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世界を解き明かせベータ  作者: 幸・彦
第3章 ロタストリグの城
33/55

ロタストリグの箱庭

奈落の底まで続くかもと思っていた階段は、予想よりも早く終わった。

とは言え、階数で言えば少なくとも4階分くらいは下っただろう。

地の底と形容してよさそうな深度に広がるのは、確かに迷宮だった。


天井はかなり高いが、道幅は狭い。空気が澱んだような感覚はない。

何と言うか、歳月の流れをほとんど感じられない無機質な空間だった。


「こないだの下水道とは違うね。」

「そうだな。」


ベータのひと言に答え、ラモンドは彼女に視線を向けて告げる。


「生活感と呼べるものがない。俺も清掃員で長くやってきてるからな。

普通なら、こんな場所には数多くの宿なしが潜り込むもんだが。ここは

本当に人の気配がない。つまり…」

「昔のゲームフィールドに近いね。そういう気配を肌で感じる。」



ベータの言葉に、迷いはなかった。


================================


ここへ来る前に、ある程度ベータが推測を立てていた。


「証拠はないけれど、ラクネリアは「クリエイトフィールド」として

ロタストリグが創った街だと思う。そう考えると説明がつくから。」

「何だそれ?」

「ゲームで実績を積んだプレイヤーが、何もないフィールドの一区画を

買い上げて自分好みに創り上げる事ができるって特典よ。普通だったら

ちょっと広い庭付きの家とか、公園とかを創れる程度の権限だけど。」

「ロタストリグは、そのクリエイトフィールドとやらで街ひとつ丸ごと

自分の思うまま創ったって事か。」

「そう。」

「相当やり込んでたってワケね。」


カンドフの声にも、いささか呆れの響きが混じる。

しかし疑う気にはならなかった。


もちろん、相変わらず世界の根底を覆すような話ではある。とは言え、

三人にとってはどこまでも今さらな仮定だ。ゲーム世界の延長に現在が

あるという前提さえ受け入れれば、納得できる事象は少なくない。

ラクネリアの街は、ロタストリグが創った箱庭的な場所かも知れない。

もちろん歳月を経て、当初の想定を超える歴史を重ねてはいるだろう。

ロタストリグが存命かどうかはもうあまり関係ない。千年以上の歳月が

この街を現実として育んできた。


そして、「エターナルメモリーズ」の運営が既に終わって久しいなら。



おそらくベータは、永い年月を経て久し振りに来訪したプレイヤーだ。


================================


「クリエイトフィールドは、ゲームの中で他のプレイヤーに自分なりの

独自エリアを楽しんでもらうという意図を持っている。つまりここには

きっとロタストリグが用意していた「ゲーム」があるはずだよ。」

「なかなか愉快な話だな。もっとも今の時代にそれが残っているかは、

いささか怪しいところだが。」

「まあね。」


言葉を交わしながら、二人は通路を道なりに進んでいく。今のところ、

分岐などはない。壁はブロック状になっており、上と下の二段目の列が

淡い光を放っている。地下深くにも関わらず、かなり明るかった。


やがて、最初の分岐点に到達。


「聞こえるかカンドフ。」

『ちょっと声が小さくなったけど、聞こえるよー。』

「俺たちはどっちに進んでる?」

『街の中心に向かってるみたいね。そのまま真っすぐならお城の地下に

到達するよ。』

「真っすぐはちょっと無理だな。」


そこで言葉を切り、ラモンドがすぐ傍らのベータに向き直った。


「聞いた通りだ。どうする?」

「今の時点では、どっちに進んでもあまり変わらないだろうなと思う。

最終的には城に行くんだろうし。」

「よし。んじゃ適当に進むか。」


意思決定は早かった。あらためて、ラモンドは通信具に向け告げる。


「とりあえず進む。もしも致命的におかしな方向に向かってるようなら

その旨だけを警告してくれ。」

『了解。あたしも可能な限り真上を移動するよ。』

「ああ、頼んだぜ。」


そこで通信を切った刹那。


「…ん?」


ラモンドとベータが、同時に何かの動きを捉えた。進行方向の頭上左、

発光しているブロック列のすぐ上にカサカサと動く何かがいる。


「…んん?」


目を凝らしたベータが、怪訝そうな声を上げた。


「もしかして、蜘蛛?」

「は?」


同じく目を凝らすラモンドが、手にしていた通信具の先端のライトを

そちらに向ける。逃げるかと思ったその対象は、光を当てられた状態で

じっとしていた。


確かに蜘蛛を思わせるシルエット。

しかしそれは生物ではなかった。

手のひらに乗るサイズながら、その体は精緻な機械で構成されている。

あまりにも見覚えのあるその姿に、二人は揃って首をかしげた。


そう。



どう見てもその姿は、起動モードになった『蜘蛛足』の小型版だった。


================================


沈黙も停滞も、ほんの一瞬だった。


ウィン!


小さな駆動音を響かせた小型蜘蛛の単眼が、二人の方に向けられる。

遠目にも、その奥にある機構が収縮したのが見て取れた。間違いなく、

こちらを認識している。


そして。


『プレイヤーを認識しました。』

「!!?」


いきなり聞こえたその声に、二人は反射的に身構える。しかし声の主は

どこにもいない。分岐の手前にいる以上、死角など存在しないはずだ。

とすると…


刹那。


『ちょっと二人とも。』


いきなり通信具からカンドフの声が聞こえてきた。


「何だ。今ちょっと取り込み中」

『今聞こえた声、何だと思う?』

「は?」

「何て聞こえたの!?」

「何てって…」


ベータの問いに対し、カンドフから返ってきた答えは予想通りだった。



『プレイヤーを認識しましたって、そう言ってた。』


================================


「なるほど、ね。」


一瞬で落ち着きを取り戻したらしいベータが、小型蜘蛛に向き直る。

その視線を受けてか、蜘蛛は素早く脚を動かして通路の先へと消えた。

ベータは、追おうとはしなかった。


「逃がしていいのか?」

「いいよ。あれはただの監視役だと思うから。」


小型蜘蛛が去った先を見据えつつ、ベータが淡々と告げる。


「やっぱりここは、ロタストリグが創ったゲームフィールドだった。」

「俺とカンドフもプレイヤーという認識になってる、って事だな。」

「だね。メンバー登録したから。」


そこでベータは、ニッと笑った。


「ここからは一筋縄じゃいかない。覚悟はいい?」

「言うまでもねえ。」

『おお、ワクワクするねえ。』


即答するラモンドも笑う。

おそらく、カンドフも笑っている。


次の瞬間。


キュイィィン!!


甲高い音が響くと同時に、壁上下の発光がほんの一瞬激しく明滅した。

何かの気配が、通路の奥から高速で迫り、そのまま背後に抜けていく。

迷宮内を、意志に似たものが一気に駆け抜けたような感覚だった。


やがて。


「…何か来るぞ。」

「そうだね。」


気配。

そうとしか形容できない何かしらの存在が、こちらに迫って来ている。

大きくはない。しかし、魔ネズミのような矮小な存在でもない。

それほど速くはないものの、確実にこちらに近づいてきている。

それも単体ではない。


「ラストプレイヤーからの試練か。面白そうじゃねえかよ。」


ジャキン!!


言い放つラモンドの靴の爪先から、刃が飛び出て固定される。


「おいベータ。」

「何ですか隊長。」

「分かってると思うが、稼ぎ時だ。しっかり仕留めていけよ。」

「言われなくても。」


ジャキィィィン!!


不敵に笑いつつ即答したベータが、携えていた剣を鞘から抜き放つ。



戦いの幕開けは、間もなくだった。

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