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世界を解き明かせベータ  作者: 幸・彦
第3章 ロタストリグの城
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ベータマックスの真価

何事も、回数をこなせば熟練する。たとえゲームアバターだとしても、

この性質は変わらないらしい。


既に発砲回数は軽く3ケタに達し、撃ち倒した餓鬼人の数も数えるのを

早々に諦めた。もちろん百発百中とまではいかない。外す事もあれば、

倒し切るまでに数発を要する場合もあった。いずれにせよ、この城内に

入ってからとんでもない数の弾丸を撃ち続けているのである。

引き金が割と軽いから、もはや指が動かない…と言った事はまだない。

駆け回っているわけでもないから、体力の消耗もさほど深刻ではない。


だけど。

数知れず撃っているからこそ、今の残弾では塔まで到達できないという

明確な予想ができてしまう。今まで遭遇してきた餓鬼人の数と頻度とを

想定すると、塔の直下に至る手前で弾丸が尽きる。重さだけでも判る。



判ってしまう現実が、残酷だった。


================================


「ヤバ、もう魔力が残ってない。」


開いた右手を見ながら、カンドフがらしくない不安口調でそう呟く。

今の時代に稀少な魔術の使い手とは言っても、別に実力が突出している

わけではない。魔力が尽きる局面も当然、あるのだろう。しかしそれは

あまりにも容赦のない現実だ。


「塔まであとどのくらいだ!?」

「ええっと…次の角を右に曲がってすぐのホールを抜けたところ!」

「ホールが残ってんのかよ…!」


ベータだけではない。ずっと一緒にここまで来たラモンドもカンドフも

今の状況に習熟してしまっている。ここから「ホールを抜けていく」と

いう事は、絶対にそのホール内には餓鬼人の群れが待ち構えている。

考えるまでもなく確信できるのは、ある意味腹立たしくもあった。


「どうする。」

「どうするも何も…」


もはや、戻るという選択肢はない。餓鬼人がリポップする設定なら、

引き返したとしても群れなしているのは確実だ。とても突破できない。

いかなる結果になろうと、正面から攻略する以外に道はないだろう。


「…とにかく、もしホールの天井が高ければ跨ぎ越える戦法で行こう。

それで塔の直下まで到達できれば、後続はウィンドウで足止めする。」

「それ俺がやるのかよ。」


いささかウンザリといった口調で、ラモンドがベータに抗議する。

空気を読んだのか、餓鬼人の群れは今のところ襲いくる気配もない。


「二人抱えて移動ってのは、最後の塔の局面までやりたくねえんだよ。

吹き抜けなら否応なしになるだろうから、体力は残しておきたい。」

「うーん…やっぱり厳しい?」

「今だってけっこう重い荷物抱えて走ってんだ。そこは頼むぜ。」

「だよねえ。」


確かに、あまりラモンドの持久力を過信しない方がいい。彼と言えど、

疲れて動けなくなったら終わりだ。それに、ここに至るまでに荷物が…

………………


「あ。」

「どうした?」

「いいこと思いついた。」

「え?…何を?」

「いいからついて来てよ。」


ニッと笑ったベータは、再びスッと愛銃ベータマックスを構え直した。

そのまま迷わず、正面の曲がり角を目指して速足で歩き出す。その背を

ラモンドとカンドフが慌てて追う。


「おい本当に大丈夫か?」

「ヤケになってない?」

「大丈夫大丈夫。まあ見ててよ。」


答えたベータは、正面を見据えた。

角を曲がる瞬間。


「ウィンドウ!!」


キュイン!


