新規参入の脅威について知ろう
「んじゃ、まぁ、とりあえず、最初は『新規参入の脅威』からやってみるか」
「『新規参入の脅威』って何じゃったかの?」
「ひいジジイのチー牛ビジネスが、始めやすいか、そうでないかを考える感じだな。そっからチー牛ビジネスがどれだけの競争に晒されるかを分析してみる流れだ」
「なるほど。この商売は難しいからのぉ。誰もが出来るってわけじゃないぞい」
「いや、参入障壁低いだろ」
「んなこたない! 美味しいチーズ牛丼を作るのって、結構難しいぞ。低いことはないじゃろう?」
「いや、低いだろ。ある日高齢者が思い立っただけでも始められるビジネスだぞ。高いわけねーだろ!」
「なんじゃと!? そんな簡単じゃないわい! さてはお主、チーズ牛丼事業を馬鹿にしておるな? 誰でも出来ると思ったら大間違いじゃぞ!」
「ちげーよ!! 参入障壁ってそういうこと言うんじゃねえよ!! 例えば、その事業を始めるのに、そこまで金要らねえだろ?」
「家の改修で40万ぐらい使ったわい! 金いらないわけなかろうに」
「いやいやいや、その程度で開業できるから参入障壁が低いんだろーが!! もっとこう、ウン億、ウン百億レベルの初期投資を要してようやく高いって言われるんだよ!」
「ふぁ〜!? なんじゃその天文学的金額はっ!?」
「例えば、鉄道とか、発電所とかが最たる例だろ。そんじょそこらの年寄りが思い立ったところで絶対に始められない業種だ。線路引くのにも、発電システムを作るのにもめちゃめちゃ金かかるからな」
「た、確かに言われてみればそうじゃの。今から穴掘って地下鉄作るにも、ワシの力じゃ何年かかるやら」
「それだけじゃねーぞ。免許取得に厳しい道のりを要するものや、法によって参入が難しくなっている業界だってある。あと、お国柄参入したくても無理な業種とかあるわな。日本だと武器作れねーとか…… ひいジジイのチー牛ビジネスは、その険しい山を掻い潜る必要もねえ業種だろ?」
「うーむ。言われてみればそうじゃが、かといって『障壁が低い』という表現はいかがなものかのお? ワシだって人生賭けてビジネスを立ち上げとるんじゃ、誰でもたやすく入れるとみなされては、ちと納得いかんのぉ」
「参入障壁が低いってのは、その業種の優劣を仕切る基準じゃねーよ。客観的に見てその業種を始めやすいか、そうでないかを言ってるだけだ。特段特許とかいらねーだろチー牛屋なんてよ。そもそも年寄りが開業できている時点で参入障壁が低いんだよ!」
「ワ、ワシがチーズ牛丼屋さんを始めることができたのは、参入障壁が低いのもあったのか……」
「そんなショック受けるなや。これはあくまでその業界に入りやすいかどうかってだけの話だ。参入が難しいから儲かっているかって言われてもそうとは言えねーだろ? どこぞの鉄道会社は赤字路線をいっぱい抱えているのにも関わらず廃止できねえ例とかあるだろ。あれは、参入敷居が高すぎて他がやってくれねーから仕方なく赤字覚悟で営業続けている感じだ。高いがために、自分の首を絞めてしまっている業界だって少なくねーぞ」
「なるへそなるへそ。これが5フォース分析なのかぁ。むつかしーのお」
「ちげーよ!! 肝心なのはひいジジイのチー牛ビジネスが『参入障壁が低いビジネス』と分かった上で分析することだよ! 参入障壁の高低が分かっただけじゃ終わらねーよ。むしろこっから先が重要だ」
「な、なんじゃと!? 一体どうすればいいのじゃ!?」
「『新規参入の脅威』というものは、参入障壁が低いことで、こっから何が起こるかを予測することだ。障壁が低いってことは、近所の野郎共も、思いつきでひいジジイと同じビジネスが出来ることにも繋がる」
「そんなことしたら、とんでもない競争になるじゃろーが! けしからんわい、そんな輩!! 直接店に赴いて、その店主を成敗してやるわい!」
「ひいジジイの言う通り、それだけとんでもねー競争になるのは目に見えてるってことだ。まぁ、ここまで言えば分かるだろ? 今やってるチー牛ビジネスはそういう立場だってことがよ。そもそも飲食業そのものが競争が激しい業種だ」
「……となると、ワシのパクリが今後も現れる可能性も……?」
「否定できねーわな。そういう、『誰でも参加できる環境』から生まれる『脅威』が『新規参入の脅威』だ。もっとも、チー牛屋をパクる野郎はいるとは思えねーが、他の飯屋がチー牛を売り始めるとか、そういうのも脅威になりそうだな」
「なるへそ。それで、他にも『新規参入の脅威』とやらはないかの?」
「たまには自分で考えてくれひいジジイ。一瞬でひいジジイのチー牛より美味いチー牛屋が現れる可能性とかあるだろーが!! 油断したら瞬殺だぞ。中国卓球で頂点目指すくらい厳しい業界なんだよ!!」
「そ、それは恐ろしい! しっかりと脅威を考えて対策せねば…… うーんと……」
・魚屋がチーズ牛丼屋さんを始める
・ペットショップがチーズ牛丼屋さんを始める
・花屋がチーズ牛丼屋さんを始める
「こんなものかのぉ」
「脅威対象が限定的すぎるんだよ。なんだよ、花屋がチー牛屋を始めるって、そんな希少なリスク考えたって仕方ねーだろ」
「んじゃ、売木の倅も何か考えてくれんかのぉ。年寄りの頭じゃ、これが精一杯じゃ」
「はーあ!? なんで俺がそこまでやらねーといけねーんだよ。ったく、仕方ねえな……」
・後期高齢者ですら始められるビジネスなので、仮に儲かったとしても他の大手飲食店がおんなじことをやってくる可能性がある。
・そもそも牛丼屋自体ある程度市場が形成されているため、参入しようという気も起きにくい。無計画で突入する後期高齢者は一瞬で淘汰される可能性がある
・なので、損する前に廃業か、やるにしてもある程度しっかりしたマーケティングとかやらねーと、悲惨な末路を辿る
「まぁ、こんなもんか?」
「こんな厳しい飲食業界へ無計画に突入する年寄りがおるなんて哀れな話じゃのお。負け戦をするようなもんじゃ。ワシはそうならんように気をつけなければならんのぉ」
「どこぞの誰かが無計画にチー牛ビジネスを始めるからこういう話になってるんだろーが! 悪しき事例のケーススタディじゃねーぞ! 現在進行形で進んでいる話だぞ! そんなコメントするならもうちょっと慎重にビジネス始めろや」
「とりあえず、これで5フォース分析の一つは完了したのお! 次行くぞ売木の倅よ。次じゃ次じゃ!」
「勝手に回すなや……」