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世界を解き明かせベータ  作者: 幸・彦
第3章 ロタストリグの城
47/54

そして次の街へ

「ホントにこれで戻れるの?」

「そのくらいの融通は利きます。」


ベータの問いに答えるシャクソンの声は、若干ドヤっていた。


「何と言っても私の主は、この城と街の創造主なんですからね。」

「だよね、うん。」


頷いたベータがニッと笑う。傍らで見ていたラモンドたちも笑う。

見た目とあまり釣り合っていない、妙に俗っぽいシャクソンの人柄に。

そして思う。



ずっと寂しかったのかもな、と。


================================


結局、この地でそれ以上何かを知る事はなかった。

ロタストリグがラストプレイヤーであったという事実は、間違いない。

「永劫の思い出」なるものの一部も入手できた。ここに来た目的は、

これで果たせた事になる。


とは言え、まだまだ1人目である。どこまでも先は長い。だとすれば、

ここでのんびりしているのも何だか心が焦れる。楽しそうに話していた

シャクソンも、発とうとする三人を止めるような様子は見せなかった。


「ロタストリグ様が遺されたものを得たのですから、最後の1人まで

到達して下さい。私が皆さんに真に望むのは、その結果だけです。」

「そりゃそうだね。中途半端なのは一番カッコ悪いし。」


「ブフレの古書」を抱え直しつつ、カンドフがそんな言葉を返す。


そうだ。

怪しい話に乗っかってここまで来たとは言え、もう後戻りする選択など

とうに無くなっている。だとすればやっぱり、最後まで達成したい。

果たしてこの世界はゲームなのか、それとも現実なのか。その答えは、

少なくとも少しは近付いたはずだ。


「ええ、ガンガン進んで下さい。」



そんなベータたちに、シャクソンはそう言って愉快そうに笑った。


================================


塔の頂の庭園隅に設けられていた、東屋のような転移装置。

これを使えば、城の外にある同様の東屋に一瞬で移動できる。これなら

塔を降りて出ていく必要もない。

それは辿り着いた者に対する、城主ロタストリグなりの配慮だった。


「目立たない場所にありますから、誰かに騒がれる心配もありません。

お疲れさまでした。」

「あなたはどうするの?」

「私はここを任されていた者です。役目を終えた今、在り続ける必要は

もうありません。」

「え…」


そこでベータが目を見開いた。


「つまり、死んじゃうって事?」

「死という概念が当てはまるかは、何とも言えません。私次第です。」

「…………………」


それ以上、ベータは何も言わない。気安い言葉はかけられない。

それは3000年の永きに渡って、ここを護ってきたシャクソンへの

侮辱になるかも知れないからだ。


「私次第です」


その言葉の真意を理解できるのは、少なくとも自分たち三人ではない。

ロタストリグがもう存在していない以上、シャクソンの選択にあれこれ

意見できる者はいない。


「ありがとね。」

「ありがとよ。」

「お疲れさま。」


三人は、それぞれ自分なりの言葉をシャクソンに残す。多分、それこそ

相応しい労いになると信じて。


「こちらこそ、ありがとう。」


もう一度愉快そうに笑いながら手を振り、シャクソンが言った。


「成し遂げて下さいね、必ず。」

「もちろん!」


転移装置の中で、ベータたち三人も笑いながら手を振って答えた。

やがて光が、彼らを柔らかく包む。


次の瞬間。


ベータたちは、ちょうど正面に城を望む東屋の中に立っていた。

さっきと同じ造りでありながらも、明らかに違う場所。周囲には人も

まったくいない。


顔を見合わせた三人は、やがてほぼ同時に大きなため息をつく。



呆気ない幕切れだった。


================================

================================


翌日の昼前。


「んじゃ、行きますか。」

「ああ。」

「行きましょう!」


ガコオォォン!


