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世界を解き明かせベータ  作者: 幸・彦
第1章 ノスタウの街の出会い
3/54

骨董鑑定士カンドフ

ガラン!


木製らしき乾いたベルの音が響き、入口のドアがゆっくりと開かれた。

薄暗い店内に足を踏み入れた男性―ラモンドが、迷わずカウンターまで

歩を進める。しかし、そこには誰もいなかった。


「おーい!客だぞ!!」

「あっ、はぁーい!」


声を張り上げて呼びかけてみると、すぐに返答があった。やがて奥から

一人の人物があたふたと姿を現す。独特の衣装と帽子をその身に纏う、

紺色の髪の女性だった。年齢不詳という形容がピッタリなその風貌は、

控えめに言っても美しい。しかし、古ぼけた店内では正直浮いている。

違和感の塊のような存在だった。


「あらラモンド。お久し振りね。」

「ああ。元気そうだなカンドフ。」


にこやかに挨拶の言葉を述べるその女性「カンドフ」に、ラモンドも

小さな笑みを返す。


「ようこそ『蜘蛛足』へ。」

「その名前どうにかならないのか。似合ってないし意味不明だぞ。」

「骨董屋の名前なんて、意味不明でちょうどいいと思わない?」

「分からん。」

「あははは!」


やはりにこやかに笑うカンドフが、手早く小さなカップに冷水を注いで

ラモンドへと差し出す。受け取った彼は、それを一気に飲み干した。


「悪いな。」

「いえいえ、久々のお客ですから。このくらいサービスしますって。」


笑顔を絶やさないカンドフが、水を注ぎ直す。


骨董店『蜘蛛足』。

ノスタウの街の西の外れにポツンと佇む、古びた店である。

まともな客が来ているところを誰も見た事がない、開店休業の権化。

どちらかと言うと、安価で飲み物を出してくれる店として知られる。

かく言うラモンドも、近くで仕事があった時はちょくちょく来ていた。


…しかし、迷わず来たもんだな俺。

思い返せば、彼女の本業が何なのかすっかり忘れていたのに。


まあ、いいか。

とりあえずダメモトだ。


================================


「それで、今日はどういった用?」

「ちょっと、鑑定して欲しいものがあるんだけどよ。」

「えっ」


そこまで聞いたカンドフの表情が、あからさまに不審な感じになった。


「もしかして盗品?ダメだよそれ。公務員はきちんとモラルを…」

「いや違うっての。決めつけんなよ傷付くぞ?」

「あれ違うの?ごめんごめん。」


あっさり謝るカンドフに、ラモンドは苦笑を返すしかなかった。

俺は普段どう見られてるんだと思うものの、あらためて考えてみれば

確かに疑われても仕方ないだろう。偽称権なんかを何度も使う人間は、

所詮その程度って事だ。


「じゃあ見ましょう。どんな品?」

「あ、ああうん。実はな。」


ゴソゴソとカバンを探るラモンドは今になって、妙な不安を覚える。

あっさり出していいのだろうかと。その理由は考えるまでもなかった。


盗品じゃない。少なくとも現時点で鑑定を頼む事にもやましさはない。

れっきとした仕事の最中に見つけた代物であり、別に危険物でもない。

このまま役場に持ち帰ってもどうせ遺失物扱いだ。それならばいっそ、

ここでハッキリさせた方がいいと…


いや、違うな。

やっぱり、さっきのあの女に対する警戒心が根強いからなんだろう。

事実、早くもあいつの顔がはっきり思い出せない。あの眼光の効果か。

これ以上妙な事になる前に、せめて本の事を少しでも知っておきたい。


「どしたの、ラモンド?」

「これなんだが。」


迷いを捨て、ラモンドは問題の本を取り出してカウンターに置いた。


「…本?」

「そう。ソーマの屋敷で見つけた。こいつが何なのか調べて欲しい。」


表題さえ読めないこの本は、もはや俺にとって「これから」の一部だ。

とにかく何でもいいから知りたい。そのためにここに来たんだから。


「頼む。」



己の声にこもる実感に、ラモンドは少なからず驚いていた。


================================


「へぇー、英雄の館でねぇ。何だか古い作りだけど、物は新しいね。」

「やっぱりそう思うか。」


自分の見立ては正しかったらしい。そんな確信を得て、ラモンドは少し

身を乗り出した。


「違法な押収物は色々見てきたが、俺もその本には妙なものを感じる。

何かしら魔術的な封印が施されてるなら、何とか解いてくれないか?」

「いやあ、さすがにそれは無理よ。いくらあたしが半魔だと言っても、

そこまで魔術に詳しくはないし。」

「そうか…」


おそらく予想はしていたのだろう。その声にさほどの落胆はなかった。


「じゃあ、表題くらい読めるか?」

「ああうん。それなら資料を見ればどうにかなると思うわよ。」

「読めんのかよ。」

「そのくらいはね。」


言いながら、カンドフは引出しから何やら小さな帳面を取り出した。

それを何度もめくりながら、1文字ずつ確認していく。その作業は、

たっぷり10分にも及んだ。

そして。


「最初の部分を固有名詞とすれば、これで合ってると思う。」

「読めたのか。じゃ教えてくれ。」

「いいけど、教えたらあたしも一枚噛ませてよ。」

「え?」


意外なひと言に戸惑うラモンドに、カンドフはニッと笑ってみせた。


「何だかこれ、面白そうだし。別にいいでしょ?」

「まあ…別にいいけど。」


何となく了承するラモンドに、特に思うところはなかった。むしろ、

少しホッとしているかも知れない。そんな妙な実感があった。

やはり、一人で抱え込むというのは無理があるという事かも知れない。

なら別にいいだろう。そんな思いは否定できなかった。


「それじゃ発表。」


わざとらしく姿勢を正し、カンドフは高らかに告げる。


「表題は『ブフレの古書』です!」

「は?」


してやったりな表情のカンドフに、ラモンドはあからさまに疑わしい

視線を向ける。さすがのカンドフも少し気圧された。


「…え、何かご不満?」

「ホントにそう書いてあったのか、表紙に?」

「そのはずだけど…。」

「いや古書って何だよ古書って。」


思わずラモンドは頭を抱えた。


古書?

どう見ても、後から付け足した表紙じゃない。つまり原題なのだろう。

しかし、だとすれば尚更おかしい。


古書ってのは「古い本」に対しての形容じゃないのかよ。どこの馬鹿が

作ったばかりの本に古書なんて名を付けるんだよ。この本格的装丁で!


「ど、どうかした?」

「いや、いいんだ別に。」


なおも頭を抱えたまま、ラモンドはククッと声を出して笑った。


思った以上に頭の悪い本だった。

しかし、思っていた以上に面白い。著者に会いたいと思えるほどに。


『ブフレの古書』か。

それが俺の運命を試すってんなら、大いに乗ってやろうじゃないか。

名前で笑わせた次は、何を見せる?



さあ、俺の想像を超えてこいよ。

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