右折正面にステータスウィンドウが展開し、角まで来ていた餓鬼人の

歩を阻む。気配そのものは他二人も感じていたものの、ベータの対応は

完全に先読み、いや餓鬼人の接近をむしろ望んでいた風でもあった。


接近していたのは1体。ガシガシと音を立ててこちらに来ようとする。

しかしそれには目もくれず、ベータは防壁になっているウィンドウを

手早く操作した。


「何やってんだよ。」

「レート切替え。」

「は!?何でだよ!」

「もうコイン拾うの限界でしょ?」

「それは…」

「まあ見ててよ。」


一瞬言い淀んだラモンドにもう一度笑みを向け、ベータはぐっと姿勢を

低くした。見上げるような態勢で、ウィンドウの向こうの餓鬼人の頭に

狙いを定める。


ダンダン!!


二発の弾丸が餓鬼人の顎を捉えた。のけ反るように倒れるその体が、

そのまま崩壊して消滅していく。

と、次の瞬間。


ジャラララララララララッ!


それまでと明らかに違う、凄まじい量のコインが頭上から降り注いだ。


「痛い痛い痛たたたたたた!!!」


ほぼ真下にいたベータは、容赦なくコインシャワーに身を打たれる。

どう見ても自滅としか思えないその様に、ラモンドとカンドフは揃って

絶句していた。


「何をやって…」

「っしゃあ!!」


カシュン!!


コインシャワーに耐えたベータが、いつの間にか開いていたグリップの

底部を閉めて立ち上がる。見れば、ウィンドウの向こうに餓鬼人たちが

殺到していた。


「来いよいくらでも!」


言い放つベータが、あらためて銃を構える。



もう、遠慮はなかった。


================================


ダダダダダダダダダダダダダン!


ウィンドウを消した通路に、銃声が幾重にも響き渡る。自動小銃じみた

連射により、餓鬼人たちは蜂の巣にされ次々に消滅していく。とは言え

こんな無茶な連射が長く続くはずもない。やがて憶えのある音と共に、

弾切れが容赦なく告げられた。


しかし。

さすがにラモンドたちも、ベータの意図は否応なしに理解していた。

せざるを得ない状況だった。


狭い通路の中を満たすのは、造幣局もかくやと思わせる小銭の海だ。

今さらラモンドは、ベータの狂気にドン引きしていた。


餓鬼人1体を倒す毎にドロップするコインは、25000ビドル。

荷物になるので、ドロップレートは5000ビドルの金貨に設定した。

つまり1体倒せば5枚ドロップだ。さすがにかなり取りこぼしたものの

相当な額を荒稼ぎしている。


しかし今、ベータが設定したレートは50ビドル銀貨だ。足元に無数に

転がるのは、紛れもなくこの銀貨。つまり餓鬼人を1体倒せば500枚

ドロップする計算になる。そりゃ、あんなシャワーにもなるだろう。


そして。

言うまでもなく、銀貨は金属だ。



ベータマックスで撃てない道理は、どこにも無い。


================================


カシュン!!


グリップ底部を再び開き、ベータは姿勢を低くする。


ジャララララララッ!


一瞬で銀貨が中に吸い込まれるのが見えた。今度はハッキリ見えた。

後詰めの餓鬼人たちが迫る。しかしベータは急きも慌てもしなかった。


ダン!


放たれた銀弾が、2体の餓鬼人の体を一気に貫く。崩れ落ちる2体の

すぐ真上から、またも銀のコインがジャラジャラと落ちてくる。


「…マジかよ。」

「いいのかな、この無茶な光景。」


さすがに二人は顔を見合わせた。

しかしベータは、一気にテンションを上げて声を張り上げる。


「おおー!ネジより貫通力高い!!ナンボでもかかって来いやぁ!!」


…………………


「まあ、楽しそうで何より。」

「確かにな。」


呆れ顔で笑い、カンドフが呟いた。

つられたようにラモンドも笑う。


無茶苦茶な戦い方ではあるものの、こういう設定なのは最初からだ。

なら、余計な遠慮など無用だろう。とりあえず当座の問題は解決した。



後はもう、頂まで突っ走るのみだ。


================================


塔へ至るまでの、最後のホール。


予想に違わず、そこには凄まじい数の餓鬼人たちがひしめいていた。

虚ろな目で佇んでいた彼らの耳が、ジャリジャリと何かを踏みしめつつ

接近してくる足音を捉える。全員が揃ってその足音の方に目を向けると

同時に、呻き声が室内を満たした。


刹那。


ドゴン!!