号令と共に『蜘蛛足』が多脚形態に変形し、ゆっくりと歩き出す。

街の者たちはもう、自分たちに目を向けてくるような事はなかった。


「やっぱり俺たち、この街の中ではどこまでも異分子だったんだな。」

「そうみたいね。」

「3000年も経ってるのにね。」


交わす言葉に独特の実感がこもる。

ベータもラモンドもそしてカンドフも、このラクネリアの街にもう一度

来てみようは思わなかった。別に、出ていけと声を荒げられたわけでも

ない。むしろ歓迎されていた気さえする。実際、蜘蛛を神聖視する街の

人間にとって、自分たちはけっこう特別な客人だったのかも知れない。


だけどやっぱり、この街は遥か昔のプレイヤーに創られた「箱庭」だ。

それを不幸だとは思わないものの、積極的に関わりたいとも思わない。

歳月を経た発展の向こうに、幸せな都市が形成されたならそれでいい。

余計な事を言う気もなかった。


「永遠なれラクネリア、ってね。」


ポツリと呟いたベータが、もう一度入口窓の外に視線を向ける。


と、その刹那。


「ちょっ、停まって!!」

「え?…何、どしたの?」

「いいから!」


ガコン!


停止した『蜘蛛足』の入口を開け、ベータはポンと外に飛び降りた。

何事かと歩み寄ったラモンドたちも同様に、入口から飛び降りる。


「何だ、何が見えたんだ?」

「えーと…あ、あれ!」


ベータが指差したのは、頭上に走る細いスチーム管だった。そこから、

銀色の物体がスーッと降下してくるのが小さく見える。三人ともそれに

見覚えがあった。


「あいつは…」


ラモンドの言葉の途中で、降下した物体―機械蜘蛛がベータのかざした

右の掌にポンと降りた。その背に、小さな何かを器用に抱えている。


「どうしたの?」

「お 餞別  です  」


今となってはシャクソンの声と判る割れ声でそう答えると、機械蜘蛛は

足4本でその物体―金色のコインを高々と差し出した。その表面には、

精巧な蜘蛛のレリーフが刻印されているのが見える。


「くれるの?」

「ど  うぞ」

「これって、古書のスロットに投入すればいい系のコイン?」

「そ   うです」


コインを持ったままの態勢で、機械蜘蛛は小さく全身を使って頷いた。


「困 ったと  きにお使い下さ  い。きっとお役に立 ちます。」

「分かった、ありがと!」


迷わず答えたベータの指が、そっとコインをつまみ上げる。と同時に、

機械蜘蛛もポンと飛び降りた。糸を繋いだままだったらしく、そのまま

空間にぶら下がっている。


「そ れ では !」


キュイン!!


最後のひと言を遺して、機械蜘蛛は赤い光の粒子となって散った。

その光の粒のひとつが、三人の間をすり抜けて店の入口へと向かう。


「あ、ちょっと!」

「何、どうする気?」

「戻れ戻れ!」


大慌てでドヤドヤと店内に戻ると、光はまだカウンターの上にチラチラ

滞空していた。やがてそれは、脇に立てられていた「ブフレの古書」に

吸い込まれていく。


【条件クリア】


久々の音声と共に、古書全体が淡く光を放つ。それを目にしたベータが

地図ウィンドウを目の前に出した。


「あ、やっぱり。」

「どうした?」

「ホラ、これ。」


指し示した所で点滅しているのは、ラストプレイヤーを示す光点だ。

どうやらさっきの光が、次の目標を定めてくれたらしい。


「ってか、今ここで?」

「忘れてたのかな、シャクソン。」

「案外そうかもな。」


言い交わした三人は笑い出す。

何はともあれ、次に目指すべき場所の手がかりを得た。

ならもう、前を向いて進むだけだ。


やがて『蜘蛛足』は再び動き出す。三人を乗せて、もうすぐ街を出る。

そこでベータは、ふと操縦席に座るカンドフに目を向けた。その横顔に

迷いや憂いの色は浮かんでいない。まっすぐに前を見据えている。

何も言わず、ベータも前を向いた。

答えの出ない事は、後回しでいい。今はそんな感じで構わないだろう。



城に挑む前の検証で判明していた。

カンドフは、ステータスウィンドウを実存の壁として認識できない。

ベータと同じように、ホログラムとして透過する。ラモンドとは明確に

異なっていたのである。


今までの見聞から推定するならば、カンドフはNPCの子孫ではない。

ゲームプレイヤーか、それに準ずる存在という事になる。しかし現状、

本人には何の心当たりもない。今、その言葉を疑う気にもなれない。


できる事、分かった事が増えたのと同時に、謎もまた増えた。

解き明かすために、前に進む。今はもう、それでいいと割り切ろう。



よく晴れた、出発の日だった。

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