそれって。


とは言うものの、どんな状態であれ「誕生」からスタートするってのは

さすがに却下だ。ダイジェスト的に進行できない以上、そんな悠長な事

やってる時間はない。たとえゲーム世界でも、時間は飛ばせないんだ。

考え方を間違えちゃいけないよね。


とにかく、転生した時の「状態」に関してはいくつか想定が成り立つ。

でも、どの想定であったとしても、最低限のナビは必要になるだろう。

記憶が無いのなら、転生した世界を現実世界だと認識させる事になる。

記憶があるなら、もう事情を話してざっくり理解してもらうしかない。

その上で、バーチャル世界での生を全うしてもらう事になるだろうな。


どっちみちナビは必須だ。それも、通り一遍なガイダンスじゃダメだ。

文字通り、彼のサポートを任せる事が出来るような存在でないと。


とすれば、プレイヤーとは別定義のサポートアバターが必要になる。

ゲームの標準装備ではなく、まさに健児さん専用の「お目付け役」だ。

もしかしたら、普通の人間の容姿でさりげなくサポートするという形も

アリかも知れない。ここは追い追い詰めて行こう。ゲームにとっては、

健児さん自身もサポートアバターも隠れキャラ的な存在になる…かな。


健児さんをダウンロードするのは、ゲームサービスが開始されてからに

なるのは間違いない。だとすれば、とりあえずゲームは普通に創ろう。

妙なバックドアを仕込んだりせず、堂々とプレイヤーとして参加する。

肉体が無い事実を運営に悟らせないように、あたし自身が細心の注意を

払って担当しよう。それはまさしくあたしの責任だろうから。


よし。



まずはそんな感じで考えていく。


================================


技術的な問題などに関しては、今は棚上げするしかない。あまり時間が

ない事も踏まえれば、多少強引でもゲーム世界に呼び込む事になる。

「そっちはまだ工事中です」とか、何しろそういうノリで押し切ろう。


無責任とは言われたくない。

そもそも無理な事をやろうとしてるわけだから、何もかも完璧な世界を

提供できないって点は目をつぶってもらう。あたしにはそこまで無理を

する義理はないし、母たちもそれは望まないだろう。とにかく少しでも

人としての記憶や思い出を、その心に刻む手助けをしたいってだけだ。

現状でのベストを尽くすんだから、本人にも絶対に文句は言わせない。

どうしても気に入らないなら、その時点でシャットダウンするだけだ。


このくらい割り切ってこそ、自分のベストを引き出せるってもんだよ。


さて。


限りなく開き直った上で、具体的にどんなゲーム世界を創るかって話。

純粋な意味で、制作上のハードルとなるのはここからだ。


大前提として、現実そっくりな世界というのは無理があり過ぎる。

そもそも「現実」って何だろうか。単純に考えればまさに今この瞬間、

あたしの周りにある世界をそのままトレスするという事になるだろう。

素材が揃ってるわけだから、細かくデザインする必要はない。そこは、

間違いなく利点となり得るだろう。


だけど、健児さんにとっての「今」は64年前だ。それ以降の彼は、

ずうっと眠ったまんまなんだから。昔風に言えば浦島太郎状態だろう。

今この世界をトレスしたとしても、何ひとつ馴染めないのは明らかだ。

浦島太郎の様に未来を楽しむというコンセプトも考えられなくはない。

しかし、そうすると別のハードルがまた出現する事になる。


そもそも、今作ろうとしているのはただのバーチャル世界じゃない。

純然たるゲームである。とすれば、健児さんだけの世界にはならない。

そんなもの創ってどうなるんだよ。システムがクローズのままでは、

拡張性が生まれない。って言うか、他のキャラが残らずNPCになる。

どうしようもないほど、閉鎖されたメタバースだ。電子の牢獄だよ。

人との関わりを得ようとするなら、絶対にオンラインゲームとして創る

必要がある。だからこそあたしが、こうして頭を悩ませてるんだから。


とすれば、当然の問題がひとつ。


現在にせよ64年前にせよ、現実をそのままトレスした世界なんかで、

どんな面白いゲームが作れるんだ。虚構を組み込める幅が狭過ぎるよ。

ただでさえ世界は飽和してるんだ。ゲームの世界くらい、もっと自由な

空想世界でないといけないだろう。要するに、楽しんだ者勝ちだから。


じゃあ、その上で次の問題。



どんな世界にすればいいんだろう?


