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世界を解き明かせベータ  作者: 幸・彦
第1章 ノスタウの街の出会い
15/54

星霜暦の世界

「おっと、ゲーム概要が出た!」


新たに解放されたページを確認し、ベータが興奮気味に言った。


「これは手がかりになるかも。」

「概要って、世界の説明みたいのは前にもう出たんじゃなかったか?」

「あれは本当に、世界の成り立ちを説明しただけ。それに対してこれは

制作されたゲームとしてこの世界を説明してる。分かりやすく言えば、

神か創造主の視点ってやつね。」

「マジかよ…」


さすがにラモンドがうめく。


「世界の成り立ちだけなら、宗教の聖典と言えなくもない。でもこれ、

人間が知ってもいい領域から盛大にはみ出してないか?」

「いいのいいの。もうゲーム自体がサービス終了してるんだから。」

「軽いなあ。」


ラモンドの懸念を歯牙にもかけないその言葉に、さすがにカンドフが

呆れたように呟いた。しかし結局、彼女もラモンドもすぐに開き直る。


確かにベータの言う通りだ。

たとえ神の領域にまで踏み込んだとしても、神罰が下る可能性は低い。

そもそもそこで何か知ったとして、誰かを相手に声高に語る気もない。

いや率直に言うなら、せいぜい頭がおかしいと思われるのが関の山だ。

自分たちが信じているのは、やはりベータと『ブフレの古書』の存在、

そしてコインドロップを目の当たりにしているからである。

もはや、気にしたら負けの領域だ。


「続きは?」


促すカンドフの語調も、軽かった。


================================


「えーと…あっ履歴が残ってる!」


ベータがパッと表情を明るくした。


「これなら時間経過が分かるかも…ってあぁ無理か。月日しかない。」

「年表記がないのか。杜撰だな。」

「まあ、あったとしても西暦か。」

「セイレキって、つまり外の世界の暦って事ね?」

「そう。こっちの暦…何だっけ?」

「星霜暦。」

「うわーカッコいいなあ。いかにもゲーム制作者が考えたって感じ。」


実感のこもった声でそう言い放ち、ベータがラモンドに問う。


「ちなみに今、星霜暦で何年?」

「5021年だ。」

「長ッ!!」


驚く声が露骨に裏返った。


「そんなに続いてる暦なの!?」

「お前の知る世界は、そんなに短い歴史しかなかったのかよ?」

「いや、歴史自体はもっと長いよ。西暦の前は紀元前って言われてて、

数千年さかのぼる事もできた。でもひとつの暦が五千年以上も続くのは

ちょっと信じられない…!」

「それはそうと、お前が沼ガエルに石にされた時は何年だったんだよ。

それが判れば、少なくとも何年経過してるかはハッキリするだろ?」

「うーん…知らないなあ。」


そこでベータはトーンダウンする。


「戦略シミュレーションゲームとかならいざ知らず、ファンタジー系の

アクションゲームで暦を気にする人いないもん。そもそもベータ版では

そこまでの設定が固まってなかった可能性だってあるし。」

「昔なのはいいとして、その頃だと暦すらなかったかも知れないのか。

自分の生きている世界の危うさを、嫌でも感じさせられるな…」

「気にしたら負けだって。で?」


いかにも気にしない態でカンドフが先を促した。


「具体的に何が書いてあんの?」

「えーっと…1月1日にベータ版が公開。「エターナルメモリーズ」が

オンライン公開されたって事かな。で、10日にあたしがキャラ登録。

ベータ版としての公開は15日までという事だったみたいね。」

「その間の事は憶えてんのか?」

「まあその…うん。」


ラモンドの問いに、ベータはどこか悔しそうな口調で答える。


「その日にシークレットミッション見つけたまではよかったんだけど、

ご存じの通りあの沼カエルの能力は初見殺しだったからさ。成す術なく

石にされちゃったって次第よ。」

「え?って事は…」


そこでカンドフは瞠目した。


「実質的に、この世界でゲームしたのはたったの一日って事なの?」

「…お恥ずかしながら。」

「いや何でだよ。」


さすがにラモンドも納得できないといった態で食いつく。


「細かい事は分かんねえけど、別に石化は死んだわけじゃないだろが。

外の世界に操作してる奴がいたって言うなら、何でやり直さないんだ。

えーとその…コン…何だっけか。」

「コンティニュー?」

「そうそれ。やり直しが利くなら、あそこでは終わらないだろ?」

「おっしゃる通りです。」

「……?」


勢い込むラモンドが、ベータからの返答に黙る。ベータは、明らかに

落ち込んでいた。


「どうした。」

「あたしも思うよ。何であの程度の事でゲームやめちゃったのかって。

まだベータ版なんだから、それほどコンティニューも難しくなかった。

それは想像できる。あたしとしてももうちょっと、活躍したかったよ。

せめて、沼ガエルは倒したかった。リベンジって意味も込めて。」

「………………」


何とも気まずい空気が漂う。

考えてみれば、今のベータにとってこの履歴はかなり不本意だろう。

せっかくのゲームを、たった一日でやめてしまったという現実は。


しかし、沈黙は短かった。


「まあ、それはそれとして。」


切替えの早いベータは、顔を上げてそう言い放った。


「あたしが石化させられた後、このゲームはどうなったんだろ。」

「その履歴もあるのか?」

「短いけど載ってるよ。えーと…」


再びページを指でなぞるベータが、末尾を見ながら告げる。


「これは…翌年か。8月11日に…年内でのサービス終了が決定。」

「早いな!」

「まあ、『オメガクリエイター』がリリースされたのが結構前だったと

考えれば不思議じゃないのかもね。買ったタイミングが遅かったと。」

「納得いかねえなぁ。たった二年で終わりってどんな世界なんだよ。」

「まあ、まだ終わってないし。今もこうして世界は続いてる。それで、

とりあえず良しとしましょう。」

「別にいいけどよ。」


宥めるようなカンドフの言葉に口を尖らせ、ラモンドはしぶしぶ頷く。


「それでどうなった?」

「12月31日でサービスが終了。それ以降の履歴は書かれてない。」

「呆気ねえなあホントに!!」

「いや、あたしに怒られても…」


顔を上げたベータが苦笑した。


「大した情報はなかったね。」

「ラストプレイヤーってのは何だ。その記述はなかったのか?」

「あ、忘れてた。」


慌てて言ったベータが再びページに向き直るも、表情は芳しくない。

どうやら、何もなかったらしい。


「ないなあ。ゲーム概要内に記載が無いとすると、制作者自身が独自に

設定した概念なのかも知れない。」

「じゃあどうすんだよ。その意味が分からないと、次に進めないぞ。」

「うーんと…」

「困った時はステータスオープン。それで何とかならない?」

「え?いやどうだろうなあ。まあ、やってみるけど…オープン!!」


キュイン!!


展開したウィンドウに、三人の視線が注がれる。と、そこでベータが

声を上げた。


「あ、検索ウィンドウが増えてる。これでワード検索できるかも!」

「この小っちゃい奴か?」

「そうそう。えーと…あ、入力用のワードパッドも出た!いけそう!」

「へえー、文字を打てる鍵盤かぁ。面白い構造だね。」

「何でもいい、やってみてくれ。」


ワイワイ言いながら検証する三人。もはやそこに、世界の成り立ちへの

不安や疑念などは存在しなかった。あるのはただ真実への探求心のみ。



窓から差す日差しの向きが、ほんの少し角度を変えた午後だった。

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