集結3
「触るんじゃねぇ!」
物凄い剣幕でドロシーを怒鳴りつけると、ギロリと睨み付けた。
先程までのレオンとは別人の様な形相にドロシーは驚きを隠せない。
「気安く触るんじゃねぇ。
さもないと死ぬ事になるぞ・・・。」
「え・・・?」
その鬼気迫る表情にドロシーは言い返すどころか、レオンの言葉に従うように手を引っ込めてしまう。
怯えた様子のドロシーにハッと我に返った様子で、レオンが再び笑い声を上げた。
「・・・ビビってんのか?
んなもん、冗談に決まってんだろ!
なぁ、イアン?」
「え、えぇ・・・。
ダメですよレオン。
初対面の人をからかうなんて行儀が悪過ぎます。
すみません、ドロシーさん。
どうかお気になさらないよう・・・。」
呆然とするドロシーをフォローするように、イアンが優しく微笑みかける。
更に畳み掛けるように、オズ校長が相変わらずの表情で口を開いた。
「彼はレオン・サーペンス。
見ての通りの問題児だから、余り真摯に受け止めなくていいよ。」
「っな!
校長がそんなこと言っていいのかよ!」
慌てるレオンの様子に、イアンはおろかドロシーまでも緊張の糸が解れ、笑い声を上げた。
その様子に満足そうに微笑むと、オズ校長はふと一点の宙を見つめた。
「そんなところで傍観してないで出てきなさい。」
誰に呼びかけているのか、3人は校長の突然の独り言(?)に首を傾げた。
すると、突然校長が見つめていた宙から黒い布が現れたかと思うと、人の形を象り、翻る。
そこから出てきたのは、あの時校長室への道を教えてくれた謎の黒ずくめの少年だった。
『クロウ・ザ・デスペラード!』
少年の姿を見たレオンとイアンは驚いた様子で叫んだ。
少年はチラっと二人を見遣るが、表情を変える事なくそこに佇んでいる。
ドロシーの姿に気付くと、黒ずくめの少年はポツリと呟いた。
「無事に来れたようだな・・・。」
「えぇ・・・まぁ・・・。
さっきはありがとう・・・。」
戸惑いながら礼を言うドロシーに余り興味がないといった様子で、少年はオズ校長の方へと向きを変えた。
「おい、お前アイツと知り合いなのか?」
ドロシーを肘で小突きながら、レオンがひそひそと耳打ちしてくる。
「知り合いというか・・・さっき校長室の場所を教えてもらったのよ。」
「・・・まじかよ。」
驚きを隠せない様子だったのはレオンだけではない。
「あのクロウ・ザ・デスペラードが道を教えてくれるなんて・・・。」
イアンもまた不思議そうに首を傾げている。
「有名人なの?」
「知らないのか!
現役の殺し屋だって話だぜ?」
「!」
突然入ってくる[殺し屋]という言葉に、ドロシーはぞっとした様子で少年を見つめた。
相変わらず、飄々とした態度で少年はそこにいた。
その殺伐とした空気を感じ取ったのか、オズ校長は穏やかな表情で話し始めた。
「彼はクロウ・ウィンドアーツ。
知っての通り、複雑な家柄の子でね。
余り学校に顔は出していないが、成績はイアンに次ぐ程の実力を持っている。
まぁ、少なくとも君達が抱いているイメージとは違う所もあるだろうから、先入観 だけで彼と接することはないようにして欲しい。」
「は、はい。」
校長にそうは言われても、早々簡単には普通の生徒と同じ様に接するのは難しい。
何しろ、クロウ本人が他人と馴れ合わないようなオーラを全身に纏っているからだ。
「さて。」
空気を変えるように、オズ校長は突如話の糸口を開いた。
「君達を呼び出したのは他でもない。
まず、どうして呼び出されたかだが・・・。
わかるかな?レオン。」
「えぇ・・・?」
「ヒントは君達4人の共通点なのだが。」
共通点という言葉が一番不似合いだと思われた4人であったが、校長曰くしっかりとした共通点があるのだという。
ドロシーがいくら考えてもわかるわけがない。
何せ、名前を聞くのも会うのも今日が初めてであるこの3人の少年達。
レオンとイアンが親友と言う点意外はドロシーと同様である。
3人が押し黙っていると、半信半疑な様子でイアンが口を開いた。
「・・・もしかして、単位の事ですか?」
「流石はイアン。その通りだよ。」
イアンの答えにオズ校長はニッコリと微笑んだ。
しかし、再び真面目な顔つきになると次々と辛辣な言葉を並べ始めた。
「確かに単位が足りないわけだが、4人ともそれぞれ理由は異なっている。
イアン、君は体の不調が原因による出席日数不足。
これは致し方ないが、だからと言って特別扱いするわけにはいかない。」
「はい。」
「それから、クロウ。
君は家の関係で仕事に借り出されてしまうことが多く、出席日数が足りないことは
把握しているね?」
校長の呼びかけにクロウは無言で頷いた。
「これもまた特別扱いは出来ない。
君達が卒業し、それぞれ就職する時にこれでは話にならないんだ。
厳しいけれど、これが現実だよ。」
そんな折、お気楽な様子でヘラヘラとレオンが笑いながら尋ねてきた。
「それじゃ、俺は問題ないな。
病気したこともないし、ちゃんと休まず授業も出てるぜ?」
「・・・甘い。」
鋭い眼差しでオズ校長はレオンを見上げた。
「レオン、君の場合はそもそもの成績からが問題だよ。」
そう言うと、校長はテーブルの上に一枚の紙を広げて見せた。
中には[レオン・サーペンス]の名前と各教科の成績が1~5段階で記されている。
云わば、これはレオンの通知表である。
中を見てみると、物理実技の成績以外は1と書いてある。
「見ればわかるだろうが、ここまで極端な生徒はいない。
それに加えて、君は寝坊が酷すぎる。
これで何が休まず授業に出ているだい?
サマリア先生が何度君を起こしに行っていると思っているんだね?」
「・・・。」
完膚なきまでに言い包められたレオンは人が変わったように大人しく項垂れた。
「しかしながら・・・。
レオンを上回るとんでもない生徒がいる。
ドロシー、君のことだ。わかるかね?」