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集結5

 オズボルト魔法学校高等科、1階フロアBの外れに図書室は在った。

通常授業の行われている今の時間帯に生徒の姿はなく、数人の司書が新しい書籍の整理や、傷んだ本を確認したりしているだけであった。

そこへ、例の四人が現れたのだから奇妙な話である。

案の定、事情を知らない司書たちは不思議そうに四人を見つめていた。

ただでさえ、図書室になど普段から顔を出さない面子である。

4人がキョロキョロと辺りを見回していると、背後から独特のオーラを放つ中年女性が現れた。

『お局サマリア』の異名を持つサマリア・ベルーシ魔法歴史教師である。



「漸くいらしたわね。」



 その圧倒的な存在感にドロシーとレオンは苦笑いを浮かべ、声のする方へ振り向く。


「ゲッ・・・サマリア先生・・・。」


「何が『ゲッ』なんです?ミス・フィランツェ。

 そんなに私が嫌いだから授業にも出ていただけなかったのかしら?」


「べ、別にそういう訳じゃ・・・。」



 しどろもどろドロシーがたじろいでいるとイアンは一人、柔らかな物腰で会話に入ってきた。



「サマリア先生、校長先生からお話が行かれていると思うのですが、我々に図書室の 奥間を使わせて頂 きたいのです。」



 イアンの言葉に頷きながら、サマリアはこう答えた。



「えぇ、伺っております。

 奥間の鍵を開けますからついていらっしゃい。」



 相変わらずの冷静な表情で、サマリアは4人の前をつかつかと歩いていく。

その後を追うようについて行くと、図書室の最奥にある古びた扉の前に辿り着いた。



「ここは使用する人がいませんから、少し掃除をする事を勧めます。

 さぁ、お入りなさい。」



 そう言うとサマリアは奥間にかかっていた鍵を外し、中に入るように4人を促した。部屋の中は長い間放って置かれたのが一目で分かるほど、蜘蛛の巣と埃にまみれていた。

壁にあるスイッチを入れると、電球がバチバチと嫌な音を立てて点滅している。



「こりゃホントに何とかしないと使えそうもねぇな。」


「レオンの部屋より酷いね・・・。」



 イアンは苦笑しつつレオンに視線を飛ばす。

困惑した様子でレオンはイアンに言い返した。



「いくらなんでもここよりはマシだろ?」


「ある意味マシ。ある意味もっとですかね・・・。」


「なるほど、やっぱりアンタの部屋って汚いのね。」



 レオンとイアンのやり取りに納得するようにドロシーが介入してきた。



「なんだよ、やっぱりって。

 お前、俺の部屋の中見た事あるのかよ?」


「・・・大体想像できるわ。」



 ドロシーに言われると、レオンは面白くなさそうに口を窄める。



「それじゃ、ここの鍵はイアンに渡します。

 くれぐれもこれ以上酷くしない様お願いしますね。

 特に、レオン。あなたは。」


 

 イアンに鍵を渡すと、サマリアは眼鏡の淵を持ち上げてレオンに忠告した。



「何で俺なんですか・・・。」


「自分でよくお考えなさい。」



 そう言って、サマリアはその場を離れて行った。

後に残された4人は荒れきった奥間を呆然と見つめている。

正直ここまで酷いと、何処から手をつければいいのか分からない。



「とりあえず、役割を分担したほうが速い。」



 ポツリとクロウが呟く。



「そ、そうね!それが一番いいわ。

 そうと決まったら始めましょ!高いところの埃や蜘蛛の巣はクロウに任せるわね。

 私は小物や道具、床の雑巾がけを、レオンは大きい道具の移動と修復。

 イアンは本の埃掃除と整頓を頼むわ。」


「了解。」


「よっしゃ、任せとけ!」



 ドロシーの言葉に誰も異論者はいなかった。

4人は早速図書室の用具入れにある掃除道具を借りてくると、各々作業に取り掛かり始めた。






 その頃、図書室の入り口ではサマリアとオズ校長がなにやら二人で話し合っていた。サマリアは心配そうに奥間の方を見つめて、頬に手を添えて溜息をついた。



「大丈夫でしょうか校長。

 私はあれ以上あの部屋を汚したくありませんよ?」


「えぇ?

 まさかあれ以上にはならないだろ?」



 クスクスと笑う校長を余所に、サマリアは大真面目な表情で話す。



「私は何度かレオンの寝坊した時に、彼の部屋に出向いているんです。

 その度、私は自分が存在している場所が現実なのか悪夢なのか

 判らなくなるんですよ・・・。

 到底、人が存在など出来ない次元に彷徨いこんだような・・・。

 そんな異空間であの子は平然と寝ているんです。」


「・・・確かにあれはな。

 しかし、イアンと共同スペースならば問題はないだろう。

 彼の体調が悪くならないようにレオンは必死だしね。

 2年前のあの事件以来、レオンはイアンにべったりだから。

 彼の微妙な変化にも気を配っている。」


「あの事件以来・・・ですか。あれは何とか闇に葬った話です。

 誰かに聞かれでもしたら・・・。」


「そうだね・・・すまない。

 でも、いずれか決着をつけなければならないだろう。

 場合によってはドロシーやクロウも巻き込む事になるやも知れない。」



 サマリアはハッとした様子でオズ校長を見つめた。


 ・・

「また彼女達の記憶を消すんですか?」



 オズ校長は大きく首を振ると、柔らかな微笑を浮かべた。



「いや、今回はその必要はない。

 前回、みんなの記憶を消してしまったせいでレオンとイアンにかかるプレッシャーは、計り知れない  ものになってしまった。

 きっと、今回はドロシー達が二人の支えになってくれるだろう。」


「・・・そうですね。

 彼等ならきっと乗り越えていけるでしょう。

 その時には私達も力添えをしなくてはいけませんね。」



 サマリアは珍しく柔らかな表情を浮かべ、奥間で一生懸命に掃除をする4人の姿を

温かな眼差しで見つめていた。

オズ校長も深く頷く。



「それじゃ、私は仕事に戻るとするよ。

 サマリア先生、私の不在の時に何かあったら4人を頼む。」


「えぇ、心得ておりますわ。」



 深く頭を下げるサマリアに微笑を投げかけると、オズ校長は校長室のあるフロアAに向かうように廊下を歩いていった。





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