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世界を解き明かせベータ  作者: 幸・彦
第3章 ロタストリグの城
39/54

ロタストリグ城へ

翌日の午前9時。


「んじゃ、行きますか。」

「ノリが軽いな。」

「いいじゃんそんな感じで。」


いたって普通の言葉を交わしつつ、三人は徒歩で街の中心部に屹立する

大きな城の正門前に来ていた。名をロタストリグ城という、街の象徴。

ラクネリアの街が興る以前から存在していたらしい、古の城である。


もう既に100年以上、街の人間がまともに足を踏み入れた事がない。

城主であるロタストリグ公爵の姿を見た事がある人間も、今の時代には

もう生存していないだろう。


「でかい城だな。」


呆れたように言いつつ、ラモンドが城を仰ぎ見る。


「ここの連中の言う事が本当なら、街の中心にある街のシンボルが、

誰も足を踏み入れない城だって事になるんだよな。」

「不自然もいいとこだよね。」

「やっぱり街全体が、ロタストリグの創造物だって事でしょうね。」


好き勝手な推論を言い合う三人に、誰も注意を向けようとはしない。

不可侵であろう城を臨んでいるにも関わらず、止める者すらもいない。


そう。

三人がこの街へ来てまだ日も浅い。そんな中でも、ここに住まう人々の

「特殊性」は否応なしに実感する。ある意味で、完全に管理されている

ディストピアさえ連想してしまう。事情を知らない人間がこの特殊性を

目の当たりにすれば、得体の知れぬ恐怖に見舞われる事になるだろう。

人々に特に自覚がないという点が、その異様さに拍車をかけている。


しかしこれらは、今ここにいる三人だからこそ気付き得た違和感だ。

世界がゲームの虚構の延長なのかも知れないという前提があればこそ、

この街の持つ巨大な意図が見える。蜘蛛の巣の向こうに、探し求める

ラストプレイヤーの影が見える。



だったら行くのみだ。


================================


ガチャン!


さすがに正門からだと目立つので、東に逸れたところに設けられている

通用門の前に並んで立つ。何となく予感はあったものの、やはり門扉は

何もしなくても開いた。まさしく、客人を招き入れるが如くである。


「やっぱりね。」

「ああ。」

「そうでしょうね。」


ベータもラモンドも、カンドフも。その事実に驚いたりはしなかった。

明らかに、人がいなくなって久しい廃城である。その割に荒れていない

理由は、深く考えなくても分かる。この城を築城した人物が、いわゆる

「プレイヤー」だったからだろう。この城は、ベータとほぼ同じ意味で

世の中の摂理から少し外れている。語弊はあるが、この城だけではなく

ラクネリア全体がそういう存在だと確信できる。


今この時になってもなお、ベータの認識と今のこの世界がどの程度まで

一致しているかは不明だ。しかし、目の前にある要素には間違いなく、

現実に融和した「ゲーム」がある。自分たちが今、そのプレイヤーに

なっているという感覚も確かだ。


「たぶん、本格的なゲームの開始は城内に入ってからだと思う。でも、

ここからもうゲームエリアなんだという気構えは持っててね。」

「分かった。」

「いよいよですねベータ隊長。」


「よおし!」


シャッ!


腰のホルスターから銃を引き抜き、ベータがグッと表情を引き締めた。


「いくぜ我が愛銃…………………」

「どうした?」

「…………これ、名前何だっけ?」

「知らなかったのかよ。」

「ええっと、確か…」


ガクッと膝の力の抜けたラモンドに代わり、カンドフが答える。


「E5177ーSPだったっけ。」

「型番だけ?」

「それしか憶えてないなあ。通称があったかどうかは知らない。」

「えー…じゃあちょっと待って…」

「今ここで考える気か、お前?」


呆れるラモンドの言葉も聞こえないのか、ベータはじっと銃を凝視して

考え込む。しかしその時間は、ごく短かった。


「よし決めた。」

「早いね。」


「いくぜ愛銃、ベータマックス!」

「え?」

「は?」

「さあレッツゴー!!」


ザッ!


