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世界を解き明かせベータ  作者: 幸・彦
第1章 ノスタウの街の出会い
4/54

最初のページに

【条件クリア】


「え?」


向き直ったカンドフが、まじまじとラモンドの顔を凝視する。


「…何だ、どうかしたのかよ。」

「いま何か言った?」

「は?いや、何も言ってないが。」

「じゃあ何か声が聴こえた?」

「声?」


怪訝そうな表情で答えるラモンドの目が、じっとカンドフを見返した。


「何の声だよ。」

「確か、条件クリアとか何とか…」

「いや聞いてない。それが何」


刹那。


パシュン!


空気が弾けるような音が一瞬響き、カウンターに無造作に置かれていた

「ブフレの古書」がこれも一瞬だけ光を放つ。目の当たりにした二人は

思わず少し身を引いた。さすがに、ここで爆発などされたら笑えない。


息を殺す事、10秒。


「…何だ、あれで終わりなのか。」

「もしかするとさっき聴こえた声、これの事だったのかな?」

「あ?…何だっけ、条件クリアか。それがこれだってのか?」

「確証はないんだけど…」


言いながら、カンドフがこわごわと「ブフレの古書」に歩み寄った。

そしてそっと右手を伸ばし、表紙の端をつまむ。


「おい大丈夫か!?」

「大丈夫みたい。それと…」


言いつつ、カンドフは表紙ページをゆっくりと開く。その様を目にした

ラモンドは、大きく目を見開いた。


「やっぱり。」

「これはつまりアレか、何かしら、ここでやった事がこれの封印を解く

条件を満たしたって事なんだな?」

「多分そうだと思う。」


答えたカンドフは、本を一度閉じて表紙ページをもう一度露わにする。


「考えるに、表題を読んだ事かな。それが最初の条件クリアって事。」

「それだけでクリアって、ずいぶん簡単なんだな。」

「だから表紙だけなのよ。」

「…だけ?」

「ホラね。」


再び表紙ページをめくったカンドフの指が、最初のぺージをめくろうと

試みる。しかしそれ以降のページは相変わらず、一体化していた。


「マジかよ。」

「何となく分かってきた。この本の仕組みみたいなものが。」


カンドフの放つ声に、確信の響きが混じる。


「これはただの書籍じゃない。何か特殊なシステムを持つ魔具なのよ。

古代文字で書かれた表題を読むのが最初の条件だとすると、少なくとも

それを成したあたしにだけクリアの宣告が聴こえたのも納得できる。」

「俺はちょっと納得いかないな。」


片眉を吊り上げたラモンドが、やや尖った口調でそう答えた。


「見つけたのも持ってきたのもこの俺なんだぞ。面白くねえなぁ。」

「まあまあ、そこは向き不向きだと考えましょうよ。」


宥め口調で言ったカンドフが笑う。


「多分だけど、この先を読むために何度も条件のクリアは必要になる。

今回がたまたまあたしだっただけ。内容によっては、あなたじゃないと

無理な事も出てくるだろうから。」

「ホントかよ…まあいいけど。」

「少なくともあたしは、出し抜こうなんて考えない。心配しないで。」

「別にそんな心配はしてねえよ。」


さすがにそこでラモンドも笑った。


================================


「で?」


気を取り直したらしいラモンドが、あらためて「ブフレの古書」へと

視線を向ける。


「ケチな古書サマの1ページ目は、何が書いてあるんだ?」

「ええっとね。」


どうやら最初は見出しらしい。

読めないながら、ごくわずかな文章しかないのはラモンドにも判った。


「表紙と同じ古代文字ね。えーと…ナニナニ…」


さっきの帳面をまた参照しながら、カンドフの指が1ページ目の文章を

なぞって行く。コツを掴んだのか、その動きはさっきよりも速かった。

そして2分後。


「…大体わかったよ。」

「何て書いてあったんだ?」

「世界の真理をここに記すって。」

「は?」


思わずラモンドが間抜け声を上げ、古書に視線を向けた。


「そんな大層な事が書いてあんのかコレ?」

「まあ、訳が正しければだけど。」


言いつつ、カンドフは肩を竦める。


「求めるものは条件を乗り越えよ。さすれば記された真理を知り得る。

心ある者が我を手にする事を祈る。大体そんな感じだと思う。」

「胡散臭い話だなホントに。」

「まあ、否定はしない。」


そう言い交わし、二人はほぼ同時に苦笑を浮かべた。


何と言うか、ますます作為的だ。

古いのかどうかの前に、あまりにも読み手を意識している代物である。

不特定多数が読む書物というより、作った者と手にした者との間にだけ

