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世界を解き明かせベータ  作者: 幸・彦
第3章 ロタストリグの城
32/54

奇人の迷宮へ

その日の夕暮れ。


日が傾くと共に、さすがに野次馬も三々五々と散っていき、店の前には

誰もいなくなっていた。戻っていたラモンドたちも、ホッと息をつく。

何と言うか、想像と全く違う意味でかなり波乱万丈な一日だった。


「疲れたな。」

「まだ何にもしてないのにね。」

「まあ、こんな事もあるよね。」


少し早めの夕食を、街で買ってきた弁当で済ませながら三人が語らう。

さすがのカンドフも、今日は料理をしようという気分ではないらしい。


とは言え、状況は悪くはない。街に入る前に想定した事、覚悟していた

事などと比べれば、遥かにマシだ。怪しまれたり怖れられたりする事も

なく、むしろ少し歓迎されているとさえ感じられた。最初はその理由が

サッパリ理解出来なかったが、今はもうほぼストンと腑に落ちている。


この街はまさに、蜘蛛の巣そのものと言っていい構造になっている。

そしてそれは、偶然などではない。マンホールの蓋だの街の記章だの、

いたる所に蜘蛛をモチーフにしたと思しきデザインが刻印されている。

要するにここは、蜘蛛をシンボルとする街なのである。そんな場所に、

こんな代物で訪れたらどうなるか。ちょっと考えればすぐ分かる話だ。

実際、街の入口で拝んでいた人から今に至るまで、全て納得がいった。


「…空から見れば、さぞかし愉快な光景だっただろうね。」

「確かにな。」


天井を仰いだベータとラモンドが、同じように苦笑を浮かべる。

その様子はまさしく、巣を這う蜘蛛そのものだっただろう。何と言うか

今さら見てみたいとさえ思える。


ラストプレイヤーを求めて、最初に訪れた街。



そこには、何とも数奇な巡り合わせが待っていた。


================================


「前向きに考えましょう。」


気持ちを切り替えたらしいカンドフが、紅茶を淹れながら告げる。


「気味悪がられたり警戒されたりというマイナス要素がなかったから、

少なくともここで人探しはできる。まあ、その前にやる事もあるけど。

多分、そっちもラストプレイヤーの手がかりになるんじゃないかな?」

「ああ、俺もそう思う。」


出された紅茶をすすり、ラモンドがそう言って床に視線を向けた。


「また地下かよって話だが。」

「ホントだよね。」


ベータがそんな言葉を吐き、小さく肩をすくめた。


「まあ、今回は下水道じゃないからまだマシだろうけど。」

「どっちもどっちだな。」


ぐっと紅茶を飲み干し、ラモンドはわずかに語調を強くする。何かしら

決意を固めたような響きだった。


「いずれにせよ、越州清掃員として仕事を請け負う予定はしてたんだ。

怪しまれないようにってのが当初の考えだったが、カンドフの言う通り

多分今回の仕事はラストプレイヤーの手がかりになる。だったらもう、

さっさとやっちまう事にしよう。」

「了解っす隊長!」

「了解っす!!」


ベータに倣いカンドフも敬礼する。もうラモンドもツッコまなかった。

隊長かどうかはさておき、現時点で指揮を執るべきは彼で間違いない。

ラストプレイヤー捜索が探り探りの状態である現在、やはり頼るべきは

特殊清掃員としてのキャリアが長い彼の知見だろう。



寄せ集めながら、意思統一という点で彼らは確かに良いチームだった。


================================


「これか。」

「いかにもって感じだね。」


翌日の早朝。

ラモンドとベータは、街外れにある小さな森の端の岩場に来ていた。

目の前の苔むした岩壁には、大きな両開きの門がドンと据わっている。

大きな閂が架けられているものの、特に施錠はされていないらしい。

不用心だと言うべきかどうか、少し判断に迷う。



昨日の内に、役場の人にその存在を教えてもらっていた「地下迷宮」の

入口だった。


================================


ラクネリアの地下迷宮。


ラモンド自身も以前、その噂だけは耳にした事のある古の迷宮だった。

もちろん、そんな所にわざわざ足を運ぼうなどと考えた事はない。彼は

そこまで夢見がちな性格ではない。そもそも、稼げる臭いがなかった。


しかし、今は事情が異なっている。


世界の真理を知るために探す対象、ラストプレイヤー。最初の一人が、

このラクネリアにいるらしい。もう今さらその情報は疑わない。いや、

事実かどうか確かめる価値はある…と言うべきだろうか。いずれにせよ

『ブフレの古書』を信じてここまで来た以上、後戻りの選択などない。


もちろん、昨日の時点でさりげなくラストプレイヤーの事は質問した。

かなりぼやかした質問になったが、返ってくる言葉はほぼ同じだった。

この街で「特別な人間」と言えば、街の中心にそびえている城の主。

今も昔も、そこまで特別な存在なら彼しかいない。


その名はロタストリグ公爵。

ラクネリアの街を創り上げた人物。



そして、天性の奇人だった男。


================================


ロタストリグ公爵。


その名を知らないものは、この街に一人もいない。ある種の偉人だ。

しかしその存在はきわめて特異で、しかも現在のラクネリアには面識の

ある人間は一人もいない。そして、それは限りなく当然の話だ。


正確な記録は残っていないものの、ラクネリアは千年以上の歴史を持つ

非常に特殊な都市である。そして、それを創った人間が生きているとは

到底思えない。いかなる奇人でも、世の中の摂理からは逃れられない。

街と共に在る歴史として、その名は永遠のものになっているのである。