名前にツッコミを入れる間を二人に与えず、ベータは門を抜けて進む。

何となく顔を見合わせたラモンドとカンドフも、肩をすくめ後に続く。


ガチャン!


入口に続く敷石に踏み込んだ直後、背後で閂のかかる音が響いた。

振り返って見ると、いま通ってきたばかりの門が固く閉ざされている。

誰の気配もない。自動で閂が下りるような構造でもない。どう見ても、

ひとりでに閉門したとしか思えない状況だった。


「…ま、そうだろうな。」

「うん。」


もう一度肩をすくめ、ラモンドたち二人は正面に向き直る。ベータは、

音に振り返りもしていなかった。

何だか可笑しくなった二人が、ほぼ同時にフッと笑みを浮かべる。


何をやってるんだかな。

見方によっては、退路を断たれたと言ってもいい窮状だろう。なのに、

何でもない事のように進んでいる。はっきり言って、現実感ってものを

どこかに置き忘れたような気分だ。この先にそびえている城の中には、

間違いなく餓鬼人が群れなしているだろうに。


案外、自分たちもしっかりベータに染まりつつあるのかも知れない。

真実がどうであろうと、今目の前にあるのは日常と程遠いイベントだ。

そこに自ら飛び込もうとしている、自分たちは何なのだろうか。


そう。

考えるだけ損…いや「野暮」だ。

どれほど危険だろうと、挑むだけの価値はもう見出せている気がする。

世界の真理だ何だは、今はそれほど重要じゃない。そこまで至るのは、

きっともっともっと先だ。ならば、今は開き直ってこの城に挑むまで。

状況は意外とシンプルだ。シンプルだからこそ、ベータは迷わない。

やがて二人はベータに追いつくと、その左右を挟むように並んだ。

チラと二人を見やるベータの顔に、ニッと不敵な笑みが浮かぶ。



正門はもう、目の前だった。


================================


ガチン!


長い直線の道が途絶え、正門の前の石畳に立った瞬間。

目の前にドンとそびえる正門から、何かしらの機械的な音が響いた。

反射的にベータとカンドフの二人がそれぞれ構える。しかしそれ以上、

何か起こる気配はなかった。


しばしの静寂ののち。


「ん?」


しばし様子を見ていたラモンドが、怪訝そうな声を上げる。彼の視線の

先に、ごく小型の動くものがいた。生き物ではなく機械仕掛けの何か。

どうやら先の機械音は、正面門扉の下部分が展開した音だったらしい。

そこから這い出してきたのが目の前の機械仕掛け、という事だ。


「これって…」

「似てるよね。」

「だよな。」


これといって敵意などは感じない。最低限の警戒はしているものの、

三人とも好奇心の方が勝っている。無理もない。目の前の機械仕掛けは

どう見ても、『蜘蛛足』の多脚形態の小型版そのものだったからだ。

要するに、小さな機械蜘蛛である。もちろんサイズの都合上、ある程度

簡略化されてはいる。しかし全体の設計概念が同じであるという点は、

素人目にも明らかだった。


「…蜘蛛足の1/144スケールのプラモデルみたいだね。」

「例えがよく分からんが、おそらくそんな感じだろうな。」

「って事はやっぱり、ブフレの古書と同じ起源を持ってるって事に…」


と、その刹那。


カチャカチャカチャッ!


