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世界を解き明かせベータ  作者: 幸・彦
第2章 下水道の魔ネズミ退治
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魔ネズミのレート

「とりあえず、確認がてら使い方の説明をする。」

「確認がてらって?」

「お前と俺の違いだよ。」


ベータの問いに短く答え、ラモンドは銃の側面のレバーを倒した。


「安全装置っすか親分?」

「ああそうだよ三下。」

「ノッてきましたねえ。」

「うるせぇいいから見てろ。使い方自体は簡単だから。」

「へい。」


そのまま二人は、駆除エリアの中に足を踏み入れていく。


「もともと、人間を無傷で制圧する想定はしていない。魔ネズミなら、

頭か上半身に当てれば殺せる威力はある。だから扱いには注意しろ。」

「そんなの素人に渡していいの?」

「少なくとも、お前は戦いの素人として生み出されてはいないだろ。」

「…まあ、そりゃそうだけど。」


そこでベータは肩をすくめた。


「アバターとしてのあたしの設定、もう完全に受け入れてるんだ…。」

「信じる信じないをしつこく論じるのは嫌いなんだよ。結果が全てだ。

だからお前も結果を出せ。」

「了解っす。で…」

「止まれ。いたぞ。」


掛け声と共に、ラモンドもベータもピタリを挙動を止める。ほどなく、

1匹の赤目のネズミが脇の側道から音もなく駆け出してきた。

と、次の瞬間。


コン!


壁を叩いた小さな音に、魔ネズミがハッと立ち止まる。その一瞬を、

叩いた本人であるラモンドが見逃す事はなかった。


パン!


小さな発射音は、それでも通路内で甲高く反響する。放たれた弾丸は、

狙い過たず目の前の魔ネズミの頭に命中した。


「キィッ!!」


かすかな声と共に跳ねたその体が、落ちた姿勢のまま動かなくなった。

しばしの沈黙ののち。


「…死んだね。」

「だな。」

「お見事っす親分。」

「こんだけ近けりゃ当たり前だ。」


戦果を誇る気配もなく、ラモンドはむしろ残念そうな表情で続ける。


「やっぱりダメだな。俺が殺してもコインドロップは起こらない。」

「そうみたいね。…だけど、今からあたしが同じ銃で同じ事するの?」

「そうだ。」

「それで結果が変わったとすれば、さすがにちょっと不思議だよね。」

「今さらだが、確かにな。ほれ。」


躊躇う様子もなく、ラモンドは銃をベータに差し出した。


「次はお前が撃ってみろ。とにかくそれで、今の仮定を確認する。」

「了解っす。」

「近くに引き付けてから撃てよ。」


同じく躊躇いなく差し出された銃を受け取り、ベータは小さく頷く。


「思ったより軽いね。装弾数は?」

「フルで25発。1発撃ったから、今は24発入ってる。とりあえず、

予備のカートリッジは1本だけ用意してきてる。」


答えたラモンドが、カートリッジと思しき黒い筒を取り出した。


「魔ネズミ駆除にそんなにドカドカ撃つ必要はない。根絶は無理だし、

ある程度の数が狩れればもうそれで十分だ。いいな?」

「了解っす。」

「じゃあまず…」


刹那。


「あ、いた。」


顔を上げたベータが、そのひと言と共に銃を上方に構えた。

視線を追ったラモンドには、止める間もなかった。


「ちょ、待」


パン!


「ギィッ!!」


視線と射線の先。

20mほど先の、T字の突き当たりの天井近くを駆け抜けようとした

魔ネズミが、着弾と同時に跳ねた。強張ったその体が、通路に落ちる。

次の瞬間。


「あっ!!」


二人の声がきれいに重なった。

魔ネズミが落ちた軌道に沿うように現出したコインが、そのまま下水に

落ちるのが見えた。落ちる音も耳に届いた。


トプントプントプン!!


