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なろうラジオ大賞

卒業生代表の言い分

作者: 真鶴 黎

 「イライラしたからやった」


「犯罪者みたいなこと言ってる……」


 隣の彼から言われて、ニュース番組みたいな場面を思い浮かべる。テロップと同時に名前と顔が映し出されるあの場面。

 だけど、僕はしてやったりと思いながら笑う。


「やってくれたな、卒業生代表」


 笑う僕に対し、彼は肩を竦める。

 卒業生代表。それは僕に与えられた役だった。不本意ながらも仰せつかった僕は先ほどの式でそのお役目から解放された。


「上手くできたでしょ?」


「結果的には。答辞をアドリブで乗り切るなんて」


 卒業生代表の大仕事は三年間の感謝と回想を告げる答辞を読み上げること。

 僕は用意された答辞を無視し、アドリブで言葉を述べた。ただそれだけ。


「用意された答辞が面白くなかったから」


 僕は気乗りしないながらも、せめて、楽しいと思ったことを盛り込もうと答辞を書き上げた。当然、添削が入る。

 しかし、返ってきた文章は僕が書いた文章の面影が一切なかった。何もかもが書き換えられたそれを見た僕は思ってしまった。



 初めから学校が用意しておけよ。



 面白くない、退屈で、長くて、回りくどい、僕の思いが一切ない答辞。

 僕が考えた訳ではない答辞を式の参列者は僕の答辞として受け取るのだろう。



「それが嫌だっただけ」


「それでよくアドリブで乗り切ったよ」


 彼は呆れながら言う。


「添削される前の文章を覚えていればどうとでもなるか」


「うん」


 書いたことを一字一句覚えてはいないが、大筋は覚えていた。あとはそれを上手いこと繋ぎ合わせてあげればいいだけだった。


「いい答辞だったと思う。懐かしい話もあったし」


「ね?」


 僕としてもすっきりできた。学校が用意した堅苦しい文章を読み上げるよりも、自分の思ったことをそのまま言葉にできたことによる達成感があったから。


「とは言っても、卒業生代表に選ばれるような優等生が本番にやらかすとは思わないだろ」


「卒業生代表に選ばれるような優等生だからぶっつけ本番でもどうにかできるんだよ」


「はいはい」


 彼に適当に流されてしまう。

 写真撮ろう、と遠くからクラスメイトに呼ばれる。


「行くか」


「うん」


 もう済んだこと。先生たちがあれこれ言おうが、今日、僕らはこの学校を卒業する。答辞の件で思うことはあれど、学校生活に不満はほとんどなかった。

 いい友人とも出会えた。だから、僕は僕の言葉で楽しかったと伝えたまでだ。

 この達成感を胸に、高校生最後の姿を友達と一緒に残そうと僕は歩き出した。

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