儲けと展望と
仕留めた魔ネズミの総数、きっちり40匹。正確に言えば、ラモンドが
ベータの前に1匹仕留めているから41匹になる。申告した数も41。
しかし今ここで語るべきは、やはりコインドロップした数だ。これは、
すなわちベータの戦果である。
「1匹につき、3000ビドルだ。1匹分を除いて全部回収した。」
「…面目ないっす。」
「いやいいよ。もう気にするな。」
詫びるベータに答えたラモンドが、ドロップしたコインを並べていく。
ベータが仕留めた数自体は40匹で間違いない。しかし最初の1匹だけ
かなり遠くの個体を狙撃したため、ドロップした金貨を入手し損ねた。
金額的には惜しかったものの、もう今さらあれこれ言っても仕方ない。
「で、合計が…」
「117000ビドルって事になるみたいね。なかなか凄いじゃん。」
パチパチとそろばんを弾きながら、カンドフがそう言って笑う。
「ひゃ、117万円…」
ずらりとカウンター上に並べられた金貨に、ベータも目を丸くした。
「それなりに危険ではあったけど、たった半日でそんなに稼げるんだ。
…やっぱバグってるなあ、数字。」
「ゲームの常識は知らんが、確かにボロいなこの金額は。」
うわずったベータの言葉に、傍らに座るラモンドも同意する。
確かにすさまじい儲けである。
いくら特別手当が出るといっても、魔ネズミの駆除は公務でしかない。
懸賞金の如き高額など、間違っても期待できない。実に地味な稼ぎだ。
しかしベータのコインドロップは、そんな常識を丸ごと覆してくれる。
努力は必要ながら、その努力以上の対価を得る事ができる。
世界の真理が何であれ、今の状況は実にウハウハだった。
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「とは言え、だ。」
ちょっと上等のお菓子をポリポリとつまみながら、ラモンドが呟く。
「ラストプレイヤーってのがどこにいるか次第では、こんな程度じゃ
全然足りなくなる可能性も高い。」
「それはまあ、確かに。」
ひとつしかない銀色の粒をつまみ、カンドフが同意の言葉を述べた。
「最初のポイントまで行って調べるだけなら、このお金でも十分よね。
だけどブフレの古書を信じる限り、ラストプレイヤーは全部で6人。」
言いつつ、壁の地図に目をむける。
「合州国のあちこちに散らばってるとすれば、日数もかかるだろうし。
継続的な資金の補充をしない限り、宿代だけですぐにパンクするよ。」
「うーん…世知辛いなあ。」
誰よりも早いペースでお菓子を口に運ぶベータが、軽く頭を抱えた。
確かに、魔ネズミ駆除でそれなりにまとまった金額を手に入れられた。
しかし実際の話、ラストプレイヤーを探すという目的はかなり遠大だ。
現状、手がかりは『ブフレの古書』とベータのステータスウィンドウの
二つだけ。そもそも対象が今の時代まで生きているという保証もない。
途中で目的が頓挫した場合、その後の生活を維持できなければ悲惨だ。
根無し草であるベータはともかく、さすがにラモンドとカンドフには
今の生活を全て捨てるほどの覚悟は持てない。
「まあ、赴いた先々で今回みたいな駆除をやれば金は稼げるだろうが、
そっちがメインになるのはキツイ。本末転倒になりかねない。」
「あたしだってヤだよそんなの。」
すかさずベータが言葉を返した。
「コインドロップで資金稼ぎする。それはいい。ボロいとも思ってる。
だけど毎度毎度あんな事やってたら心折れる。贅沢とは思わないで。」
「分かってるよそのくらい。」
彼女と同じようにずぶ濡れで戦ったラモンドも、実感のこもった口調で
そう答える。それなりに満足できる結果こそ出せたものの、今になって
疲れがドスンと迫って来ていた。
しばしの沈黙ののち。
「とりあえず、申請を出して他州で仕事ができるようにする。世界の
真理とやらがどんなものだろうと、俺は公務員の立場を手放すつもりは
カケラも無いからな。」
「公僕の鑑ねえ。」
「安定した仕事を大切にしたいってだけだ。」
茶化すかのようなカンドフの言葉を軽く流し、ラモンドはカウンターに
並べられた金貨を見やる。
「まあ、最初に提示されたポイントはオキシー州の中だ。越州しなくて
済む場所なら、2日もあれば何とか行って帰れる。次のポイントがすぐ
表示された場合は、行くか戻るかをその場で考えよう。」
「そうね。」
「それならこのお金で十分だよね。ちょっと贅沢もできそう。」
「贅沢を望むなよまったく…」
先行きはまだまだ不透明なものの、まず目指す場所は決まっている。
当座の資金ができたのなら、焦らず欲張らずひとつずつこなしていく。
遠大かつ突拍子もない話に挑もうとしている割に、三人は堅実だった。
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とりあえずの方針は決まった。と、そこでベータがハッとする。
「そう言えばカンドフ姐さん。」
「はい?」
「忘れてたけど、確か言ってたよね古書がどうのこうのって。」
「ああうん。あたしも忘れてた。」
「何だと?」
忘れていた同士のやり取りを聞き、ラモンドが怪訝そうな顔をする。
「もしかして、俺たちが魔ネズミの駆除に赴いた間に何かあったか?」
「ええ。条件クリアって言ってた。だけど留守番してるあたしが勝手に
見るのも何だし、帰って来るまでは待とうかなと思ってて…」
「早く言えよ!」
ラモンドの声が若干高くなった。
「もしかすると、何かしらいい事があるかも知れないだろ!」
「いい事かどうかは限らないよ?」
「いいじゃん見ようよ早く!」
やり取りを遮ったベータが、古書を引っ張り出して開いた。明らかに、
昨日までよりも先のページである。どういうタイミングで条件クリアに
至ったかはもう分からないが、別にさほど気にする事でもないだろう。
大切なのは内容だ。
「ひょっとしたら、もっと楽に旅ができるようになるかもよ?」
「根拠がねえなぁ。」
「そんなもの無くてもいいよ!」
元気よくそう言い放ったベータが、最新のページに意識を集中する。
ラモンドとカンドフも、反対側からそのページを凝視した。
あれだけの結果を出したのである。苦労も半端ではなかった。ならば、
それ相応の条件をクリアしたのだと思いたい。結果次第では、これから
何をするかも変わってくるだろう。
「よーし、どれどれ…」
読み始めたベータの横顔を見据えるラモンドは、妙な感慨に襲われた。
何をやってるんだかな。
堅実で安定した仕事をしてるはずの俺が、こんな所で何やってるんだ。
訳の分からない不条理に、どれだけ己の人生を懸ける気になってんだ。
毒されてるというか、何と言うか。
俺は確かにベータに引っ張られて、かなり馬鹿げた事に挑んでいる。
だけど不思議と、悔いる気持ちなど浮かばない。どんな結果になろうと
挑む覚悟はできている。まあ結局、面白けりゃいいって事なんだろう。
そんな自分には今さら呆れる。が、それも含めて悔いはしない。
ドンと来いだ。
怪しい古書に己の運命を託す彼らの顔に、影も躊躇も浮かばなかった。




