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世界を解き明かせベータ  作者: 幸・彦
第3章 ロタストリグの城
46/55

永劫の思い出

「さて、じゃあお渡しするものを」

「え?ちょ、ちょっと待ってよ。」


あっさり話を変えたシャクソンに、ベータが慌てた声で訴える。


「もうちょい世界の成り立ちとか、説明してくれるんじゃないの!?」

「そんなわけないでしょう。」


お釈迦様顔でしれっとそう即答し、シャクソンは大きく肩をすくめた。


「お話した通り、私はロタストリグ様に創造された従者に過ぎません。

ゲームプレイヤーですらない以上、立ち入った事を軽々しく話すような

不遜な真似は出来ないんです。世界そのものの構造を知っているのも、

ある意味では禁忌でしょうから。」


そこまで言ったシャクソンの目が、ざっと庭園を見回す。相変わらず、

悠久の平穏に満ちた光景だった。


「禁忌の存在であればこそ、ずっと私はここに留まっていたんですよ。

いたずらに世界を乱すような事は、ロタストリグ様も望まれないから。

ここへ至るまでの道があれほど苛烈なのも、そのためです。」

「…まあ、それは分かるけどさ。」


勢い込んだベータも、シャクソンの語る話に渋々といった態で頷く。


確かにその通りだ。

この世界の真相に至るために必要とされたのは、ラストプレイヤーに

会って「永劫の思い出」と呼ばれる何かを各自から受け取る事である。

本人に会える可能性は低いものの、目的はあくまで「永劫の思い出」。

まして、ロタストリグは1人目だ。この時点で彼の従者から答えなど、

聴いていいはずがないのである。



どんなに気が急いたとしても、その事実は受け入れるしかなかった。


================================


「それで、どうすりゃいいんだ?」


じっと話を聞いていたラモンドが、あらためてシャクソンに問う。


「俺たちをこの場所まで導いたのは『ブフレの古書』だ。目指している

「永劫の思い出」ってのは、どんな形で受取るものなんだよ。」

「ええ、古書をお持ちならいたって簡単です。すぐ用意しますから。」


事情を知っている風のシャクソンが軽く手を振ると、目の前の石碑の

土台が淡く発光した。そして中央が開き、コネクターのようなものが

ゆっくりとせり出してくる。先端部には、マイナスドライバーに似た

接続端子が設けられていた。


「こちらです。」

「…何これ?どうやって使うの?」

「この接続端子の先端を、背表紙の投入口に接続すればいいんです。」

「投入口って、コインの?」

「そうです。」

「ええー…」


さすがにベータは呆れ声でうめく。

自分から「古書」を名乗る間抜けさはまあいいとして、何だこの本は。

とことん情報を出し渋るわ、やたら法外な額の課金を要求してくるわ。

挙句の果てにこんな怪しい端子に、そのまま接続できるときた。もう、

本であるという体裁を保つ気さえもないらしい。


「まあ、もう何でもいいけどさ。」


若干ヤケクソ気味のベータが、古書をカンドフから受け取った。実際、

あらためて見ると本らしさもかなり怪しい。弾丸が直撃したはずなのに

傷のひとつも無い。どこから見てもオーパーツといった態である。が、

もうそこは気にしない。頑丈なのは大いに助かるし、端子接続なんかが

できるなら、大いに捗るだろう。


今はとりあえず、ロタストリグ公爵が持っていた「永劫の思い出」だけ

譲り受けられればいい。後の事など考えるだけ無駄だろう。



何事も、まずはきちんと前の段階を終わらせてこそだ。


================================


カチッ!


