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世界を解き明かせベータ  作者: 幸・彦
第3章 ロタストリグの城
44/54

課金ヘルプ発動

今ならもう、断言できる。


ラストプレイヤーの一人とされる、ロタストリグ公爵。公爵と名乗って

名士扱いされているが、この人物はまぎれもない「子供」であると。

永い時を経た、現在の話ではない。『エターナルメモリーズ』を実際に

プレイしていた頃の話だ。おそらく彼は、ゲームが好きな子供だった。

だからとことんまでやり込んだ末、街をクリエイトフィールドとして

丸ごと創る権限さえも獲得できた。早々にスワンプトードに後れを取り

脱落した、自分の使い手とはえらい違いである。見習って欲しかった。


そして今、彼の事を子供と形容する根拠は、まさにこの現状だ。



無理ゲーにも限度があるっての!!

ゲームバランスってものを考えろ!


================================


塔の内径が大きいので、迫るマグマの上昇速度はそれほど速くない。

しかし容赦ない。ゆっくりゆっくり塔内の空間は埋め尽くされていく。

内部の温度も上昇する一方である。一刻も早く天井の上に到達しないと

骨も残さず焼かれて死ぬ事になる。ハッキリ言って、洒落にならない。


こんな厳しい状況で、4ケタの解錠コードを打ち込め?ノーヒントで?

どないせえっちゅうねん!


「カンドフ!!解けた!?」

「無理に決まってんじゃん!!」


微塵も期待していない問いかけに、100%予想通りの返答が来た。


当たり前の話だ。

ランダムの4ケタ数字の組み合わせは、同じ数字を使わない場合ならば

5040通り。使ってもいい場合はシンプルに10000通りに及ぶ。

どう見積もっても、こんな限られた時間で総当たりできるはずもない。

ならば、もう方法はひとつだけだ。



「古書の課金ヘルプを使おう!!」


================================


「だよねやっぱり。」


さすがに、カンドフも心得ている。遠目にも彼女が「ブフレの古書」を

カバンから取り出したのが見えた。同時にベータが、ラモンドが上る

階段のすぐ脇にウィンドウを出す。


「ちょっと止まって!」

「急げよ!」


急停止したラモンのひと言を受け、ベータは素早くアイコンをいくつか

操作する。表示されたのは、古書の課金ベルプ入力ウィンドウだった。

もたもたする時間はない。そこで、ベータが簡略化した要望を書く。


「ロタストリグ城 最終解錠コード取得」


キュイン!

入力された文字が輝き、すぐ右隣に新たなウィンドウが開いた。そこに

書かれている情報に、ベータたちは思わずうめき声を上げる。


「うっそぉ…!」

「マジかよ!」


「どうしたのー、早く!!」


頭上からカンドフの声が届く。が、伝えていいのかこんな話を。

しかし、状況は待ってはくれない。


「熱ッ!」

「…とにかく上ろう!」


ほんの少し立ち止まった間に、眼下がどんどんマグマに呑まれている。

またステップウィンドウを勢いよく駆けあがり始めたラモンドの肩を

しっかり掴み、ベータは腹を括って声を張り上げた。


「姐さん!」

「どうだった!?」

「…………………」

「ねえベータ!いくら!?」


「40000ビドル!!」

「はあぁぁ!!?」


そこで、カンドフの声が裏返った。


「そんなにあるわけないでしょ!」

「だよねえ。」


ヒステリックな叫び声に、ベータは妙に冷めた口調でポツリと呟く。

ラモンドもまた、心底うんざりした態で吐き捨てる。


「どんなぼったくりなんだよ、あの古書はよぉ!」


それはもう、二人にとって重過ぎる現実だった。

わざわざ確認しなくても分かる。

カンドフは、前のホールでしこたま50ビドル銀貨を拾っていた。決して

ネコババするとかではなく、純粋にベータマックスの弾丸補充のためだ。

重い銀貨を律儀に運んでいる根性は感嘆に値する。


しかし、現状はシニカルに厳しい。


いくら所持している数が多くても、所詮は小銭だ。解錠コードの取得に

必要な40000ビドルを投入するためには、800枚が必要になる。

そんな枚数を拾ってない事くらい、ベータにもラモンドにも分かる。

あったとしても投入するのにとても間に合わないだろう。

天井まで到達したにもかかわらず、カンドフにはどうにもできない。


「ああもう、上手くいかないな!」


ベータの嘆きは切実だった。


================================


「仕方ない。」


さすがにかなり息が荒くなってきたラモンドが、腰に提げていた革袋を

取り外して器用に掲げる。


「使えベータ!」

「え?…いいの!?」

「この場で死んだら元も子もない。その代わり無駄使いするなよ!」

「了解っす!」


シャコッ!!


