戦う前に自分を知ろう!
「まあ、とりあえず何しに来たかは理解したけど、一体なんのビジネスやってるんだ?」
「おお、そうじゃった。まだお主にはワシの事業を言っとらんかったのお」
「高齢者のやれる事業なんて限られていると思うがな」
「それは、ズバリ、『チーズ牛丼屋』さんじゃ!」
「は? 牛丼屋??」
「ただの牛丼屋ではないぞ売木の倅よ。『チーズ牛丼』屋さんじゃよ!」
「はぁ? チー牛屋?? 意味わからねえよ、なんの事業だそれ!?」
「何と言われても、チーズ牛丼を作って提供しているだけなのじゃが……」
「飲食業ってことは分かったけど、なんだよチー牛屋って。チー牛に特化した飲食店やってるのかよ!?」
「お主の言う通りじゃよ」
「何でよりによってチー牛専門店なんか開業するんだよ! ますます理解できねえよ。なんだ、ひいジジイ? 小さい頃からチー牛屋さんになりたかったのか?」
「おお、良くぞ聞いてくれたぞ売木の倅よ。これには深ーいワケがあるのじゃ。マリアナ海溝よりも深い理由じゃよ。これはワシの幼い頃の思い出から始まるのじゃ、今から約八十年程前のこと──」
「うげ、やめろひいジジイ! 話が長くなるだろーが!! 八十年前から遡るんじゃねーよ!」
「相変わらずせっかちじゃのお、売木の倅は。しゃーない、ここは手短に…… つまりかくかくしかじかと言うことでのぉ」
「はーあ? 最近食べたチーズ牛丼が美味しかったから自分もやってみたいと思って開業した?」
「そう言うことじゃよ。あの艶やかなチーズに食欲をそそる肉の香り! うーむ、思い出すだけでお腹が空いてきたぞ」
「……八十年前の話全然関係ねーじゃねーか。そんな藪から棒にビジネスなんか始めやがって、うまくいくワケねーだろ」
「フットワークが一番じゃからのぉ」
「だとしても、今からチー牛屋始めても厳しい道だってことは分かってるんじゃねーのか?」
「なんじゃと!? それはやってみないとわからないじゃろーが!」
「大体わかるぞ。牛丼屋自体、既に他の会社がやっている事業だろ? それに、特段真新しいものを提供しているわけでもないし、何を思ってこれで成功すると思ったのかよく分からん」
「そりゃ、チーズ牛丼の美味しさが世に広まれば大流行間違いなしだと思ったからじゃ」
「よくそんな明確なビジョンが頭に思い描けたな。傍から聞いてるだけでも、チー牛屋は厳しいぞ」
「うーむ、なんとなく言うことは分かるのじゃが、腑に落ちんのぉ。ほれ、近所でやってるレストランはどこも繁盛しとるじゃろーが。それどころかまた新しく近所にファミレスが開店するんじゃぞ? どう考えても先が明るい業界だと思うのじゃが……」
「それは、それぞれの会社に戦略があるからに決まってるだろーが!! ただ闇雲に店を始めたひいジジイと訳が違うぞ」
「戦略じゃと!?」
「そうだ、自分達が行なっているビジネスを客観的に分析して、どうすればいいのか一生懸命考えて、選択しているんだ。一見思い付きでやっているものでも、裏では入念に調べ上げているぞ。ひいジジイと違ってな」
「なんとっ! あのレストランにもそんな裏があったとは!! ワシも同様に可愛いJKの溜まり場にできればと考えていたが、ちゃんと裏があったなんて知らんかったぞ」
「ひいジジイの言うJKの溜まり場とされるレストランだって、JKが来てもらえるように、一生懸命経営してるんだぞ! あのレストランだけじゃない、裏にあるファストフード店だって、喫茶店だって全部そうだ! 目的とする客がある程度決まってる! どの客に、どのように、そしてどんな感じで利用するのか、全部計算されて出来上がったものなんだぞ。何も分からずJKを呼ぼうたって、小汚いジジイの経営する飯屋に来るわけねーだろ!!」
「そ、そんな…… いやじゃ!! ワシは絶対JKの溜まり場になるチーズ牛丼屋にすると決めたんじゃ!!」
「意味分からねえよ、わざわざJKの溜まり場にしなくてもいーだろーが」
「ど、どうすれば、どうすればJKの溜まり場に!? 売木の倅よ、教えてくれ!」
「んだよ、ひいジジイの最終目的はJKの溜まり場にすることか最終目的なのかよ…… それより黒字にすることが先だろーが」
「足りないことがあれば容赦なく言ってくれ売木の倅よ! お主だけが頼りなんじゃ! JKの溜まり場に出来るならなんでもする!」
「JKの溜まり場を作ることに必死になる年寄りほど惨めなものはねーな。だが、ひいジジイ、逆に聞くけどJKの溜まり場にする為に何かやってることとかあるのかよ?」
「何を言う、ワシは美味しいチーズ牛丼を提供しているぞ!」
「あー、ダメだなこれは……」
「何故じゃ、何故ダメなのじゃ売木の倅よ!!」
「分かった、分かったから泣きつくな!! JKをターゲットにするよりも先に、自分のビジネスが今、どういう状況に置かれているか分析しねーと何も始まらないだろーが!! 自分のやっていることを分析してみれば何故ダメなのか分かってくるんじゃねえのか?」
「何故JKが来ないか、それで分かるというのじゃな?」
「いや、それ以上にもっと酷いことが分かるから覚悟しておけよひいジジイ」
「覚悟はとっくの昔にしているわい! 今更何を言う売木の倅よ!」
「近所の人から冷飯をたかる程度には覚悟はあるんだったな、忘れてた」
「しかしながら売木の倅よ、その分析とやらは一体どうやってやるんじゃ?」
「分析方法はいっぱいあるけど、とりあえず迷ったら『5フォース分析』から始めた方がいいんじゃねえか? 自分の置かれた状況を一旦整理だ」
「5フォース分析??」