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世界を解き明かせベータ  作者: 幸・彦
第3章 ロタストリグの城
40/54

過酷な消耗戦

ダンダンダンダンダンダン!

…ガキン!


「弾切れ!」

「またかよ!」


ベータの言葉に答えたラモンドが、ポケットから取り出した袋を開けて

その中身を彼女めがけてばら撒く。次の瞬間、グリップ底部を展開した

ベータマックスに、撒かれたネジが一気に吸い込まれた。


ダダダダン!


一瞬の装填の間に距離を詰めてきた餓鬼人を、ウィンドウで阻みつつ

連射で一気呵成に倒す。何度となく繰り返してきた連携だ。その動きは

回を重ねるごとにスムーズになってきている。


しかし、状況は厳しかった。


どこを見回しても、無限に湧き出すとしか思えない餓鬼人の群れ。

目指す場所が明確でも、こんな状況ではろくに前進できない。



さすがの三人も、終わりの見えない戦いに疲弊を隠せなかった。


================================

================================


時間は少しだけ遡る。


エントランスホールの次の部屋まで至り、ひと息ついていた時。


「あれっ?」


何かしら違和感を覚えたベータが、新しくウィンドウを現出させた。

そこに、明らかに彼女の意志によるものではないチュートリアル画面が

表示される。


「これって…」

「どうしたの?」

「入口を突破できたからかな。攻城の条件が提示された。マップも。」

「マップって、つまりこの城の中の見取り図って事か?」

「そうみたいね。」


答えたベータの操作により、画面にワイヤーフレーム表示の城内構造が

映る。三次元視点でグルグル動かす事により、城内の部屋の配置などが

かなり詳細に理解できた。


正面から見ただけでは分かりにくい構造だったが、ロタストリグ城には

中心を成す高い塔がある。どうやらこの塔の頂まで辿り着く事こそが、

ロタストリグ公爵に至る攻略条件と定められているらしい。


「とりあえず、最低限の内部構造とルートは分かった。」

「この時点で教えてくれるってのは気前がいいな。」

「それだけ、ルート攻略そのものがハードって事なんじゃないの?」

「ええー…」


縁起でもない事を言うカンドフに、ベータとラモンドが若干引いた。


とは言え、だからどうという話でもない。やる事が明確になった以上、

ハードだろうが何だろうがルートを攻略するのみだ。ただ願わくば、

難易度はそこそこ程度にしておいて欲しい。



そんな想定で臨んだルート攻略は、ヒネリなく想定を超えてきた。


================================


ダダダダダダン!

ドォン!


