古い唄と哀愁
水に濡れたアスファルトが提灯に照らされて綺麗だ
掌ほどの水がたらいに残ったまま金魚が一匹泳いでいる
晩秋の夜祭りには人の温かさが人混みに包まれて
たったひとりで街灯の下で震えていた幽霊も
気が付いたみたい提灯の灯りに
雪の酒場もいいものだネオンに群がる孤独なたましひ
祭りの笛の音で踊る
電車が行く秋桜畑を
秋の風が涅槃を連れて行って
ことりと宿業を足元に置いていった
人は吉祥を求め人生を旅する儚い生き物
線路の近くに掘った穴から宿世が見えている
見えない様に前を行くが呪いのように
冷たい風が影を揺らして
お前の中に悪いものがあるぞと
憤怒尊の顔が浮かんでは消えて行く
止まれの標識に何故か哀愁を感じます
危険と隣り合わせの信号機の赤を郷愁に感じるのは
大人のたしなみなのかもしれない
風が吹いて髪の毛が影の様に蠢いても
やがて来る迷宮入りの事件の様に
ゆめまぼろしの足跡だけが現場に残された証拠
大人とは狡い
子供が欲しがる闇の文学を
ひっそり隠している
宿屋に泊まると何時もと違う匂いがした
温泉のお湯は底が見えない何処かへ連れて行くのか
古い町は夜の闇に眠り
煙草の煙だけがあの世への道筋
旅人は壁に掛けたコートから
銀河を取り出してそっと夜空に浮かべた
ちっぽけな燐寸は旅人の服の中で
コトコトと蠢いている
嗚呼旅とは
永遠が問いかける
窓を開けたら夜が入ってきて
部屋中が闇に覆われる
えにしとは血の通った関係であろうか
包丁で切った指からも夜があふれてくる
業なんて罪なんて
徒花みたいな鬼百合にのせて
仏壇で供養する
一筋の煙立ち上がるところに私は存在する
記憶が母の胎内で止まって
そのまま世界を逆さまにしてみたんだ
風車が廻る風の吹く森で
炎のついた松明で神隠しの子を探すが
私は炎から目が背けられない
なにもかも燃えつくす原始の灯りが
そっと背中にそそり寄る夜
胎内の海で童たちが海に向かって花一匁
川の人魚は金魚を夢見る
窓辺の金糸雀は誰が殺した
幼さと無垢な殺意は
いつも誰かを
何かを傷つけて
なんかもう不幸であることが普通
大抵世の中は不幸で出来ていて
街角で煙草を吹かせていたりする
旅人は幸福行きの列車に乗り
夜景に目を光らせて
ただただ古き物を集め
お湯の中で今日も眠るのだろう
櫻の舞う春の神社は
誰もがゆめを見ていて
遠くの町でも便りは来る
夏はいつまでも人を夜叉にして
雲のない青空は怖い落っこちそうで
古い町には必ずある神社や寺は
死ぬ人を待ってじっとたたずんでいる
老人の影に神様はいて夏は咲いている
秋の木漏れ日は夜でもざわめいている
船町は海の匂い胎児に戻るための
不幸症はじっと待つ杜の上に風が吹くことを
泣いてばかりいた日々を匣に詰めて海へ流す
いつ迄も彼岸の海に漂っていると
あの世からの手紙が来て
地獄詣でをしなさいと彼岸巡りをしなさいと
まるで遺族のような顔をした親戚が
櫻舞う櫻の下で喪服で寫眞を撮っている
その誰もが福笑いのお面を被っている
不吉は幸福の始まりかもしれないと
わざわざ遠い街まで旅に出て
藁人形を集めてみる
空の電線には怪人が止まっていて
夜を屠ろうと大きな鋏を持っている
赤い糸を操って闇を縛り付けても
やがて深い夜に体はさらわれる
古い町の風鈴がいっせいに鳴りだして
夏が逝ってしまったことを告げるけど
頭に夏は取り憑いていて
いつまでもあの神社の境内で鈴を鳴らす
まるで呪いの様に赤く赤く
夕闇に三日月が浮かんでいたから
そっと空から盗んできて靴の中に入れた
仏壇の横にそっと置いたバケツの中に
電灯から盗んできたたましひを入れておく
何処の家にも光る夜のかたまりが
そっと夜歩くと光ってゐる
あの下に家庭があるのだなあ
赤に呪われた時代の子は
そっとゆめまぼろしを飲み込む
出鱈目倶楽部、我が学校の学芸部
夕焼けはすべての罪を許して家路への安心安全を守る
夜の音楽を唄うボーカルは夕暮れの蓮の田で
仄かに光ってゐる白い蓮の花を見つける事が出来て
看板が逆さ文字で真っ黒だと矢印の方向へ向かうと彼の世へと
夕焼け小焼けを聞きながら林檎を神社の裏に隠す遊び
悲しみは昨日の夜の布団に隠して置いた秘密の呪文
闇のスカートに夜を隠して秘かに学校のヒロイン
和室には必ずといっていいほど隅の方に仏像が眠っている
電灯の下のたましひは寂し気な夜の集まり
夜の散歩で電灯の交流電流を集めてたましひは心の内に棲まう
回転木馬にそっと草を与え飼いならそうと
夏は染まって青の時代
古い町は泣き虫の子供も包み隠してゆく温かい夕陽
図書館で背表紙が赤い本を選んで火にくべて呪いを解く
黒の時代に呪われた少女の家には真っ赤な仏壇がある不思議
太陽の木漏れ日には闇と光が混在している其処に魔力は宿る
眼玉のレプリカを壜の中に入れて学校に隠し持ってゆく