================================


無難なのはやはり、ファンタジー系のRPGとかだ。剣とか魔法とか、

何しろそういうやつ。あんまりSFテイストが強いの得意じゃないし、

より多くのユーザーを取り込もうと思ったら無難な方がいいだろうし。


そして、あんまり殺伐とした世界観にはしないって事。

もちろん、ゆるふわが過ぎる世界はNGである。それじゃ人気出ない。

サービスとして定着させたいなら、ある程度の冒険要素は必須だろう。

だからって、救いのない世紀末世界にしてしまうのは絶対にダメです。


ほどほどのファンタジー。現時点で出せる最適解が、多分コレだろう。

そういうゲームを創った事もある。それなりにノウハウは蓄積してる。

だったら早速、概要のデザインを…


………………

…………………


ちょっと待って。

そんな簡単に決めていいの?



また新しいハードルが、己の目の前に立ったのが見えた気がする。


================================


『うーん、やっぱりファンタジーがいいと思うけど。』

『個人的に言うなら、俺は近未来を舞台にしたのがいいと思うなあ。』

『俺的には、60年前を舞台にしたローファンタジーがいいと思う。』


試しに母と伯父たちに電話で要望を訊いてみたら、見事にバラバラ。

「ゲーム世界」って定義だけでは、全然絞り込めない事実が判明した。

少なくともこの三人の認識の齟齬はクリアしないと、先には進めない。


…って言うか、どの意見もそこそこ納得できてしまうのも困りものだ。

特に始さんの言うローファンタジー案は盲点だった。健児さん自身が、

かつて生きていた時代を舞台にするという発想だ。そこに何かしらの

ファンタジーRPG要素を組み込む事により、ノスタルジックな空気の

ゲームとして仕上げる。何かすごくいい感じになりそう。悔しいけど。


だけどそれ、売れるだろうか。


中世とかじゃなく、60年前という何とも中途半端きわまる時代設定。

当時子供だった人はもう老人だし、それ以降の世代には馴染みがない。

それだったらいっそ、昭和とか平成とかの方が面白味が出るだろう。

やっぱり、あまりにも商業ゲームとしての価値が見出しにくい感じだ。

始さんには悪いけど、これは却下。

もちろん母や伯父たちの意見だけを基にする気はない。ってか、それは

あたしのプライドに関わる。プロのクリエイターが丸投げは問題外だ。


しかし実際、目の前に並ぶハードルがあまりに高い。依頼された当初は

考えてなかったけど、いざやろうと思えばこんなに難しいのかと痛感。

やるかやらないかの葛藤はもう既に乗り越えたし、いいゲームにすると

心に湧き立った意気込みも本物だ。だからこそ見えてくる問題がある。



ここからのハードルは、現実的だ。


================================


開発目的が不純なのはもう、今さら言い訳しない。あたしにできるのは

いいゲームにする事だけ。健児さんにとってのいい世界であり、同時に

商品としてもきっちりユーザーへの魅力を発信できる。それが大事だ。

少なくとも、技術的な面の問題にはある程度柔軟に対応する気でいる。


しかし、じゃあどんな世界設定ならいいんだろうか。


母たちに求めたのは、あくまで参考程度の意見だ。最終的に創るのは、

ゲームクリエイターであるあたし。任された以上、全力を尽くす結果に

文句は言わせない。たとえ母でも。


とは言っても、そうそう自信持って世界を創る事なんて出来ないよ。

現代においても、ゲームをゼロから創り上げるのは大変だ。ましてや、

有名作の続編やスピンオフでもないオリジナルタイトル。それだけでも

不安は山積みである。ある程度まで売れないと…というプレッシャーも

今から感じてる。今までに創った時とは違う、独特のプレッシャーだ。


ぶっちゃけ、やり直しは利かない。そこまでの無茶はできないって話。

苦労して創っていくゲームだから、気に入らなかったなんて事は絶対に

言えない。リテイクもあり得ない。事実上の決め打ちになるのはもう、

割り切るしかないだろう。


「でもなぁ…」


あたしは、頭を抱えてしまった。



あまりにも重過ぎる、その責任に。

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