魔ネズミ退治もまた楽し
パンパン!!
「キッ!!」
「ギェッ!!」
「よっと!!」
シャッ!
連なって走る魔ネズミ2匹が、ほぼ同時に弾丸に貫かれる。次の瞬間、
真下に滑り込んだラモンドが小型の網を素早く振った。落下する死骸を
その網で捉えると同時に、現出したコイン6枚をもう一方の手で掴む。
「おおっ!さすが先輩!!」
「先輩になった覚えはねえよ。」
言いながらラモンドが立ち上がる。淡々と振舞っているようでいて、
その顔には隠し切れないドヤの色がにじみ出ていた。そうは言っても、
見事な手腕である事にはいささかの疑問もない。ベータからの称賛は、
決してお世辞などではなかった。
ここまでに仕留めた数、計13匹。さすがに慣れてきている感がある。
最初から撃ち漏らしのないベータの腕はかなり突出している。加えて、
数をこなした事でコインドロップのタイミングや相対的な現出位置が
掴めてきた。ここまで来ればもう、よほどの事がない限り失敗はない。
骸が5匹まで溜まれば、一定間隔で設けられている地上へのシュートを
使って回収を要請。もちろん金貨の事は言及しない。ベータの存在も、
可能な限り秘匿しておく。儲け口を自分から手放すなどという考えは、
二人からは絶対に出なかった。
不条理はもう、限りなく今さらだ。だったら開き直って稼ぐだけ。
根っこの部分で、二人は似ていた。
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「役場で怪しまれたりしない?」
「まあ、若干その可能性はある。」
しばしののち。
貨物スペースまで到達した二人は、小休止を取っていた。
さすがにここで何か食べようという気にはなれないので、飲み物だけを
口にして一息いれる。やはり話題になるのは、今回の駆除を仕事として
受けたラモンドの事だった。
「役得でもなきゃ、誰がこんな仕事率先してやるかって話だからな。」
「だよねえ。」
答えたベータが周囲を見回す。
蒸気殺菌とやらが行われているからなのか、臭気はそれほど感じない。
空間が広いので、湿度も飛び抜けて高いと言うわけではない。むしろ、
暑い季節なら地上より過ごしやすいと感じそうな環境だった。
とは言え、やっぱり下水道である。いくら特別手当が出ると言っても、
キツイ・汚い・危険の三拍子揃った仕事だ。ラモンドの性格を鑑みて、
怪しまれると考えるのは不思議でも何でもなかった。
「申請出した時の知り合いの顔は、明らかに不審そうだったっけなぁ。
俺が本当にここにいるか、そこから疑ってるかも知れん。」
「さすがにマズいんじゃない?今、あたしがいるって事も含めて。」
「気にすんな。」
さすがに少しソワソワするベータに対し、ラモンドが即答を返す。
「言いたい事があるんなら、勝手に言わせておけばいい。俺は今ここで
間違いなく魔ネズミ退治をしてる。やましい事は何もないからな。」
「…言い切るっスね親分。」
「じゃあ何が問題だ?言ってみろ。お前が思うヤバい部分って何だ?」
「え?えーと…」
逆に問われたベータが考え込んだ。
「…やっぱり、不穏な方法でお金を稼いでる事とか?」
「お前のそのコインドロップ能力は非合法なのか?今のこの国の法律に
即した話じゃない。お前自身がいたゲーム世界の常識での話だ。」
「いやいや仕様だよ。とりあえず、プレイヤーキャラがモンスターを
倒せば必ずお金かアイテムが出る。正直に言うなら、今の方がよっぽど
高額になってる気がするけどね。」
「だったら、少なくともお前という存在に関してヤバい事なんかない。
今のこの世界が、元のゲーム世界とどれほど乖離してるとしてもだ。」
「うーん…」
口を尖らせて考え込むベータには、険しい表情は浮かばなかった。
確かにラモンドの言う通りだ。
コインドロップに関しては役所には黙っている。しかしそれは別に、
法律に抵触しているからではない。正直に言っても混乱が起こるだけ。
下手すれば、ラモンドも危険人物と認定されてしまうかも知れない。
ゲームと乖離してしまった今の世界の中で、ベータのコインドロップは
いかなる法律や道徳でも縛れない。まさに「不思議な現象」である。
だったら、ラモンドは自分の仕事として普通に受ければいい。その結果
荒稼ぎできるとしても、別にそれを他人に開示する義務などはない。
何より、ドロップする金貨はまさに「無から」生み出されているのだ。
誰かから盗んだわけでもない以上、とやかく言われる筋合いなどない。
「…確かにそうだね、うん。」
「別に俺は、この金で豪遊するとか考えてるわけじゃない。これからの
活動資金として考えてるんだ。なら効率よく稼ぐ方がいいって話だ。」
「…これからの活動?」
「何だ、忘れたのか?」
そこでラモンドは、不敵に笑った。
「ラストプレイヤーとやらを全員、捜し出すんだろうがよ!」
「そうでしたね隊長。失礼!!」
迷いのないラモンドの言葉に対し、ベータも二ッと笑って敬礼を返す。
そうだ。
ベータが何なのか。
この世界は何なのか。
ブフレの古書を遺したのは誰か。
まだまだ、分からない事だらけだ。
しかし少なくとも道標は得た。まだ頼りないが、手がかりもある。
ベータもラモンドも、カンドフも。その謎に挑む意志は固めたのだ。
そしてラモンドは、三人の中で最も「現実的に」目標を見据えている。
どこへ行くにせよ誰を探すにせよ、とにかく先立つものが必要だと。
だから今日、こうしてベータと共に魔ネズミ退治に赴いたのである。
キツイ・汚い・危険は承知の上で、最も効率的に稼げる方法に賭けた。
「まあ、お前がそういう心配をする必要はない。俺に任せとけ。」
言いながら、ラモンドが残っていた飲み物を一気に飲み干す。
「少なくとも、ベテラン公務員だ。やっていい事と悪い事は心得てる。
そのギリギリのラインを攻めるのが面白いんだよ。特にお前みたいな、
常識から外れた因子を含めてな。」
「さすがッスね隊長。」
愉快そうに言ったベータが、同じく飲み物の残りを一気に干した。
「んじゃ、今はここでとことんまで荒稼ぎ。それだけでいいよね?」
「予備の弾を使い切るくらいまでは好きに暴れろ。俺が許可する。」
「了解!!」
再び敬礼したベータが、あらためて銃を確認する。
最初の一歩はもう、踏み出した。
どこまで進めるかなんて、現時点であれこれ細かく考える必要ない。
今はネズミ退治だ!
「んじゃ、後半戦行こうぜ。」
「応!」
向き直る二人は、意気軒高といった態で言葉を交わす。
しかし彼らは知らなかった。
ほんの序章であるこの任務さえも、簡単には終われないという事を。
天井から差し込む日差しの角度が、少しずつ変わり始めていた。




