表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界を解き明かせベータ  作者: 幸・彦
第3章 ロタストリグの城
42/55

蜘蛛の塔

ダン!


蹴り開けた扉の向こうは、これまでとは異なり完全な無人だった。

見取り図どおり、完全な円形の広い空間になっている。足を踏み入れて

ぐるりと見回せば、周りの内壁には等間隔で扉のない入口が並ぶ。


「何とも嫌な予感がする構造だ。」


率直な感想を口にしたラモンドが、そのまま天井を仰ぐ。ベータたちも

つられて頭上を見上げる。これまた予想通り、完全な吹き抜けだった。

見えないわけではない。が、天井は限りなく高い。距離があり過ぎて、

どういう構造になっているかもほぼ見えない。ただ、窓や穴になっては

いない事だけは見て取れた。


「…あそこまで上れってか。」

「そうみたいね。」

「率直に言うけど、ゲームにしてはちょっと難度高過ぎないかしら?」

「そうだよね、やっぱり。」


これまた率直なカンドフの言葉に、ベータも即答を返す。


ゲームアバターである己が、所見を述べるのもかなり変な感じだ。が、

確かにこのロタストリグ城の攻略はやたらに厳しい。昨日時点で地下の

出口を塞いでしまったのは、確かにちょっとイレギュラーが過ぎたかも

知れない。しかし既にあの通せんぼウィンドウは消している。とすれば

もう迷宮に出ていけない特殊状況は解除しているはずだ。それなのに、

行く先々で現れる餓鬼人が多過ぎてとにかく疲れる。ゲーム設定的にも

あまりにバランスが悪い。客観的に見て今の自分は、割とチート使用に

なっている。なっているからこそ、何とかここまで辿り着けている。


「ベータ版の頃にこの城があったという記憶はない。だけど、あの頃の

標準的キャラ設定のままだったら、間違いなくここまでは来れないよ。

ノーミスなんて絶対に無理。」

「ノーミスってのは、死なずに攻略するって意味だよな?」

「そう。」


「死なずに攻略」という仮定がごく普通に出てきてしまうあたり、既に

ラモンドの考え方もかなりゲームに寄って来ている。それはともかく、

確かにこの城はかなり無理ゲーだ。残機数を稼いで気長に攻略の糸口を

見つけていくしかないだろう。が、今の自分たちはそうではない。


そう、おそらく死ねば終わりだ。



ある意味、ゲームのヤバい所ばかり集約しているような状況だった。


================================


沈黙も停滞も、長くは続かない。


「ん?」


見上げる頭上から、何かが勢いよく下りてくるのが見えた。落下でなく

降下。目を凝らせば、細いワイヤーか何かを使いぶら下がっているのが

かすかに見える。バンジージャンプのような自由落下をしているのでは

なく、ワイヤーを伸ばしながら下に降りてきている…という事か。


「やってる事、完全に蜘蛛だね。」

「だよね。」

「って事は、最初のあいつか。」


言い交わす間に、ラモンドの言った通りのあの機械蜘蛛がすぐ目の前に

するすると降りてきていた。本物の蜘蛛よろしく、銀色のワイヤーを

伸ばしながら天井から降下してきたらしい。

危険な気配はなかった。おそらく、この機械蜘蛛は案内役か何かだ。

直接戦うべき相手ではなく、むしろ餓鬼人を攻略してきた相手に対する

サポートを行うべき存在だろうか。


キュイン!


目前まで降りてきた機械蜘蛛の姿に何かを察し、ベータがウィンドウを

1枚展開した。と同時に、明らかにベータの操作とは異なる「演出」が

画面に映し出される。重なる波形が表すそれは、音声らしかった。


『おめ でと うございます』

「聞き取りにくいな。」


雑音が混じるその声に、ラモンドが率直な感想を口にする。確かに声は

非常に小さく雑音が激しく、しかも半端なところで途切れるので非常に

聞き取りにくい。よほど録音状況が悪かったのか、再生する機械蜘蛛が

既に古くなってしまっているのか。そのあたりは知りようがなかった。


やっぱり、時の流れによるものか。システムそのものは生きていても、

永い間に劣化してしまうのは仕方のない事なのか…


『城主は頂 上にてあなたをお待ちしており   ます。どうぞお  

上り下さい。』

「あっ!」


そこまで言った機械蜘蛛は、あっという間にワイヤーを伝って上へと

這い上っていった。残されたのは、まっすぐに降りた「蜘蛛の糸」。

どうやら、これを上っていけという無言の導きなのだろう。しかし、

ひと目見て判る問題点があった。


そう。

どう見積もっても、このワイヤーは三人分の体重には耐えられない。


「…要するに、上まで行けるのはお一人だけですって言いたいわけか。

何人で来ようとも。」


吐き捨てるようにそう呟くベータの顔に、らしくない怒りが浮かぶ。



「クソゲーじゃん、こんなの。」


================================


ガチャン!


