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世界を解き明かせベータ  作者: 幸・彦
第2章 下水道の魔ネズミ退治
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ささやかな祝杯

「どうでしたか?」

『間違いない、魔ネズミの母体だ。脳天への一撃で仕留めたらしい。』

「そ、そうですか。」

『あの男もずいぶん変わったな。』


伝話器越しの清掃員の声は、どこか呆れのような響きを感じさせた。


『いつも怠けてるわけじゃないが、かと言ってこんな無茶に手を出す

性格でもなかったはずだ。』

「まあ、確かにそうですよね。」


実感のこもった声で、リッツはそう答える。ラモンドの性格を深く知る

彼女だからこそ、そんなラモンドが自分から魔ネズミ駆除という厄介な

申請を出たのは意外だった。しかも母体まで仕留めるとは。

出来る出来ないではない。実力的に「出来る」のは知っている。むしろ

問いたいのは「なぜやったか」だ。

どう考えてもラモンドのキャラには合わない。自分の知る限りは。

あるいは。


キャラに合わない事をするくらい、今の彼には大きな動機があるのか。

だとすれば、それは一体何なのか。


北東区画の魔ネズミ退治。



誰もが嫌がるそんな仕事は、見事に達成という形で確認されていた。


================================


「とにかくシャワー浴びてきて!」


弁明する間すらもなく、ラモンドとベータはカンドフにそう言われた。

当然の事だと、おとなしく従った。


無理もない。

そこまで極端な汚水でなかったとは言え、下水道は下水道なのである。

ずぶ濡れになった姿のまま、店内をウロウロされたらたまらない。

だけど、そうなると…


「まあいい。お前先に入れ。」

「いいの?」

「さっさと行けってんだよ。」

「…面目ないっす、先輩。」

「いいから行け!」

「あいた。」


お尻を蹴られ、ベータはそそくさと浴室に向かう。



既に、着替えは用意されていた。


================================


「お先に。」

「おう。」


タオルで髪を拭きながら、ベータがラモンドに声をかける。その顔は、

満足そうに上気していた。


「うーん…シャワーがあるんだよ。文明の利器だよ。いい時代だなあ。

何年経ってるか知らないけど…」

「何ブツブツ言ってんの?」

「あ、何でもないっす姐さん。」

「誰が姐さんよ。」


ひょいと覗いたカンドフが、苦笑と共にそう答える。


「お茶淹れるから出てきなさい。」

「はあい。」


タオルを肩にかけながら、ベータがいそいそとカウンターに向かう。

ようやく、無事に戻ってきたという実感が湧いてきていた。


言われるがままの仕事だったけど。

ある意味、チートな金稼ぎだけど。

それでもこの未知の時代に目覚めて初めて、意味のある事をしたんだ。

ただのネズミ駆除だったとしても、それは間違いなく前向きな仕事だ。

あれこれ悩んだりするより、ずっと建設的だと言えるだろう。


「何だか嬉しそうね、ベータ。」

「え、そう?」

「よっぽど楽しかったのね。」

「楽しいとはちょっと違うような…でもまあ、そうとも言えるかな。」


視線を泳がせ、ベータはゆっくりと言葉を選んだ。


「実際かなりしんどかったし、正直ちょっと死ぬかと思ったしね。」

「あらま、ハードだったのね。」

「まあね。」


熱い紅茶をひと口すすり、ベータが続ける。


「カエルに石にされる前、あたしは多少なりとモンスターとは戦った。

もちろん、ゲームキャラとしてね。あの時はプレイヤーをしっかり認識

してたから、今の状態から考えると何だか不思議だけどさ。」

「ほとんど想像できないけど、まあ確かに不思議よね。」

「だけど、今は違う。」


そう言ったベータの口調が、ほんの少し強くなる。


「あたしはあたしの意志で動いて、何かを成してる。危なかったけど、

この達成感はゲームじゃ味わえないものなんだと思う。少なくとも今、

あたしはこの世界に生きてる。」

「なあるほど、ね。」


頷くカンドフは、嬉しそうだった。


「さほど心配はしてなかったけど、やっぱり大丈夫みたいね。」

「あたしが?」

「そう。」


答えたカンドフの手が、カウンター端に立ててある『ブフレの古書』を

そっと取り上げる。


「きっと、あなたのそういう心境が影響したんでしょうね。あるいは、

今日の戦果を認めたか。」

「え、何の話?」

「あーサッパリした…」


ちょうどそこに、黒いシャツ一枚の姿でラモンドが戻ってきた。


「何か飲み物頼むよ。」

「はあい、ただいま。」

「いやちょっとカンドフ姐さん!」


いそいそと手を動かすカンドフに、ベータが前のめりで訴える。


「気になる話をぶった切らないで!最後まで言ってよ!」

「あーちょっと待って。」

「何でよ!」

「ちょうどラモンドも出てきたし、一度に説明した方がいいから。」

「………………まあ、うん、ハイ。」

「何だ、どうした?」

「後でね。」


騒々しいやり取りを経て、カンドフがラモンドに紅茶を出す。


「ひとまず今はお疲れさま。」

「ああ。さすがに疲れた。」

「うん。」


落ち着いたらしいベータも、苦笑を浮かべて残りの紅茶を飲み干す。



相変わらず、カンドフはどこまでもマイペースだった。


================================


「さあてと。」


紅茶を飲み干したラモンドが、傍らに置いていた革の袋を取り上げる。

あの激しい戦いの中、どうにか水を被ったり水没したりといった被害は

免れた私物だった。


「んじゃ、稼ぎを数えるか。」

「えっ!?」


そわそわと古書に視線を向けていたベータが、裏返った声を上げる。


「そ、そっちが先なの!?」

「大事な事だろうが。」

「そうそう。」

「いやまあ…そう…だけど…。」

「お前も目の色変えて稼いでたろ。さっさと確認しちまおうぜ。何せ、

あれだけ苦労したんだからな。」

「そうそう!」


言いながら、カンドフが笑う。


「古書は逃げないからさ。」

「…そうっすね姐さん。」


つられるようにベータも笑った。


そうだ。

何も慌てる事はないだろう。

『ブフレの古書』が自分と紐づいた存在だとしても、当の自分はずっと

石になっていた。それこそ数百年か千年越えに近い歳月を。とすれば、

今さら慌てて何になる。ラモンドとカンドフがこの自分を見つけたのが

偶然だとすれば、急ぐ理由など何もないはずだ。


ラストプレイヤーを探す。

世界の真実を見つけに行く。

確かに壮大な目標ではある。


だけど自分たちはゲームキャラではない。操作する者など存在しない。

ならば、最短で事を進める必要などないだろう。俗っぽい金勘定だって

生きている証だ。


「じゃあまず、数えましょう。」

「応よ。」

「俗っぽく、欲深に行こう!」


悪い顔で笑い合う三人。



それは間違いなく、生きた人間たちの織り成す俗っぽい祝勝会だった。

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