銃声と火球の炸裂音が、通路の壁を幾度もびりびりと震わせる。

その直後に決まって響く、コインが床に落ちる乾いた金属音。


ルートは単純であり、迷う心配などない。ウィンドウに表示されている

見取り図は、ご丁寧にここまで踏破した道程が赤線で示される仕様だ。

今自分たちがどこにいるか、それを見失う事はほぼないだろう。


しかし、とにかく脇の部屋や通路の奥から湧き出す餓鬼人の数が多い。

最初の方こそ、入れ食いだと思っていたラモンドも手を焼いている。

出口を塞いでいるからかもと考え、ベータは地下迷宮に設置しておいた

ステータスウィンドウを消去した。これなら餓鬼人たちも多少、迷宮に

迷い出てくれるのではないかと。


どうやら、考えが甘かったらしい。


「無限にリポップしてるねコレ。」


何度目か分からない給弾をしつつ、ベータが苦々しげにそう告げる。

あえて何も返答しなかったものの、ラモンドたち二人も実感していた。

ベータの想定が本当だとするなら、餓鬼人たちは倒せば倒すほど無限に

現れる。もちろん増え続けているという意味ではなく、倒した分だけが

間髪を入れずに補充される感じだ。これが「ゲーム」なら城内にずっと

居座って、コインドロップを延々と繰り返す荒稼ぎも出来るのだろう。


だがあいにく、少なくとも現時点で世界は自分たちにとっては現実だ。

残機があるわけでもなく、一度でも敗死すればそれで終わるのだろう。

チュートリアルに特に説明はない。しかし三人とも、その事に関しては

覚悟を決めて臨んでいる。それでも餓鬼人、あまりにも多過ぎる。

無駄口を叩きながらというベータのスタイルも崩れ、粛々と餓鬼人を

撃って仕留めるだけの存在になってしまっている。

そして何より…


「ヤバいぞ。持ってきた金属弾丸のストックがもう心細い。」

「ええっ?」

「あんなに用意したのに!?」


さすがに想定外だったらしく、二人の声に狼狽の響きが混じる。

予備弾丸の運搬担当はラモンドだ。既にベータとのコンビネーションは

確立されており、ドロップコインの回収も含めサポートに徹している。

予備の弾丸をしこたま用意している姿に、ベータとカンドフはちょっと

笑っていた。用心深んだねと。

しかし現実は、ラモンドの用心さえ上回っている。何とか塔までの道は

八割方踏破しているものの、ここで弾丸が無くなるのは致命的である。


「姐さんの火球は!?」

「ゴメン、あと3発くらいが限界。割と抑えて撃ってたんだけどね。」

「3発かぁ…」


弾丸に比べて威力が高いとは言え、あと3発ではどうにもならない。


ダンダンダンダンダン!


話している間にも、餓鬼人の群れが迫ってくる。通路が広くないので、

密集されたら詰みだ。ウィンドウで接近を防いだとしても、脱出できる

空間が無くなれば終わってしまう。餓鬼人は仕留めれば消滅するが、

いくら何でもラモンドの体術だけで倒せる数には限度があるだろう。


弾丸と魔力が尽きる前に、どうにかして塔まで辿り着く必要がある。

しかし現状は、限りなくジリ貧だ。



見通しの甘さを嘆く余裕は、誰にもなかった。


================================


「とにかく塔の真下まで行こう。」


先導しながらベータがそう告げる。


「見取り図で見る限り、塔の内部はほぼ完全な吹き抜けになってる。

塔というよりサイロに近い感じ。」

「何で城の中核部を成す建造物が、そんながらんどうなんだよ。」


残弾のネジを確認するラモンドが、いささか不審そうな声で答えた。


「果てしなく嫌な予感がするぞ。」

「正直言って、あたしも。」


すぐ隣を並走するカンドフも、遠慮のない不安を口にする。


「スケールの大きな罠だった…とかそんな展開、あるんじゃないの?」


ダンダンダン!


「強く否定はしないよ。」


通路正面から襲い来る餓鬼人を撃ち倒し、ベータがあえて平坦な口調で

そう答えた。


「だけど、罠という形容はちょっと違うかも知れない。」

「どう違うんだよ。」

「あくまでもこの世界が、ゲームの延長にあると仮定してだけどね。」


正面を見据えて進みつつ、ベータは二人に説明する。


「ロタストリグって人がプレイヤーだったとすれば、自分で構築できる

フィールドには可能な限り遊び心を盛り込んでいたはずよ。自分以外の

プレイヤーがもし遊びに来てくれるなら、最大限楽しんでもらおうと

考えただろうからね。」

「つまりこの城は居城じゃなくて、来訪者に対するアトラクションとか

そういう意図で作ったって事か。」

「そう。だとしたら、がらんどうの塔の意味も少し変わってくる。」


答えるベータの心に、今さらながら確信のようなものが宿っていた。


そうだ。

「ロタストリグ城」とは言っても、ここに城主が住むという前提自体に

根本的な問題がある。城主がゲームプレイヤーだったとすれば、たとえ

どれほどゲームにのめり込んでいたとしても、寝食までゲーム内で行う

とは考えにくい。まして、ゲームの母体となったオメガクリエイターは

そこまで高度なVRではなかった。住人であるNPCならばともかく、

本人がこの城に住んでいた可能性は限りなくゼロだろう。そう考えれば

城内の生活感の無さ、使い勝手など眼中にない間取りにも納得できる。


長年に渡って誰も足を踏み入れずにいたこの城は、ラモンドの言う通り

まさしくアトラクションだ。なら、吹き抜けの塔はクライマックスか。


「望むところ、と言いたいけど…」


そこまで考え至ったベータがポツリと呟く。


ダン!

…ガキン!


「弾切れ!」

「マジかよ。」


ラモンドが顔を歪ませた。


「これで最後だ。」

「マジかよ…」


差し出されたネジの山をグリップの底部から吸い込み、ベータも同様に

顔を歪ませる。傍らのカンドフも、厳しい表情を抑えられなかった。


残りの弾丸が尽きる前に、塔の直下まで辿り着けるだろうか。

無限と言える餓鬼人からの攻撃を、凌ぎ切れるだろうか。


目的地まではあと少し。



しかしそこに至る道は、どこまでも遠く厳しいものだった。

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