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その後

 焼鳥屋は、今日も繁盛している。先代と、店主、ホールを周る環琉。何時もの光景だ。


 店も落ち着いた頃、ケンジとリキヤとサトルが扉を潜り(くぐり)座敷に案内されていた。

「お飲み物は?」

「生ビール三つお願いします」


 友人と彼女に裏切られていたが、ケンジは元気そうだった。生ビール三杯を持って来た環琉に、続いて焼鳥を数種類、唐揚げにポテトサラダを注文する。

「あの……トオルから、預かってきました」

 ポテトサラダをテーブルに置く時に、ケンジが他の客に見えないように紙袋を環琉に差し出した。


 環琉は受け取り、中を確認した。帯封された札束が三つ入っていた。

「梓さんに渡してくれてよかったんですよ。それに――多いですね」

「詫びと言うか……感謝の気持ち分も入っているそうです。サトルはアカリたち連れて、警察に行きました。勿論、廃病院から発見された遺体を引き受けて墓作ったそうです。自殺した子の方は、トオルたちに直接的な罪の証拠がないし、多分前科付いたりしないみたいですが……」


 それは、環琉には興味がない話だった。しかし、人の感情を学んだ方がいいと昴に教えられたので、環琉は黙って聞いた。もうリョウコの霊は浄化されている。光に還る時に、環琉の元に彼女は現れた。微笑を残して、天に昇って行った。

「親父さんに借金した分は、大学出る前にバイト掛け持ちして返済するそうです。縁切ろうかと思いましたが……俺たちで、トオルを応援します。俺もリキヤもサトルもバイトして、返済手伝う事にしました」

「――アカリさんは、どうするんですか?」

「あいつ、死にました。あとの二人も。警察署から出た時に、車が突っ込んできて。トオルだけ、生き残ったんですよ。ニュース見てませんか?」


「彼女達には、いずれ罰が下される」


 昴の言葉を思い出す。彼女たちの首に残った跡を辿って、『影』が現れたのだろう。環琉は、それでも彼女達の冥福を願った。



 この世は、人の憎しみや嫉妬怨み憧れ愛情が、どろりと混沌としている。生きていくには()()()と関わり、時には自分が抱くか誰かが抱く感情。

 感情に支配されて自我を失うか、不幸な()()によって闇に落ちる事もある。


 闇が、引き寄せる事もある。それに抗える強さを、持つ人間がいるのだろうか。


 カルテを返しに、ヨウコさんの元を訪れた。ヨウコさんは足が良くなっていて、久し振りにゲートボールに行っているとお嫁さんが言っていた。「あなたが足を撫でてくれたからかもしれないわね」と、お嫁さんは笑っていた。


「君の輝きこそが、()()()()()()()なんだよ」

 昴が、原付を運転する環琉の身体を抱き締めた。罪を償う様に死んだ彼女達の冥福を祈った時の、優しさの名残が環琉の身体に残っていた。昴とは対照的な――柔らかな陽だまりのような温かさだ。それに縋る様に、昴は環琉を抱き締める。


 光は闇に吸い込まれて『影』が少し眠そうに、闇に溶けていく。

「ケンジさんにも、光があるんだろうね。だからサトルさんもアカリさんも、彼に惹かれて傍にいた。この世界には――救うべき魂はどれだけあるんだろう」

「数えられない程だよ――ああ、消えてしまった」


 環琉の身体から光が消えると、昴の美しい顔は僅かに悲し気になる。抱き締める腕の強さが、緩くなった。


「また、それらはやって来るよ。君の光に導かれるか――僕の闇に惹かれるかして。平和なんて、僕たちにはない」


 明るい月明りの下、環琉の原付は走る。闇のように美しい、昴を乗せて。地上には、人間たちのもたらす灯りで溢れていた。



 また、何処かの呪いが彼らたちを呼ぶ。確かに、二人には平和はない――出逢ったからこそ、彼らは人間の闇を祓い時には()()()()()この世に残る(けが)れを消し去っていく。


 それを昴は、『宿命』だと呼んだ。

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