通じる「遊び」的な感覚がある。


いつの物なのか、まだ定かでない。

しかし少なくとも、理解もできない高尚な哲学書とかではないらしい。

むしろ、何となく親しみを感じる。



二人とも、その感覚は同じだった。


================================


「で、次はどうすりゃいいんだ。」


言いながら、ラモンドが古書を手に取ってあちこち調べてみる。


「条件をクリアする事が必要なのは分かった。じゃあ次の条件ってのは

どこに提示されるんだ?」

「さあ、そこまでは何とも。それ」

「ちょっと待て。」


カンドフの言葉を遮り、ラモンドが開いた表紙の裏側を注視する。


「どうしたの。」

「ここ見てみろ。」

「?」


指差したのは裏面上部の端だった。その部分に、ほんのかすかな紙の

めくれが認められる。全体的に新品同様なのを鑑みると不自然だった。


「何だろ。」

「明らかに、後から貼ってるな。」

「え、誰が?」

「剝がせば分かる。」


即答したラモンドが、そのめくれを指で摘んでゆっくり剥がしていく。

ギョッとはしたものの、カンドフも特に止めようとはしなかった。

最初から誰か剥がす事が前提だったらしく、その紙は跡などほぼ残さず

きれいに剥がれていった。やがて、それは完全に表紙裏から剥離する。


「…封書か何かか?」

「そうみたいね。開けてみよう。」

「分かった。」


頷いたラモンドが、慎重に折り目を探って開いていく。普通に考えれば

かなり無茶な行為である。しかし、二人は目の前のヒントを求めた。

どうせ自分たちだけで調べるなら、あれこれ気を回しても無駄だから。

中から出てきたのは、古びた2枚の紙だった。


「こっちは地図みたいね。」

「こっちは…俺でも普通に読める。古代文字じゃないらしいな。しかも、

明らかに手書きだ。」

「何が書いてあるの?」

「………………」

「どしたの、ラモンド?」

「やけに具体的だ。」


読み終えたらしいラモンドが、そう言いながら紙をカンドフにかざす。


「スワンプトードを倒せ。それが、当座の目標らしいぜ。」

「スワンプトード!?」


地図から視線を上げたカンドフが、頓狂な声を上げた。


「って、そんな古の魔物がいるの?この時代に!?」

「いや、俺に言われても知らんよ。そもそも何だっけかそれ?」

「沼に棲むと言われる大ガエルよ。沼から離れる事はまずないけれど、

迷い込んだ人間や動物を引き込んで喰らうと伝えられてる。」

「そんな物騒な奴と戦えってのか。ってか、どこにいるんだそんなの。

今の時代に、そこまで本格的な魔物なんか、生き残ってるはずが…」

「そうとも言い切れないよ。」


食い気味にそう答えたカンドフが、地図を掲げてラモンドに見せる。


「ホラ、ちゃんと棲息している沼の所在地も指定されてる。しかもこれ

今の地図に当てはめてもきっちりと判るようになってるよ。」

「だから何でそんな具体的なんだ。ますます胡散臭くなるだろうが。」

「だけど、調べてみる価値はある。そんなに遠くもないからさ。ね?」

「………………」


2枚の紙を見比べ、ラモンドがやや乱暴に頭を搔いた。それを見つつ、

カンドフは黙って次の言葉を待つ。


しばしの沈黙ののち。


「…まあ確かに、調べるくらいならやってもいいか。ダメモトだ。」

「決まり!あぁ何だか面白そう。」

「ずいぶん楽しんでるんだな。この怪しさ満点の話を。」

「いやあ、退屈してたからねえ。」


嬉しそうに言いながら、カンドフはカウンターの上に古めかしい箱を

いそいそと並べていく。そんな姿を見ながら、ラモンドはフッと小さく

笑っていた。


退屈してたから、か。

とても大人の言葉とは思えないが、まあ俺だって似たようなもんだ。

魔物討伐という時代錯誤な課題も、見方を変えればなかなか面白い。

この古書の作者がどんな奴だったにせよ、遊びたいなら付き合うまで。

そして…


「世界の真理とやらが分かるなら、金だって儲けられるだろ。」

「え、何か言った?」

「何でもない。早く準備しようぜ。日が暮れる前に片を付けたい。」

「了解!」


カンドフがわざとらしく敬礼する。ラモンドも小さく敬礼を返した。


さあてと。

たった二人のパーティー結成だ。

頼りない話ばっかりだが、それでもやってみる価値はあるだろう。

退屈な毎日が少しでも変わるなら、願ったりかなったりだ。


彼は知らなかった。

目指す先に何が待っているのかを。


そして。



その先にある、世界の真理を。

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