再び動き始めた機械蜘蛛が、前足を振って自分たち三人を招く。それは

まさに「招く」としか形容できない独特の動きだった。


「来いって事かな。」

「間違いないだろ。お招きとあれば行くしかねえな。覚悟はいいか?」

「「応よ!」」


ベータとカンドフの即答が重なる。今さら覚悟もへったくれもない。

罠だという印象もない。どちらかと言うと、出迎えって感じだろうか。

いずれにせよ、自分たちはもう既にプレイヤーとして認識されている。

昨日の時点で餓鬼人と戦っており、しかも出口を塞ぐ細工までした。

ここまでケンカを売っている以上、攻城する以外の選択はないだろう。


「行こう!」


ベータの言葉を合図に、三人は迷う事なく揃って足を踏み出す。

それを待っていたかのように、扉がゆっくりと内向きに開いていく。



ロタストリグ攻城の始まりだった。


================================


中は暗い。

しかし、気配は大いに感じ取れる。おそらく照明が死んでいるわけでは

なく、単に点いていないだけだ。

入口から長く伸びている三人の影の向こうに、機械蜘蛛の小さな影も

チョコチョコと見えている。なおも奥に誘っているのも見て取れた。


「離れるなよ。」


ラモンドの言葉を受けて、ベータとカンドフはピッタリと彼に身を寄せ

固まって進む。エントランスの広さは推測しか出来ないが、歩く足音の

反響からしてそれほど広くはない。天井の高さまでは分からない。

もう少しで、足元に伸びている入口明かりが途絶える。そこまで行けば

もはや戻る道は無くなるのだろう。それでも三人は、迷わず前進する。


やがて。

三人が足を止めると同時に、目の前にいた機械蜘蛛が赤い光を放った。


バタン!!


その光を合図にしたように、背後の扉が勢いよく閉まった。と同時に、

暗かった室内に一気に篝火のような光が満ちる。


エントランスホールの広さは、ほぼ予想通りだった。そして自分たちが

立っているのは、階段を望む中央。赤いカーペットに炎の柄が映える。


そして。


「オォォォォォォォォッ!」


それまでの静寂を引き裂くように、周囲から一斉に呻き声が響き渡る。


「うわぁお!」


ざっと周囲を目で薙いだカンドフの声に、驚きと呆れが混じった。

同じく周囲を確認した他の二人も、それぞれ瞠目する。


周りにいたのは、餓鬼人の群れ。

明かりが点るのを待っていたのか、いっせいに迫ってくる。その様は、

まさに地獄の亡者だった。


刹那。


「オープン!!」


キュイン!!


ベータの叫びと共に、三人の周囲に合計8枚のステータスウィンドウが

一瞬で現出する。初動の遅れで接近を許していた先頭の餓鬼人たちは、

突然現れたその半透明の壁に激突。なおも進もうとするものの、完全に

通せんぼ状態になる。後詰めの個体も同じく、重なるように止まった。


さながらシャークケージである。

堅牢なウィンドウで餓鬼人の突進を止めはしたものの、釘付け状態だ。

このままの状態が続けば、あるいは上から乗り越えられる危険もある。


ベータは迷わなかった。


「どけ。」


ダンダンダンダンダンダン!!


ベータマックスの連射により、正面ウィンドウに取り付いていた個体を

次々に撃ち倒していく。貫通にこそ至らないものの、その直撃を受けた

餓鬼人は大きくのけ反り、ほどなくその肉体を崩壊させて消滅する。


チャリンチャリンチャリン!


「一撃だね。」

「ちゃんと金も出るな!」


言い放ったカンドフが、己の目の前にあるウィンドウの上端部を掴んで

勢いよく跳び上がる。壁を跳び越すような挙動で、彼はウィンドウの

外側に着地した。


ドカドカッ!!


一瞬遅れて迫り来た左右の二体を、間髪入れず蹴り倒す。爪先からは

例によって刃が出ており、側頭部に凶悪なキックを喰らった餓鬼人は

そのまま消滅した。やはりこの時はコインドロップは起こらない。

だが、ラモンドは先に倒された分のコインだけを手早く回収する。


ダンダンダンダン!!


一瞬注意の逸れたラモンドの左右に迫る餓鬼人が、ベータの連射により

対称形で撃ち倒された。身を起こすラモンドが、小さく肩をすくめる。


「おっと、ヤバかったか。」

「気をつけてよね!」

「応よ。」


パシッ!!