ベータのひと言が合図になったかのように、ホールに続く扉が閉まる。

その勢いからして、もうこちらから開けるのは無理だろう。つまりは、

上る以外に道はない。


「…そして、お出ましらしいな。」


周囲をざっと見回したラモンドが、抑揚のない口調でそう言った。


「ォォォォオオオオオオオォッ!」


地鳴りのような怒声が轟き、周囲に並んだ入口から憶えのある気配が

迫ってくるのを感じる。おそらく、これまでで最大級の餓鬼人の群れ。

いくらベータの射撃が速かろうと、数の暴力にはとても抗し切れない。


つまり、蜘蛛の糸を上るしかないという事なのだろう。

迷う時間は、もはや残っていない。


「カンドフ。」


向き直ったラモンドが、語気を強め言い放った。


「ワイヤーはお前が使え。」

「了解。」

「だよね、やっぱり。」


彼の隣に立つベータもニッと笑う。



三人に、迷いはなかった。


================================


ドドドドドドドドドォォォッ!


等間隔に並ぶ入口から、雪崩の如き勢いで餓鬼人たちが殺到した。

互いがぶつかるのも踏みつけるのも折り重なるのも全くお構いなしで、

あっという間に塔内の底部の空間を醜悪に埋め尽くしていく。もはや、

戦うとかいう次元を超えた圧倒的な質量の暴力だった。


そして。


埋め尽くされ、押しつぶされる空間の中に、三人はいなかった。


「マジかよあの数。一人だけ上っていったのを見上げながら、あそこで

押しつぶされろってのか。」

「ロタストリグ公爵って、けっこう狂ってるわね。」

「だよねえ、ホントに。」


かすかに響く三人の声に、押し合いへし合いしていた餓鬼人の視線が

ザッといっせいに頭上へ向いた。


彼らはそこにいた。


カンドフは、両手両足を使って細いワイヤーに掴まっている。どうやら

掴まると同時に巻き上げられる設定らしく、本人は掴まっているだけ。

ゆっくりと彼女の掴まっている末端部分が上に移動している。


そしてラモンドとベータは

階段を上っていた。


正確に言うなら。



ベータを肩車しているラモンドが、そのままの態勢で上っていた。


================================


もちろん、塔の内部にそんな親切なものは作られていない。


ラモンドが上っているのは、内壁に沿うような形で等間隔に並べられた

ステータスウィンドウである。昨日の間に、ウィンドウを横倒しの形で

出せる事は検証済みである。大きさに関わらず、上に乗ってもビクとも

しないという強度も確認している。


螺旋階段のように並ぶウィンドウを踏みしめ、ラモンドは上を目指す。

一方のベータは、ウィンドウを壁や床として感知する事が出来ない。

立とうとしても突き抜けてしまう。だからこうして、ラモンドの肩車で

一緒に上っているのである。


ハッキリ言って、常人なら目が眩む高さである。半透明のウィンドウに

全体重を預けて迷わず上るあたり、ラモンドの胆力とバランス感覚は

常人を遥かに超えている。


「楽しやがって。俺もあっちの方が良かったなぁ。」

「まあまあそう言わずに。ね?」


自動で運ばれるカンドフを見ながら述べるラモンドの文句に、ベータが

笑顔で答える。彼に命を預けている身ながら、彼女も全く動じない。


…………………


何が一人だけお待ちしていますだ。クソゲー運営も大概にしろっての。

ベータは、心の中で毒づいた。


もちろん分かっている。あくまでも今回の攻城はゲームの一環であり、

ロタストリグと名乗るプレイヤーもそのつもりで城を設計している。

ひとつしかない本物の命を懸けるという、洒落にならない今の状況など

想像すらしなかっただろう。ゲーム内で死ぬ事と実際の死は無関係だ。

残機が減ろうが、ゲームオーバーになろうが。またやり直せばいい。

そうやって攻略するのも、ゲームが好きな人間としての醍醐味だろう。


だが三人、特にラモンドとカンドフの二人にその法則は適用できない。

世界の構造がどうであれ、彼らには自分たちがオンラインゲーム内の

キャラクターだという認識はない。死ねばそれっきりになるだろう。


もちろん、お門違いは分かってる。『エターナルメモリーズ』で遊んだ

プレイヤーたちも、まさかその中でこんな事になるとは思っていない。

第一、もはや遥かな昔なのである。文句を言う相手、ロタストリグさえ

上で待っているという保証はない。自分の知るゲーム世界は、過去だ。

だからこそ、こんなチートを使う事に対する後ろめたさなど抱かない。


正規の攻略法がないなら工夫する。ただそれだけの話だ。それこそが、

アバターやNPCでない証だろう。


あたしたちは生きている。

そして必ず、真実を解き明かす。



眼下の壮絶な光景に目を向けつつ、ベータは決意を新たにしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