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世界を解き明かせベータ  作者: 幸・彦
第2章 下水道の魔ネズミ退治
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「…課金ヘルプ機能?」


一心に文字を追っていたベータが、怪訝そうな声を上げた。明らかに、

予想や期待と大きく違う事が書いてあったらしい。


「どうした。」

「何か、お金を入れればこの古書が攻略のヒントをくれるんだってさ。

その機能が解放されたみたい。」

「ヒントって…具体的には何?」

「さあ、分かんない。」


カンドフの問いに答えたベータが、大げさに肩をすくめて続ける。


「と言うか、状況打開のためのものだとすれば、その場その場で内容は

変わってくると思う。実際に危機に陥ってみないと何とも…」

「そんな想定はしたくねえよ。」


ラモンドが食い気味に否定した。


「そもそも何で本が金を要求する。どこまで足元見る気なんだよ。」

「まあ、ゲームのアイテムって大体そういうもんだから。課金してこそ

前に進めるとか。」

「納得いかねえよなあ。あくまでもそれはゲームでの話だろうがよ。」

「確かに。」


ブツブツと文句を言うラモンドも、実際は苦笑交じりだった。


確かに『ブフレの古書』なる存在はかなり胡散臭い。古の書を自分から

名乗っている割に、現実的な側面が見え過ぎる。こういう物なんです!

という造物主の意図が、かなり露骨に感じ取れてしまうのである。


しかし、だから信用できないという話ではない。むしろその逆だろう。

カビだらけ虫食いだらけの古い本を頼りにする場合、雰囲気こそ出ても

常に不安が付きまとう。その一方、この古書は妙に行き届いている。

ベータという存在をポンポイントで見つけさせた点といい、彼女自身の

ステータスウィンドウで答え合わせできる点といい、事ある毎に確信が

持てる。多少リスクを背負ってでも挑む覚悟ができる。


間違ってもこの古書は、名も知らぬ後世の誰かに遺された物ではない。

永い間スワンプトードの能力で石化させられていたベータと、彼女と

共に何かを成そうとする者のための「道標」だ。もう今さらその仮定に

疑問は持たない。見えざる神に似た誰かがこの世界を形作り、その中に

ポツンと佇むベータのために遺し、そしてここまでページが開かれた。


「まあとりあえず、それで充分だ。課金だ何だは、それこそその局面で

判断すりゃいいだけだろ。」

「そうだね。」

「確かにね。」


ラモンドの雑なまとめに、他二人もあっさり頷く。


疑問は尽きない。しかしその一方、客観的に見た今の状況は悪くない。

いや、むしろ思っていた以上に順調だろう。誰かの助力も必要とせず、

ここにいる三人だけで何度も条件をクリアしてきているのである。

結果的に、荒稼ぎできる方法すらもほぼ確立した。


あと必要なものと言えば、ひとつ。



旅立つ事への決意だけだ。


================================


「…ん?」


不意にベータが訝し気な声を上げ、虚空に視線を向けた。


「どうしたの?」

「いや…何だか重要な更新があった気がする。ちょっと待って。」

「更新?」

「ウィンドウオープン!」


キュイン!


言うと同時に、カウンターの真上におなじみのウィンドウが現出する。

不条理な光景ながら、ラモンドたちはすっかり慣れてしまっていた。


「感覚で判るもんなのか、それ。」

「まあプレイヤーにとっては大事な事だからね。運営からメールが届く

事もちょくちょくあったし。」


いかにもゲームキャラらしい事情を口にしながら、ベータが注意深く

ウィンドウを確認する。ほどなく、彼女は下部アイコンに目を向けた。


「何だろこれ。通知?まさかね…」

「開けてみろよ。」

「う、うん…軽く言うなあ。」

「気を付けてよ。変な魔物が現れるとか、そういうのヤだからね。」

「あたしに言われてもねえ。」


どうやら開き直ったらしいベータが迷いなく、未知のアイコンを開く。

ポップアップしたのは、予想に反しかなり地味なウィンドウだった。


「………………ん?」

「何だこれ。」

「…パーティーメンバー登録?」


非常に味気ない。

非常に事務的。

しかしそこには、間違いなく何かの特別な意味が込められている。

ベータだけでなく、ラモンドたちも理屈ではなく肌で感じ取った。



これは、最終意思確認だと。


================================


「どうする?」


しばしの沈黙ののち。

口を開いたのはベータだった。


「これに登録したら、多分二人ともあたしと同じ様な立ち位置になる。

存在をこの古書と紐づけられる。」

「そうなりゃ引き返せないってか。何と言うか、意外と良心的だな。」


そう言ってラモンドがフッと笑う。


「知らん間に巻き込むんじゃなく、あくまでも自分の意思で選ばせる。

こりゃ間違いなく、神よりも人間の発想だ。」

「確かにね。何だか親近感沸く!」


カンドフもそう応じつつ愉快そうに笑った。


「んじゃ、決まりね。」

「ああ。」

「行っちゃいましょう!」


もうここまで来れば、答えなどほぼ決まっていた。ベータとしても、

本当に「確認」をしたに過ぎない。ハッキリ言って、今さらな話だ。


キーボードを現出させたベータが、迷いなく三人の名前を入力する。

枠は5つあったものの、現時点では無理に埋める事もないだろう。


「では登録しまぁす!ポチッと。」


キュイン!


【登録】のボタンをタップする。

これもまた、地味な手続きである。まあ今となってはゲームそのものが

終わって久しい。エフェクトなどを期待する方が間違いで…


【登録承認 ようこそお三方】


「ん?」

「え?」

「おおっ!?」


いつもの通知音声が、妙に愛想よく響いた瞬間。


骨董店『蜘蛛足』の店内は



眩い光に満たされていった。

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