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世界を解き明かせベータ  作者: 幸・彦
第2章 下水道の魔ネズミ退治
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勝てばよかろう

不意に、水の音が遠くなった。

スッと意識が集中する音を聞いた。


数秒。

それだけあればいい。

倒す必要はない。それはラモンドがやってくれるはずだ。今さらそこを

疑っても意味がない。だとすれば、どうやって女王ネズミを止めるか。

その場に釘付けにするために必要なものは、いったい何なのか。


今の自分にできる事を見極めろ。

楽観も悲観もいらない。今の自分を限りなく正確に、余すところなく

しっかりと見極めて考えろ。自分に何ができるのかを、全て残さずに。


「ラモンド。」

「おう。」

「あのネズミに弱点ってあるの?」

「弱点?」

「そう。」


目の前には、顔だけ水面から出した女王ネズミ。

その後ろは行き止まり。

自分たちは水路の水の流れの中。


状況を見据えたまま、ベータはなおラモンドに淡々と問う。


「殺すのは任せる。だから致命的な弱点じゃなくていいよ。たとえば、

少しでも嫌うとか動きを止めるとかそんなレベルで。」

「だったら…」


答えるラモンドが、一瞬だけ頭上に視線を向けて告げた。


「人工的な光だな。」

「光?」

「ここの照明や灯り取りからの陽光を凌駕する光だ。直射さえすれば、

少なくとも怯ませる事は出来る。」


言いながらラモンドは舌打ちした。


「カンドフなら、魔術で光くらいは出せたと思うんだが。今はそれ」

「分かった。」


ラモンドの愚痴を遮ったベータが、そこで語調を強める。明らかに、

何かしら確信を得た者の声だった。


「あいつをあの場所に留まらせる。ただし長くて10秒。それから後は

よろしく頼むね隊長。」

「いつだよ。」

「5秒後。ホラ準備して!!」

「なあッ!?ちょ…よし!!」


さすがに慌てるラモンドを一顧だにせず、ベータは両手を前に突き出し

左右の指で枠を作った。その中に、目の前の女王ネズミを収めて計る。

およその距離と座標、よし!


「バックライトウィンドウ!」


目測で捉えた女王ネズミに向けて、ベータが高らかに言い放った。



「フル照度オープン!!」


================================


キュイィィィン!!


「ギイィィィィッ!!?」


一瞬だった。

前ぶれなく、女王ネズミを囲うかの如き配置でステータスウィンドウが

4枚同時に出現する。しかもそれは全て、強烈な青い光を放っていた。


前後左右から一斉に不快かつ強烈な光を浴びせられ、女王ネズミはその

濡れた毛を逆立て水中で硬直する。何かを引っかくような耳障りな声が

空間内で反響した。


と、次の瞬間。


ダン!!


素早く水から上がったラモンドが、崩れた外壁の上部分を蹴って跳躍。

天井ギリギリで右足を振り上げる。見上げたベータの目に、踵部分から

飛び出した鋭いスパイクが映った。真下のバックライトウィンドウの

光を反射して、ほんの一瞬ギラリと蒼い光を放つ。


スローモーションかと思うような、刹那ののち。


「らあっ!」


ドスン!

バシャァァァァッ!!


目が眩んで反応が送れた女王ネズミの脳天に、強烈な踵落としが見事に

突き刺さった。同時に盛大な水柱が立ち上がる。女王ネズミの断末魔は

水音に掻き消された。


キュイン!


それを見届けたベータがウィンドウを消し、何とか通路に這い上がる。

滴を垂らしつつ立ち上がった彼女の目に、ようやく映り込んだもの。


ずぶ濡れで水の中に佇むラモンド。

彼の目の前で、腹部を見せて浮かぶ女王ネズミの死骸。



掴み取った、勝利の瞬間だった。


================================

================================



『魔ネズミの母体!?』

「ああ。B6区画の突き当たり近くに置いてきた。悪いが確認頼む。」

『ラモンドさんご無事ですか!?』

「おかげさまでな。」


地下に設けられた伝話器でリッツと話しながら、ラモンドは苦笑した。

まあ、無事と言えば無事か…などと考えながら。そんな彼の傍らでは、

ベータがようやく見つけた拳銃から丁寧に水を抜いていた。


『じゃあ、報告に戻られますか?』

「いや。」


即答したラモンドはため息をつく。


「怪我はしてないが、正直ちょっと疲れた。今日は直帰するよ。今回の

仕事に関しては明日ちゃんと詳しく報告する。だから後はよろしく。」

『…分かりました。何はさておき、今日はゆっくりお休みください。』

「悪いな、助かるぜ。じゃ。」

『お気をつけて。』


そこで通話は切れた。


「待たせたな。」

「ウワサの同僚さん?優しいね。」

「何の噂があるってんだよ。」


下世話なベータの言葉を軽く流し、ラモンドは伝話器をしまい込む。

さすがの彼も、疲れを隠し切れないといった態だった。


「あいつなら、多少の無茶は適当に流してくれる。結果は出したんだ。

明日は堂々としてりゃいいさ。」

「じゃあ今日は?」

「とりあえずカンドフの店に戻る。まずは金勘定と行こうぜ。」

「了解っす隊長!」


わざとらしい敬礼をしたベータが、会心の笑みを浮かべる。


「残念だったね女王ネズミ。」

「まあ、また機会もあるだろ。」

「そうだね。またどこかでね。」

「早くシャワー浴びてえな。」

「同感。」


益体もない事を言いながら、二人は揃って帰路に就いた。


予想外の連続に、かなり疲れた。

しかし、予想外の収穫もあった。

今後の課題も浮き彫りになった。

そしてそれなりに荒稼ぎできた。


苦労した甲斐はあった。

何もかもとはいかない。それでも、少なからず結果は出せただろう。

だったら誇ろう。今日の戦果を。


ずぶ濡れになりながらも、ベータとラモンドは笑顔だった。



ミッション完了。

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