接続端子が微かな音を立て、確かに接続したという感触が手に伝わる。

古びた本というより、ノートPCと形容した方がしっくり来る仕様だ。

こんな機械的な作業で、何をどんな形で受取ると…


「え!?」


驚きの声を上げたのは、古書を手に持つベータだった。表紙が勢いよく

開くと同時に、本全体が淡い発光を始めたのが判る。やがて、それまで

固く封じられていた続きのページが勢いよくパラパラと開かれていく。

その1ページ1ページに、凄まじい速さで文字列が追記されていくのが

隙間から見て取れた。


「…ずいぶんダイナミックね。」


傍らで眺めているカンドフが、やや引き気味の口調でそう呟く。確かに

かなり異様な光景だった。反対側で見守るラモンドもまた、形容し難い

表情を浮かべているのが窺えた。


その不条理な現象は、しかしわずか数十秒しか続かなかった。

やがて文字列の追記が止まり、開放されたページがゆっくりと閉じる。

それと同時に発光も収まり、古書は古書らしい静謐を取り戻していた。


カチッ。


接続の時より小さな音が再び響き、ベータがそっと端子を引き抜いた。

どうやらこれで終わりらしい。接続が外れた端子が、ゆっくりと土台に

戻っていく。



「己の役目を終えた」という形容が相応しい、粛々とした動きだった。


================================


「以上です。」

「ああ…うん、ハイ。」


シャクソンのひと言に曖昧に頷き、ベータは手の中の「ブフレの古書」

をあらためて開く。先ほどの追記で開放されたページも、特に問題なく

開く事ができた。


しかし。


「…何だこれ。」

「さっぱり読めない…」

「だよね、やっぱり。」


ラモンドとカンドフの言葉は、実に率直で当然のものだった。正直な話

ベータも同意するしかなかった。


びっしりと書き込まれた文字列は、この世界の文字ではない。これまで

ステータスウィンドウ内に日本語の表記が現れた事もあった。しかし、

もちろんそれとも違う。とすれば、まったく異なる言語なのだろうか。

しかしこれは、何となく…


「もしかしてこれ、プログラム?」


口に出した事で、確信めいた思いが胸に宿る。おそらくは間違いない。

アルファベットや数字を使用してはいないものの、これは何かしらの

プログラムに属するものだろう。

今のこの世界が、ゲーム世界に準拠する概念のものだと仮定すれば。

プログラムという概念の持っている意味も、大きく変わってくる。


だとすると…


「そうです。使用されている言語に関しては、教えられていません。」

「つまり実行しない限りは、中身が何か分からないって事よね。」

「だと思います。」

「なるほど…」


納得したらしいベータが、文字列を見つめる。念のためウィンドウを

出して確認してみたものの、やはり解読できる気配はなかった。

心に浮かぶ言葉はひとつ。



デスヨネー、やっぱり。


================================


「つまり、一人二人に預けられてる部分が明らかになった程度じゃあ、、

内容は分からないって事か。」

「まあ、当然だろうね。」


ざっくり説明を受けたラモンドたち二人も、落胆した様子などはない。

ある意味、予想通りだったという事なのだろう。


「即日的な利益になる何かが得られたりしたら、他のラストプレイヤー

探そうって気にならないだろうし。せいぜい苦労しろって事でしょ。」

「達観してるなあ、さすが姐さん。見習いたいよ。」


事もなげに受け入れるカンドフに、ベータが苦笑しながらそう告げる。

ここまでの苦労と危険を鑑みれば、文句のひとつも出そうなところだ。

それを口にしない二人の度量には、少なからず感謝もしていた。


「何だかんだで荒稼ぎしたからな。この調子で行けるならまあいい。」


ずっしり重い革袋の中身を確かめ、ラモンドも皮肉っぽく笑う。

今さらながら、三人は大きな達成感を噛みしめていた。


現時点では、意味など分からない。もちろん価値を計る事もできない。

苦労して得られたのは、そんな曖昧なものでしかなかった。そして、

命がけで辿り着いたこの城の頂に、ラストプレイヤーもいなかった。

それでも、成し遂げたという事実はちゃんとある。無理ゲーそのものと

言ってもいいこの狂気じみた城を、三人の力で攻略し得たのである。


「私としても、嬉しい限りです。」


微かな笑みを浮かべるシャクソンの言葉に、実感が込められる。


「ロタストリグ様に託されたこの城で、あなた方を待っていました。

永い時間でしたが、報われたのだと確信できます。ここまで来たのが

皆さんで、本当によかった。」

「そう言ってもらえると嬉しいよ。本当にどうもありがとう。」


三人を代表してベータが述べる。

やがて全員、同時に石碑の正面へと向き直った。すでに接続端子は

収納され、苔むした碑だけが三人の目の前にあった。


もちろん、こちらの字なら読める。読みにくい浮き文字ではあるものの

書かれている事も実にシンプルだ。シャクソンに何か問う必要もない。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


ロタストリグ公爵 ここにあり


ここまで来た者たちに、最大限の

賛辞と労いを贈ろう


やがてその者たちが

大きな目的を果たす事を信じる


いつまでも

我が魂はここに


ーーーーーーーーーーーーーーーー


星霜暦2022年 12月31日


ーーーーーーーーーーーーーーーー


…………………

何と言うか、ありきたりである。

もう少し具体的に、ここまで来た者に対する道標か何かを残しておいて

欲しかったとも思う。少なくとも、それに見合う苦労はしたのだから。

結局のところ、ロタストリグ公爵は「予想通り」ここにはいなかった。


だけど、分かった事もあった。

今ここでシャクソンが語った事以外にも、碑文から分かった事が。


「星霜暦2022年、かぁ…」


何とも言えない感慨のこもる声で、そう言ったのはカンドフだった。

ラモンドもベータも、彼女のそんな声には限りなく共感していた。

実にそっけない、最後の日付刻印。

これがロタストリグが遺した証だとすれば、実に重い意味の年月日だ。


今は、星霜暦5021年の4月末。

ラストプレイヤーと呼ばれる人物がこの世界にいたのは、今から数えて

3000年前だったらしい。


「そんなに永い間固まってたんだ、あたし…」



ポツリと呟くベータのひと言には、限りない重みがこめられていた。

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