ダンダンダンダンダンダンダン!!


扉が一気に蹴り開けられたと察する間もなく、弾丸が撃ち込まれる。

密集していた餓鬼人たちは、まともな反応すらできなかった。銀色に

輝く銃弾が、一発で数体の餓鬼人を貫通する。


ジャラララララララララッ!!


倒れ伏し消滅する個体の真上から、新たな銀貨が雨のように振り注ぐ。


「何体いけた?」

「見た限り、間違いなく9体は消滅したな。」

「つまり4500発ね。」

「現金を何発って数えるなよ…。」

「気にしない気にしない!」


ドォン!!


明るく言いながら放ったカンドフの火球が、さらに数体の餓鬼人たちを

吹き飛ばした。その間に歩を進めたベータが、散乱した銀貨の上に屈み

素早くベータマックスに装填する。


「ガアァァァァァッ!!」

「ウィンドウ!」


ガキン!!


呻き声を上げつつ接近しようとする餓鬼人が、ステータスウィンドウに

阻まれ足踏みする。何気ない表情でそれを見ながら、ベータは目の前の

ウィンドウを平然と操作した。


「4000発以上が転がってるならもう、レートは戻すね。」

「銀貨の中から金貨を拾えってか。無茶振りすんじゃねえよホント。」

「ま、よろしくね!」


にこやかにそう言い放ち、ベータはあらためて餓鬼人たちに向き直る。


「ははっ、ゾンビゲームっぽい。」

「何て?」

「何でもない!」


ダンダンダンダンダン!


迷いない掃射が、遠慮も容赦もなく立ちはだかる餓鬼人を打ち倒す。

そして餓鬼人たち自身も、恨み言を吐きもせず黙って消滅していく。



その光景は、銃型コントローラーでゾンビを撃つアーケードゲームに

確かにそっくりだった。


================================


ジャラララッ!


「とりあえず、取っとくね。」


そう言いつつ、カンドフが床一面に撒き散らされた銀貨を革袋の中に

掻き込む。ある意味夢のような光景だと言えるものの、実際には単なる

弾丸の補充でしかなかった。


大暴れの結果、ベータはホール内の餓鬼人を一掃してしまっていた。

ここまで進んで分かった。どうやら餓鬼人たちは、自分たちの視界内で

リポップする事はない。また現時点では、ここまで通ってきた道からの

リポップも確認できない。つまり…


「俺たちの進行方向にのみ、湧いて出てくるって事になるんだな。」

「そうみたいね。」


その見立てで間違いないだろう。

どこへ向かおうとも、餓鬼人たちは常に進行方向の部屋や通路に湧く。

おそらく引き返す道中においても、同じリポップ現象が起こるだろう。

とすれば、やはり先に進む事こそがもっとも消耗を抑えられる選択だ。


もはや完全に開き直り、倒した後にドロップする銀貨は弾丸とみなして

容赦なく使っている。少なくとも、この戦法なら弾切れにはならない。


「それにしてもこの小銭、どっから生み出されてんだよ。」


足元に散らばっている無数の銀貨に目を向け、ラモンドが誰にともなく

呆れ声で呟く。さすがにベータにもカンドフにも、問いに対する明確な

答えなど思いつくはずがなかった。


「そういうゲームだから。」


色々と解釈を諦めたらしいベータの雑なひと言が、問いを封殺する。

しかしラモンドもカンドフも、今の状況に説明などは本気で求めない。

現実かゲームかという疑問に対する答えは、少なくともロタストリグに

会わないと近付いて来ないだろう。なら、力づくで手繰り寄せるまで。


「待ってろよロタストリグ公爵。」


告げたベータが、正面のドアに目を向ける。



塔はもう、そのドアの先だった。

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