「あああああっ!!落ちた!!」

「バカ野郎!!人の話聞けよ!!」


裏声で叫ぶベータを、これまた裏声でラモンドが怒鳴りつける。


「だから近くに引き寄せてから撃てと言っただろうが!落ちたコインは

俺が拾うつもりだったんだよ!!」

「ゴメンなさぁい!!」


ようやくラモンドの意図を理解したベータが、平謝りする。怒り心頭に

なっていたラモンドも、言いたい事を言い放った後は語気を収めた。


「ったく。まあ、同じ銃でもお前が撃てばコインが出るという事だけは

確認できた。高い授業料だったが。今落ちたあれ、いくらか判るか?」

「少々お待ちを。…オープン!」


キュイン!!


ベータの掛け声と共に、ステータスウィンドウが小さく展開された。


「えーと…あ、仕様が変わってる。討伐履歴がリスト化されたみたい。

多分、複数の種類の魔物を討伐したからだろうね。」

「魔ゴキブリと魔ネズミって事か。で、そのリストは開くか?」

「はいはいただいま。えーとリスト開示…と。あ、出た!」


アイコンを選択すると共に、2種の項目が列挙されたリストが開く。

予想通りゴキブリとネズミだった。末尾には金額も明記されている。


「魔ゴキブリは1000ビドルで、魔ネズミは…3000ビドル!?」

「3倍かよ。なかなかボロいな。」

「ええー…3000ビドルが下水の中に消えてしまったと…ああ…」

「いちいちしつこく気にすんな。」


こだわるベータに対し、ラモンドは至ってケロッとしていた。


「まだまだ魔ネズミはいるし、常にこのレートで出るならボロ儲けだ。

どこへ行っても稼げる当てがある、って事だからな。」

「…へい、さすが親分。」

「どんなキャラだよ。」


苦笑しながら、ラモンドはベータと自分が仕留めた魔ネズミの死骸を

まとめて丈夫な革袋に入れていた。


「これでよし。」

「全部持ち歩くの?それって…」

「いいや、ちゃんとこういう死骸の回収用シュートがあちこちにある。

申請を出してるから、俺が駆除した個体として上で処理してくれるよ。

そこは抜かりない。」

「おお…隔世の感があるなあ。」


ベータの声に実感がこもる。

彼女が何年石化していたか、未だに判明していない現状だった。


「ま、そこは便利な世界になったと受け入れときゃいい。」

「そっスね隊長。」

「ランダムだな。」


またも苦笑したラモンドが、そこでふとその視線をベータの持っている

銃に向けた。


「何か気になる?」

「いや。今さらだがお前、けっこうスジがいいな。」

「へ?」

「初めての銃の初撃で、あそこまで遠くの走るネズミを仕留めるとは。

正直、俺でも外す確率が高いぞ。」

「えー、そう?言われてみれば…」


そんなラモンドの見立てに、ベータは照れながらも少し困惑する。


「剣士としてキャラメイクされてたはずなんだけどなあ。」

「そういや、けっこう業物の長剣を持ってたよな。だけどお前自身は、

銃器の存在は知ってたんだろ?」

「もちろん。あくまでも時代設定はゲームだけだったからね。」


言いつつ、ベータはニッと笑った。


「だけどまあ、正直に言えば。」

「何だ?」

「時代設定も武器も、今のこの方がずっとしっくり来るよ。変な考えに

なるけど、あたしは時代が追いつくまで眠って待っていたのかもね。」

「無駄にカッコいい表現だな。」


同じくラモンドも不敵に笑う。


「何もかも遠い過去だというなら、もうそのへんは自由に考えていい。

銃が性に合うなら、好都合だぜ。」

「ははは、確かに!」


愉快そうに言葉を返したベータが、銃をクルクルと起用に回した。


「んじゃ、ミッション開始ね。」

「応よ。」


やる事はひとつ。

今はもう、迷わず突き進むだけ。


「ひと儲けと行こうぜ。」



ラモンドのその言葉が、開始の合図だった。

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