元気に答えたベータの操作により、ベータマックスのグリップの底部が

開く。さらに銃身側部のダイヤルの中央部を押す事で、装填されていた

銀貨弾がバラバラと落ちていった。それらはマグマに呑まれ、たちまち

形を失って消滅していく。しかし、ベータもラモンドも特にその光景に

感慨や嘆きは抱かなかった。今は、もっと切羽詰まった目的がある。


「カンドフ!!」

「何ー!?」

「古書の背表紙をこっち向けろ!」

「どうすんの!?」

「ここから課金する!!」

…………………


「分かった!頼むわね!!」


かなり上ったとは言え、まだ頂上のカンドフは遠い。それでも彼女が、

『ブフレの古書』を両手でしっかり抱え直したのはハッキリ見えた。

ラモンドの指示通り、自分たちの方に背表紙を向けているらしい。


「ベータ!」

「うい。」

「良さげなポイントで停まるように言え。」

「分かった…あと7段上ったとこで停まって!」

「っしゃあ!」


ダンダンダンダンダンダンダン!


ラモンドが足を止めたのは、頭上のカンドフがちょうど正面に見える

角度のウィンドウの上だった。まだかなり距離はあるものの、何とか

カンドフの姿を捉える事はできる。

しかし。


「小っちゃいなあ、的が!」

「外すんじゃねえぞ。」

「プレッシャーかけないでよ!」


口を尖らせつつ、ベータは革袋から5000ビドル金貨をつかみ出して

素早くベータマックスに装填する。あっという間にフル装填になった。


今回の課金ヘルプ発動に必要となる金額は、40000ビドル。

ここに来るまでに得た金貨ならば、8枚で足りる。今まで嫌というほど

撃ってきたから、頭上にある古書が射程内というのも把握できている。

しかし、かなり危険な狙撃である。古書を持っているカンドフに当たる

可能性も、決して低くはない。だがもう、今はこれしかないだろう。

下からはマグマが上って来ている。何度も撃ち直す時間はない。なら、

ここで決めるしかない。


「…行くよ!」


慎重に狙いを定め、ベータは覚悟を決めて引き金を引いた。


================================


ダン!

ガキィン!


「痛った!!」


コンマ数秒後。

古書の背表紙から着弾の火花が上がり、衝撃を受けたらしいカンドフが

甲高い悲鳴を上げた。どうやら金貨はコイン投入口のすぐ横に当たり、

そのまま弾かれてしまったらしい。キラキラと輝く金貨が、反対側の

壁に沿って落ちていくのが見えた。


「…外した。」

「何やってんだヘタクソ!」


理不尽な怒声が上がるも、ベータは反論できなかった。あまりにも的が

小さいのは事実だ。あのスリットに金貨を撃ち込むなんて神業だろう。


しかし、今の状況がゲーム世界から続いているのだとすれば。

このくらいのスーパーショットは、決して不可能ではないはずである。

現実でできない事を愉しむ事こそがゲームの根幹なら、今の自分にも

きっとやれるはずだ。


「慌てないでベータ!」


古書を掲げ直したカンドフの口調に焦りや怖れは混じらない。その声を

聞いたベータが、あらためて銃口を頭上の古書の背表紙に向ける。


しかし、やっぱり遠い。最初の1発で距離感は掴めたものの、投入口が

小さ過ぎるのは変わらない。せめて何か、レーザーサイトのような…


「あっ!」

「何だ、どうした!?」

「何でもない。そのまま!」

「…よし、任せた。」


ラモンドはベータを肩車したまま、微動だにしない。彫像さながらだ。

焦りなど感じさせない。ひたすら、ベータの狙撃のための「足場」に

徹しているらしい。そこでベータはベータマックスの狙いを定めつつ、

甲高い声で告げた。


「ミニマムウィンドウ、並べ!!」


================================


キュイィィィィンン!


告げると同時に、ちょうどコインと同じ幅になった小さなウィンドウが

一直線に並んだ。横倒しで、高さは通常通り。それが一本の線となり、

一瞬で古書のコイン投入口の前まで到達する。


「おお…」


バックライトで発光したウィンドウは、まさに古書へのガイドライン。

それを見上げるラモンドも、思わず感嘆の声を上げていた。


「よし、これならいける。しっかり踏んばっててよ。」

「応よ。」


ベータの声に、迷いはなかった。


================================


ダダダダダダダダン!