神社の境内でビー玉遊び神様は喜ぶ
水子の霊は来世に蘇りこうして私はいる
雨音は嬰児の子守歌じっと左手に水晶を握り
公園のベンチに座っている老人の寂しげな影に神は宿る
皆が幸せならいいねという日和見根性は
不幸症の私には効かない
狛犬に赤いあやとり糸を巻きつけて式神になるまで私は動かない
鎮魂歌が聞こえるどうして人は
悲しみが胸に込み上げる
夕陽になみだが溶けてゆく
チオビタの茶色い壜が
部屋の隅で鈍く光ります
君の言っていること
全部わかっているつもりだった
けど、全部駄目だったってこと
内省的な自分のよくないところ
ほとんど見せちゃった
夕陽は笑って
影踏みをして帰るね
万華鏡のような走馬灯を
壊れたはさみはもう役に立たないから
待ちぼうけの娘も
明後日を向いているお地蔵様も
夏の子守歌を聞きながら
冬に沈殿してゆきましょう
指先はそっと地球儀を廻して
春の國を赤く塗りつぶしてゆく
真っ黒に塗られたお雛様も
道を横切る黒猫も
小さな財布の中に
春を待つ
懐かし町を今日も旅する
旅人のコートの中には煙草と燐寸
夕焼け頃に間違いだらけの仏陀を連れて
夜行列車に乗る夜空を目指して
旅人の寫眞機には時たまたましひが映る
なんだか朧げでか細い感じの死にそうな
運命は君の心臓を掴んで巡るよ季節を
世の中の人の皮肉も嘲りも
吹き飛ばすような真実の寫眞
船町の地図を黒く塗り青だけが静かに夏を咲かせている
凌霄花の匂いがする神社の鳥居も赤くかおる
古い家が密集して迷路のような路地を歩いてゆくと
彼の世の行けるのではないかと桜の灰を撒いてみる
夏は遠いようで近い今だってすぐ隣に
椅子を開けてさあ此処にと云うと
セミの抜け殻が椅子の上に
夜になって雨が止んだ網戸が濡れている
夜の向こうに灯りが点々と夜の木漏れ日
ラジオから聞こえる心を包むシンガーの言葉
懐かしいお笑い番組に夏は咲いていて
こころの花が咲いて笑顔が向日葵になって
故郷はようやく帰る場所になる
裏路地のヒーローも街角のヒロインも
誰だって、生きていきたい
水に濡れたアスファルトが提灯に照らされて綺麗だ
掌ほどの水がたらいに残ったまま金魚が一匹泳いでいる
晩秋の夜祭りには人の温かさが人混みに包まれて
たったひとりで街灯の下で震えていた幽霊も
気が付いたみたい提灯の灯りに
雪の酒場もいいものだネオンに群がる孤独なたましひ
祭りの笛の音で踊る
不幸症の少女はいつでも悲劇のヒロイン
あのトイレには幽霊が出るから近寄るなと怖い顔をして同級生
思えば色んなまじない、噂、嘘を教えられた同級生はきっと神様
こっくりさん秘かにやったら十円玉は動き出した私もちょこっと動かした
プールの後の木登りは半分寝ていた夏の木漏れ日に脳がとろけそう
月の横で輝いている金星はもう寂しくないね
神社の鳥居を三度くぐると赤い石を賽銭箱に入れて
願うと腹の子は美しくなる
雨の日青い線香を立てると枕元に祖先の霊が立つという
人は黒い夢を見ると、古町で見知らぬ自分と出会う
仏像を夜月の方向に顔を向かせて酒宴を行うと幸せになれる
故郷はさびれた田舎で梅雨の時期には
田んぼの蛙の大合唱を子守歌に眠る
蛙と蝸牛は兄弟のようで理科の先生のお気に入り
理科の先生の白衣姿は怪しい怪人のよう
顕微鏡で覗くミクロの世界は宝石のようで
音楽の先生は髪の毛が爆発していて徒名はベートーベン
古い校舎は七不思議や都市伝説にまみれ
冬の夕暮れは通りを子供がスキップしています
さよなら人類をみんなのうたで聞いて
画面の前で歯磨きを落として固まっていた子供がいたとさ
大人の考える子供向けは若干髑髏な時があって
やたらそいつにばっかり惹かれていたから暗黒星生まれ
真っ黒な煤まみれで押入れから見つかった神隠しの娘
わずかに沈殿したたらいの底に夏はまだいます
公園の砂場にうずもれていたちび鉛筆はまだ書ける
雨の日も小学校の遊具で遊ぶ孤独なおんなのこひとり
古町の駄菓子屋さんに鉄製のべいごまは売っている
古い町に黄色い児童帽が並んで青空に見守られ
あの子は事情があって母親がいない、後ろ姿が悲しくて
夏はカキ氷の底で眠ってる
沈黙の船町は夏の風でゆっくりと永遠を醸造している
しっかり熟れたら貰いましょうお皿の上のオレンジ
古本屋の本に注釈がついていたらゆっくり眠ろう
刻の止まった街で過去を見つめるたらいの中の昨日の雨跡
私はすでに死んでいるのかもしれない昔の寫眞の中で
窓を開けたら夜が入ってきて
部屋中が闇に覆われる
えにしとは血の通った関係であろうか
包丁で切った指からも夜があふれてくる
業なんて罪なんて
徒花みたいな鬼百合にのせて
仏壇で供養する
一筋の煙立ち上がるところに私は存在する
記憶が母の胎内で止まって
そのまま世界を逆さまにしてみたんだ