答えたラモンドは、虚空に現出した4体分のコインをキャッチする。


「埒が明かねえ。とにかくこの場を移動するぞ。」

「分かった。ついて来てよ!」

「了解。」


答えたカンドフがベータの方に目を向ける。と同時に、正面に出ていた

ウィンドウ2枚が一瞬で消失した。


「行こう!」

「よっしゃ!」


ラモンドが先に踏み出していた方向には、次の間への扉があった。

そこまでに至る動線を確保すべく、ベータとカンドフが横一列に並ぶ。

次の瞬間。


ダダダダン!

ドン!


ベータマックスの連射と、カンドフの手のひらから放たれた火球とが

同時にラモンドの左右に炸裂する。道を塞ごうとしていた餓鬼人たちは

まとめて吹き飛ばされていた。


「おお、さすが姐さん。」

「あんまり数は撃てないからね。」

「了解っす。行こう!」


そう言った二人が同時に駆け出し、ラモンドの背を追う。彼はすでに、

正面の餓鬼人を回し蹴りで撃破し、動線を確保していた。

それでも、餓鬼人の数は圧倒的だ。雪崩るように左右から襲い来る。

あっという間に次の扉へ続く道が、埋め尽くされそうになった刹那。


「ウィンドウロード!!」


キュイィィィン!


まるでトランプカードを並べるかのように、左右に同数のウィンドウが

一気に並び壁を形成する。さながら海を割ったモーゼのように、三人が

走るための不条理きわまる道が形成されていた。


「便利なデタラメだぜ!」


呆れたように笑いつつ、ラモンドが先頭を切って駆け抜ける。さすがに

全ての餓鬼人からコインドロップを狙うのは愚策の極みだ。今はまず、

何をさて置いても城を攻略する事が至上命題である。


迷いなくエントランスを突っ切り、三人は次の間に突入する。同時に、

駆け抜けた扉が勢いよく閉まった。よほど防音の効果が高い扉なのか、

エントランスからの餓鬼人の唸り声がピタリと聞こえなくなった。

さすがに、飛び込んだ部屋には誰もいないようだった。


「ここでひと息ってか。」

「…まあ、最初のエントランスでもちょっとハード過ぎるよね。」


そう言いながら、ベータがちょっと視線を泳がせる。


これが攻城を目指すゲームならば、入口の難易度があまりに高過ぎる。

いくら何でも、あんな数の餓鬼人を裁くのはかなり難しいだろう。が、

もしかするとこれは自分で蒔いた種と言うべき結果なのかも知れない。

昨日の段階で、迷宮にあった出口をウィンドウで塞いでいたのである。

あの措置で城外に出られなくなった餓鬼人が、ここにたむろしていたと

考えるなら。


ほぼベータたち二人のせいである。文句を言う筋合いではないだろう。


「…ま、武器だけじゃさすがに少しキツかったかも知れないけどな。」


呼吸を整えたラモンドが、言いつつチラリとベータを見やる。


「あのステータス防壁が出せるなら何とかなる。」

「チートだけどね。」

「チートって何?」

「ええっと…つまり…」


ぐるりと目を一回転させ、ベータは苦笑した。


「ズルって事かな。」

「なあるほどね!」


納得したような口調で、カンドフも笑い返す。


「無茶やってんだから、多少ズルがあってもいいって話よね。」

「話が分かるなあ、姐さん。」

「んじゃ、先を目指すぜ。」


ラモンドの言葉に、二人が頷く。


そうだ。

今さらチートだ何だと余計な定義を持ち出すのは、それこそ時代遅れと

言うべきだろう。ロタストリグ公爵がどんなプレイヤーだったにせよ、

今はもう「エターナルメモリーズ」というゲームは終了しているのだ。

プレイヤーとして自分たちにどんな力があるにしても、文句を言われる

筋合いはどこにもない。ここでは、自分たちがルールなのだから。



攻城は、第二段階に移行する。

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