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世界を解き明かせベータ  作者: 幸・彦
第3章 ロタストリグの城
35/54

思いがけない事実

何事も、そう都合よくはいかない。現実だろうと虚構だろうと、それは

いささかも変わらない。まさに今、ベータたち二人はマイナーな問題に

直面していた。



稼いだお金が重過ぎるという、実に贅沢な問題に。


================================


沈黙と停滞は、意外なほど呆気なく終わった。


「とりあえず、ドロップするコインを換えられないか調べてくれ。」

「え?」


キョトンとするベータに、提案したラモンドが苦笑交じりに続ける。


「そのくらい思いつけよ。」

「ええっと、つまり?」

「もっと高額の金貨で出せないか、それを調べろって事だよ!」

「…あ、そうか。」


ようやく察したベータが、少し顔を赤くする。自分の察しの悪さを、

今さら痛感したらしい。


「そうだよね。金貨の金額の種類はいくつもあるんだし。」

「頼むぜ。」


考えてみれば、ごく当然の発想だ。

報酬が高額になるのなら、物理的な量を抑えるべく高額貨幣で受取る。

ゲーム世界というよりむしろ、現実世界における一般常識だろう。

そういう発想が出てこない自分が、ベータはかなり情けなかった。


………………


それはそれとして。


「ええっと…」


出しっ放しにしていたウィンドウに向き直ったベータが、画面下端に

並ぶアイコンに注目する。あれこれ機能が細かく復旧しつつあるので、

まずは換金設定のアイコンを探す。幸い、分かりやすい$マークの形の

アイコンがすぐに見つかった。


「これだ!」


キュイン!


ポップアップさせると、案の定そのウィンドウはコインドロップ設定を

カスタマイズするために用意されたものだった。歳月が経っているにも

関わらず、現在のレートにきっちり対応しているらしい。


「どれどれ。」


興味深げに歩み寄ったラモンドも、そのウィンドウを覗き込む。


「この表示が今の換金値だな。」

「そう、1000ビドル金貨に設定されてる。だから1体につき25枚

ドロップしてるって事ね。」

「って事は、5000ビドル金貨に切替えれば1体5枚で済むのか。」

「いっそ10000ビドルなら?」

「それじゃ割り切れないだろうが。残りの5000はどうなるんだ。」

「えーと…」


画面を操作し、ベータがその詳細を確認した。


「次の敵を倒した時点で、不足分はまとめてドロップするみたいだね。

つまり1体倒しても20000しか出ないけど、もう1体倒した時点で

一気に不足分を含めた30000が出るってシステム。」

「融通が利かねえな。そこだけ少額金貨でとは行かないって事かよ。」

「設定すると、あくまでもその額でしか出せないんだね。どうする?」

「うーん…どうすべきか…」


換金のシステムはおよそ理解した。そうなるとやはり、最善の設定で

進行したくなるのが一般的な人間の感情だ。どうも目移りしてしまう。


基本的に、二人とも割と欲が深い。損はしたくないと考える性分だ。

ウィンドウを前にしてあれやこれや悩む二人は



明らかに、油断し過ぎていた。


================================


「…あれ?」


換金額に悩んでいたベータの目に、それまでなかったものが映った。

ウィンドウのほぼ中央に、二つ並ぶ黄色いアイコンが…


「ねえ、これ何だと」


!!!


そこまで言いかけたベータと傍らのラモンドが、同時にハッとした。


それはアイコンではなかった。

透けているステータスウィンドウのすぐ向こうに見えている、餓鬼人の

眼光だったのである。


「しまった!!」


ラモンドがそんな声を上げる。


あまりにも近い。

進行方向にウィンドウを出していたせいで、接近に気付けなかった。

曲がりなりにもここが敵地だという事実を、うかつにも忘れていた。


間合いがない。

剣を振り被る事も、蹴りを叩き込む空間も取れない。迫る餓鬼人は、

半透明のウィンドウのすぐ向こうにいる。こちらに襲い掛かってくる。

恐怖に瞠目したベータが、どうにか体を動かそうとした


その刹那。



ドン!!



透過して襲い掛かって来ると思った餓鬼人が、そのままウィンドウに

激突した。一瞬のけ反ったものの、また上体を起こしてこちらに迫る。

しかしやはり、その体はウィンドウに阻まれてそれ以上進めなかった。


「へ?」


後ずさろうとする中途半端な姿勢を何とか正し、ベータが声を上げる。

唐突に恐怖が抜けた、何とも間抜けな響きの声を。


「来ないの?ってか…」

「来れないのか。」


なおもその場で足踏みする餓鬼人を見つつ、ラモンドが右手をかざす。

餓鬼人に触れない上の部分を選び、彼はノックのようにウィンドウを

叩いてみた。


コンコン!!


「おいおい、やっぱりかよ。」

「え、あなたも?」

「ああ。触った事もなかったけど、これ物理的に存在してるらしいな。

しかもメチャクチャ硬いぞ。」

「そんな馬鹿な…」


信じられないという態で、ベータがウィンドウに右手で触れてみた。


「わっ!!」


予想通りなのか予想に反したのか、その手は何の抵抗もなく透過した。

あやうく反対側にいる餓鬼人の体に触れてしまいそうになり、あわてて

手を引っ込める。


「う、嘘つきっ!!」

「嘘じゃねえよ。見てろ。」


そう答え数歩後退したラモンドが、金貨を一枚革袋から取り出した。

そして大きく振り被り、その金貨を思いきりウィンドウへと投擲する。


次の瞬間。


カァァン!!


甲高い音を立てて、投げたコインはウィンドウに弾かれた。そのまま

放物線を描き、投げたラモンドへと跳ね返っていく。それを器用に指で

キャッチし、ラモンドはあらためてベータに向き直った。


「どうだ?」

「確かに。おみそれしました。」


さすがに認めざるを得なかった。

今投げた金貨は、確かにウィンドウ表面に当たって跳ね返っていた。

断じて、向こうにいる餓鬼人の体に当たったわけじゃない。それなら、

あんな音は出るはずがないだろう。目の前で起きた事こそ全てだった。


半透明のウィンドウの向こう側に、新たな餓鬼人が現れて迫ってくる。

しかしその個体もまた、ウィンドウという壁に阻まれ虚しく足踏みだ。

仲良く並んで、こちら側に来ようと頑張っている。その様はどことなく

檻の中の動物を思わせた。


「知らなかった、こんな謎仕様。」

「やっぱりかよ。」


シュールな光景を見ながら、二人が実感のこもった言葉を交わし合う。



それは限りなく異様で、かつ非常に面白い発見だった。

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