試し撃ちはない。一気呵成に8発を撃ち込む。外すという懸念はもう、

頭に浮かんでさえいなかった。


そして。

今度は火花は散らなかった。


キュイイィィンン!!


遠目にも、撃った金貨が投入口へと吸い込まれていったのが見えた。

それと同時に、全てのウィンドウに光るフレームが現出する。ベータも

ラモンドもカンドフも、それが何を意味するかは理解していた。


「表示!」


【5726】


ベータのひと言を合図に、現出している全てのウィンドウにその数字が

表示された。間違いなく解錠コードだ。40000ビドルという高額の

課金で得た、最後の突破口。


「出たぞ!」

「姐さん見えたー!?」

「見えた見えた!!5726!!」

「頼むよー!…って熱ぅ!!」

「急ぐぞ!しっかり掴まってろ!」


いつの間にか、洒落にならない高さまでマグマが迫って来ている。

やはり実在の物質として認識されるらしく、ステップにしていた下段の

ウィンドウはマグマに包み込まれるようにして没していく。もちろん、

物理的に溶けているわけじゃないと思う。だけどまあ、消しておこう。


「うおおぉぉッ!!」


気合を入れたラモンドが、勢いよくステップウィンドウを駆け上がる。

と、その刹那。


ガコォォン!


鈍重な音が頭上から響いた。ハッと目を向けてみれば、ドーム型球場の

屋根のようなギミックで天井部分が展開していくのが見える。どうやら

カンドフが、何かを操作して番号を入力したのだろう。それと同時に、

ワイヤーに掴まったままのカンドフがゆっくりと上昇していく。

さすが『ブフレの古書』だ。チートと言われようと何だろうと、ここは

クリアする事こそが最優先である。荒い息で見上げるラモンドの顔にも

小さな安堵の笑みが浮かんだ。


が、次の瞬間。


「はあっ!?」

「うッそでしょ!?」


二人の顔が、同時に引きつった。

ようやくあと少しというところまで来て、天井が閉まろうとしている。

コードを入力したカンドフが無事に通った今、もう用はないって事か。

あくまでも一人しかクリアできない仕様だと、そう言いたいのか。

もはや、どう見ても間に合わない。


「二人とも早く!!」


叫ぶカンドフの声も遠い。眼下には迫り来るマグマ。ラモンドの体力も

限界が近い。これがロタストリグの描いた、結末の形だと言うのか。

ならば…


「待てっての。ウィンドウ!」


ガコォン!!


取り付く島もなく閉まりかけていた天井が、鈍い音を立てて停止する。

いや、強制的に阻まれている。その証拠に、駆動音は止まっていない。

ベータが出した特大のウィンドウが6枚、天井板が閉まるアクションを

力ずくで阻害していた。こちらも、取り付く島のない圧倒的な存在感で

ガリガリと天井板に拮抗している。


「これがチートってもんよ。」

「もう何でもいい。落ちんなよ!」

「了解っす。」


ずっと壁沿いだったステップの内径がぐっと小さくなり、螺旋階段が

中央に向かって集束した。残る力を振り絞り、ラモンドは駆け上がる。

光に満ちた、塔の頂へと。


「掴まって!」


遂に天井に至ったベータの右手を、先に到達していたカンドフが掴む。

引っ張り上げる彼女の力に合わせ、ベータはラモンドの背中から一気に

上へと身を躍らせた。背負う荷物が無くなったラモンドもまた、一気に

最後のステップを駆け上がる。


キュイン!!


天井閉鎖を阻害していたウィンドウが一瞬で消え、再び閉まり始める。

見下ろせば、すぐそこまでマグマが来ている。なおも上昇する灼熱の

表面が、天井にまで達すると…


ガゴオォォンン!


そこで天井は閉まった。ほんの少し飛び散ったマグマの滴も消失する。

耐え難かった熱も完全に遮断され、何もかもが足の下の過去となった。

あまりに唐突な静寂に、今まで何をしていたかの記憶がかなり飛んだ。


しかしさすがに実感が戻ってくる。

いかに間一髪だったかも、感覚的に腑に落ちていく。

気付けば、ベータマックスをずっと持っていた手が震えていた。


「いやあ、危なかったね。」

「だよなまったく。」

「…………………」


軽口を叩くラモンドたちの傍らに、ベータはぺたんと座り込む。

しばし、言葉が出てこなかった。


現実か虚構か。

その答えは、まだ出ていない。

だけど少なくとも、命がけだったというのは紛れもない事実だろう。

今になって、その実感が湧く。


そうだ。

誰が何と言おうと。

どんな定義づけをされようと。


今この瞬間、あたしは生き残った。



そして。

今を生きているんだ。

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