この街で特別な人間を探すのなら、彼は決して避けては通れない。

実感したからこそ、ラモンドたちはそれを聞いた時点で引き下がった。

何年前の人物であろうと、検討する価値は十分にあったからだ。


「て言うか、ほぼ確定だと思う。」


ベータの私見は明確だった。


「あたしが何年石になってたのか、今はまだ正確に分からない。だけど

ラストプレイヤーが定義通りの存在なら、同じだけの年月は経てるよ。

だとすれば、何かしらの形で確信は得られるはずだよ。」

「確かにそうよね。」

「まともな人探しじゃないってのは今さらだからな。」


カンドフとラモンドも賛同の意志を示す。



今に至るまでの経緯が突拍子もないだけに、疑念はもう無かった。


================================


ここで示されたラストプレイヤーの候補は、おそらくロタストリグで

間違いないだろう。とすれば、次に考えるべきは彼への接触である。

しかしさすがに、街の者は誰ひとりその生存を信じていない。だから、

こちらとしてもその態は保つ。


ゲーム世界の延長だというベータの言葉を信じるならば、何らかの形で

現在も存在している可能性はある。しかしそれは絶対に公言できない。

下手をすれば、街の人間全てを敵に回すような事にもなり得るだろう。

ひとまず、生死は棚上げしておく。


「酔狂な話ですねえ。」


呆れつつも、ダカタはロタストリグに関する話を色々聞かせてくれた。

もちろん昔の人間なので、具体的な人となりなどは分かるはずもない。

あくまでも功績、あるいはこの街に伝わっている伝承などについてだ。

聞けば聞くほど、普通の人間だとはとても思えない人物だった。

もちろん、長い時の中であれこれと尾ひれがつく事もあったのだろう。

しかし、どうやらこのラクネリアを一人で創り上げたのは事実らしい。


そしてもうひとつ。



こちらはもっと理解が難しい、彼の遺した謎の爪痕である。


================================


「地下迷宮?」

「ええ、冗談のようですが、確かにこの街の地下に広がっています。」


さすがに怪訝そうな声のラモンドに答え、ダカタは小さく苦笑した。


「下水道とかですか?」

「いいえ。都市インフラとは根本的に異なる、本当に謎の空間です。」


言いながら、ダカタの指が地図上の一箇所を指し示す。


「入口はこのあたりにありますが、街の人間にとっては禁忌ですね。」

「つまり、誰も入らないと。」

「ええ。もちろん迷子になる危険があるからですが、恐ろしい伝承が

残っているのも大きな理由のひとつなんですよ。」

「伝承?その地下迷宮に?」

「そうです。」


ベータの言葉に即答したダカタは、そこで口調をあらためた。


「別に隠し事でもありません。が、中途半端な好奇心で聞く内容でも

ありません。今では都市伝説として捉えられていますが、赴くのならば

多分危険は避けられないでしょう。それでもお聞きになりますか?」

「もちろん。」


彼と同様の即答を返したベータが、しゃんと背筋を伸ばして言い放つ。


「好奇心が我々の最大の動機なのは確かです。でも、断じて中途半端な

気持ちでここに来たわけじゃない。覚悟はちゃんと持ってますから。」


その言葉に、ラモンドとカンドフも黙って頷く。

答えは最初から決まっていた。



そして、今に至る。


================================


『聴こえるー?』

「大丈夫です姐さん!」

「乾度良好だ。」


二人の声が、かすかに反響する。


迷宮の入口にかけられていた閂は、呆気なく外れた。扉の外側はかなり

苔むしていたものの、扉そのものや蝶番に劣化はほとんど見られない。

内側に伸びる通路の壁にも、浸食や錆などは見た限りほぼ無かった。


「時間が停まってるみたいだな。」

「だよね。」


そんな言葉を交わした直後、地上にいるカンドフから通信が入った。

入口で待っているのではなく、街の中から位置を探る役どころである。


「GPSまで存在するとは、本当に時代が進んだんだなあ。」

「何だよGPSってのは。」

「まあつまり、こんな風に対象人物の位置を表示するシステムだよ。」


ラモンドの問いに答えたベータが、手にした赤い通信具を掲げる。


「たぶん原理は違うんだろうけど、少なくともゲーム終了前の世界には

こんなテクノロジーはなかった。」

「それを知ってるって事はつまり、プレイヤーの世界にはあったという

事になるんだな?」

「もちろん。それももっと…」

「おい気を付けろ!」


不意に響いた怒鳴り声に、ベータはあわてて足を止める。ほんのわずか

前方から、通路の視界が落ち込んでいた。そおっと覗き込んでみると、

そこから先はかなり急な下り階段になっている。


「うわぁ、怖ぁ…」

「どうやらここから一気に下って、下水道などの都市インフラの下まで

深度を取るんだろうな。おそらく、本格的な迷宮はそこからだろう。」

「都営大江戸線みたいだね。」

「何だそれ。」

「東京の地下鉄。」

「…まあいいや。とりあえず下りて先へ進もう。」


いちいち訊くのも面倒になったか、ラモンドがそう言って先に下りる。


「あ、待って下さい隊長!」


彼の後に続くベータが、あらためて通信具でカンドフに呼びかけた。


「今から地下に降りるから、感度の確認よろしくね。」

『了解。気をつけてねー。』


何となく緊張感のないその口調が、逆に怖れや気後れを消してくれる。

むしろワクワクしている。

そんな事を考える自分が、昔以上に頼もしい。



危険な迷宮に挑もうとしている中、ベータの心は実に晴れやかだった。

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