集結4
名前を呼ばれたドロシーはドキっとしたままその場から動けずにいた。
オズ校長はすっと一息つくと、まるで何かのスイッチが入ったかのように話し出した。
「君の成績はこの1年、どう合計しても0点!
どうしてか判るかい?
何故ならば、君は毎日毎日授業をサボって街で遊びほうけていたからさ!
雨が降った日は仮病を使って寮から出て来ない!
勿論テストの日も同様だった。
かと思えば、学園祭や修学旅行は心から楽しそうに参加していたね?
これはもう単位が足りないレベルじゃない。
全くもって0なんだ!
残り3ヶ月で卒業に必要な単位1年分を取れると思うのかい?」
言い終えた後のオズ校長は息を切らせていた。
その言葉の嵐に圧倒されたドロシーはただ呆然と立ち竦むより他なかった。
散々ボロクソに言われた4人は落ち込んだまま項垂れている。
それに気付いたのか、校長はいつもの穏やかな表情を取り戻すと優しい口調で話を続けた。
「まぁ、色々あるけど私も悪人じゃない。
そこで君達に特別な課題を与え、それをクリア出来たら卒業に必要な単位を全員に
与えようかと考えている。
特別課題と言うわけだから生半可な物ではない。
それなりに危険を伴う訳だから、やるやらないは個人で判断して決めて欲しい。」
その言葉を聞いた余人の顔から翳りが消えた。
「やります!勿論やらせていただきます!」
喜ぶ4人を少し哀れむように小さく微笑すると、校長は足元から布の被さった箱らしい物を持ち上げると、それを4人に見えるようにテーブルの上に置いた。
「課題を聞く前に判断するのはお勧めできないな。」
そう言ってオズ校長は布を外し、中から出てきた箱の蓋を外した。
その中から出て来たのは、2歳児ぐらいの大きさで、全身がネイビーブルーのつるつるとした
皮膚に覆われた不思議な生き物だった。
大きな目は黒目だけしか確認することが出来ない。
口は常に開きっぱなしで、笑っているかのように見える。
その生き物は箱から自力で這い出ると、とことこと二足歩行で4人の前に姿を晒し出した。
4人が呆然とその生物を見つめていると、説明するようにオズ校長が語り始めた。
「君達、見るのは初めてかな?
こいつは[ブルーナ]と云う魔法生物。
つまりは妖精みたいなものだ。」
「妖精・・・?これが?」
想像していた物と随分違う姿に、ドロシーは思わず聞き返していた。
オズ校長は大きく頷くと、さらに話を進める。
「このブルーナは、育て方次第でその見た目や能力が変化する生き物なんだ。
君達、[レジェンド]は知っているかな?」
「・・・伝説級のモンスターですね。」
イアンの言葉にニッコリと微笑む。
「そう。
代表的な[レジェンド]と言えばドラゴンがいるが。
例えば、ブルーナにドラゴンの力を与えようとする。
この場合、まずは君達がドラゴンを倒し、その亡骸に僅かな時間残っている魂から
[コア]と呼ばれる物をブルーナに吸収させる必要がある。
それが上手くいけば、ブルーナにドラゴンの力が宿る。
これを進化と呼ぶ訳だ。
ブルーナはこの進化を7段階までする事が出来る。
その度吸収された能力が増えて行き、最終的には凄い力を持ったブルーナが完成する訳だ。」
「そんな風には見えないけどな・・・。」
疑いの眼差しでブルーナを見つめるレオン。
それに気付いたのかブルーナはレオンに向け、アッカンベーのポーズを取った。
「ちょっ!
可愛くねぇ野郎だな!」
「妖精に向かって酷い事言うからよ。
ちゃんと人の言葉だって理解してるんだからね?ブルーナちゃん。」
息巻くレオンから離れると、ブルーナはドロシーに懐くように抱きついた。
「すっかりレオンは嫌われ、ドロシーさんに懐いてますね。」
イアンは苦笑するようにレオンを見遣る。
「続けていいかな?」
オズ校長はコホンと咳得をすると、さらに話を進めた。
「最終7段階目の進化を終えたら、私が用意するモンスターとブルーナを戦わせて、
見事勝利することが出来れば、君達の卒業を認めようと思う。
楽に倒せる[レジェンド]ばかり集めてはモンスターに勝てることは出来ないだろう。
だからといって、強さばかりを求め、バランスの悪い進化ばかりさせてもいけない。
簡単な課題ではないということだ。それでもやるかね?」
校長の言葉に惑わされる者は現状ではいなかった。
どのみち、何もしなければ卒業することが出来ないのだ。
「無論。」
「考える必要は・・・」
「ないわよね?」
「その課題、4人でクリアしてみせようじゃねぇか!」
4人は互いを見つめ、大きく頷くとオズ校長に課題授与を志願した。
満足そうに微笑むとオズ校長は更に付け加えるように口を開いた。
「そこで、闇雲に[レジェンド]を探すのも大変だろうと、今は使われていない図書室の奥間を
君達に開放させてあげるようサマリア先生に頼んでおいてある。
彼女は図書室の管理人でもあるからね。
私からの頼みだと言う事を言った上で、彼女から奥間の鍵を受け取りなさい。
使い方や、その他の指導は直接彼女に聞くといい。
それじゃ、早速だが向かってくれ。
[レジェンド]の情報が入り、討伐に向かう際には私か彼女に言ってくれれば、
それなりの費用は渡すようにするから。ただこれだけは言っておく。
くれぐれも無茶だけはしないように。いいね?」
オズ校長の言葉に全員が大きく頷いた。
「それじゃ、図書室に向かうとしますか。」
「図書室・・・一番レオンに似合わなさそうな場所よね・・・。」
ドロシーの突っ込みにイアンが失笑する。
クロウは気にも留めない様子でいち早く校長室を後にする。
それを追うように、ドロシー、イアンもまた校長室を出て行く。
「置いていくなよ!」
レオンが3人の後に続こうとした時、オズ校長が重々しい口調で呼び止めた。
「・・・さっきの事ですが。」
「え?」
振り向いたレオンの目に映っていた校長の表情は、いつもの穏やかなものではなかった。
4人に引導を渡した時の厳しさとはまた違った深刻な表情でレオンを見つめている。
「ドロシーに対して『死ぬことになるぞ』と言ってたね。反射的に。」
「・・・あ。」
レオンは何かを思い出すように暗い表情を浮かべた。
オズ校長は溜息を吐くと呟くように言う。
「2年前のこと、引き摺っているんだね?
あの日の記憶を君とイアンだけに残したのは、もう同じ過ちを起こさないようにと
イアン自身が望んだからだ。イアンを信じてあげられないのか?」
「そんな事・・・!」
顔を強張らせるレオンにオズ校長はすっと微笑を浮かべた。
「だったら、もう少しイアンを信じてあげなさい。
それから、これから仲間になるドロシーやクロウの事もね。」
「それは・・・。
俺が誰を信じるかは、俺が決める事だ・・・。」
そう呟くと、レオンは校長に背を向けて部屋を飛び出していった。
「君のその気持ちが重荷になる事もあるのだよ。
レオン自身にとっても、イアンにとってもね・・・。」