表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

エッセイ

書いた覚えのない小説が出てきた

作者: 七宝

 メモ帳を整理していると、書いた覚えのない文章を見つけた。

 日付は約2ヶ月前。

 1100文字にわたって物語のようなものが書かれている。


 この2ヶ月の間に頭を強打したとか、怪我をしたとか、気を失ったとか、そういったことはなかったはずだ。

 にもかかわらず、一切記憶にない。全くもって1ミリも、これっぽっちも覚えていない。


 しかしそれは確実にここに存在する。


 この文章はいったい何なのか。


 どれだけ読んでも身に覚えがなく、読めば読むほど不気味に思えてくる。

 話だけしていても伝わりにくいと思うので、実物をご覧いただこう。






タイトル『キムタクかっけぇー!』


 むかしむかしあるところに、おじいさんとおばあさんがおりました。

 おじいさんは山へは行かずテレビの前で寝転がり、おばあさんも川へは行かず家で鼻をほじっていました。


 おばあさんが小指で鼻の真ん中の穴をほじっていると、草むらから大きな桃が転がってきました。


「じいさんや、大きな鼻くそが取れたぞい」


「包丁で割ってみるべ」


 大きな桃は2人の家を通り越して隣の老夫婦の家の前で止まりました。


「死ねぇ!」


 おばあさんが鼻くそを割ってみると、中から英語ペラペラの日本人が出てきました。


「ボンジュール? アルモショッピサランラッピーノ?」


 2人はこの子を高田(たかだ)と名付け、たいそう可愛がりました。


 高田が40歳になった頃、村で事件が頻発していました。鬼が若い娘を攫いに来るのです。


 はい。そういう事件があるんです。


 高田が45歳になった頃、まだ鬼は若い娘を攫っていました。


 そんなある日の朝、家に犬が迷い込んできました。


「高田さん、一緒に鬼退治に行かんかね」


「やだ」


 犬はそのまま家に居座りました。


 昼になると、猿がやってきました。


「高田さん、犬さん、一緒に鬼退治に行かんかね」


「「やだ」」


 犬も一緒になって拒否しました。

 猿も家に居座りました。


 夜はみんなでカレーを食べました。


 翌日、キジが尋ねてきました。


「お前らいい加減にしろよ! 行くぞ! ん!」


 と親指を立てて後ろにフン!とやるジェスチャーをして言いました。


「「「やだ」」」


 みんな痛いのは嫌なのです。旅は嫌なのです。このままここでゴロゴロしていたいのです。


 こうして高田の家に犬、猿、キジが揃いました。おじいさんとおばあさんはもうとっくに死んでいるので、ここは彼らだけの家です。


「鬼退治とか有り得んよなぁ〜。船とかめんどいもんなぁ〜」


 そんな会話ばかりです。


 ある日、海岸に浮島が流れてきました。鬼のような形をした島でした。


「おい桃太郎! いつになったら倒しに来るんだ!」


 痺れを切らした鬼が高田の家にやって来ました。


「桃太郎というのは誰のことだ」


「お前、桃太郎じゃないのか! ここの住所のはずだが⋯⋯」


「桃太郎って変な名前だな。そんなやついないんじゃないか?」


 高田はバカにしたような顔で言いました。


「桃から生まれたから桃太郎って言うんだ。お前、このあたりで桃から生まれたやつを知らねぇか?」


「桃から人が生まれるなんてあるわけないだろ! バカかお前!」


 高田たちは鬼を指さして爆笑しています。


「ところでお前は何者なんだ?」


 鬼が高田に聞いています。


「おれか? おれはババアの鼻くそから生まれた高田だ」


「鼻くそだと!? お前よく桃から生まれた奴をバカに出来たな。すげぇよ、お前」


 鬼に認められた高田は鬼の仲間となり、夜な夜な村の若い娘を攫ってお楽しみタイムを過ごしたそうな。めでたしめでたし。







 おそらくこれは岡山県に伝わる昔話『桃太郎』のストーリーに手を加え、コメディ風に仕上げたものだろう。


 一見なんの変哲もない物語であるが、細かいところを見てみるとおかしな部分が見えてくる。


 例えば冒頭のおじいさんが寝転がってテレビを見ているシーン。

 むかしむかしと前置きしているのにもかかわらず、近代の発明品であるテレビが登場している。この時点で作者が正気を失っている可能性が高いことが窺えるだろう。


 ババアの鼻からドデカい鼻くそが取れて、それを切ったら赤ん坊が生まれて来くるのは良しとして、次のシーンだ。


 高田とは一般的に日本人の苗字に使われる漢字である。それを名前としてつけるというのはいったいどういうことなのか。なにかのメッセージなのだろうか。非常に不気味だ。


 それからも犬が喋ったり、昔なのにカレーがあったり、猿が喋ったり、キジが喋ったり、鬼が喋ったりしている。


 十中八九、この物語を書いたのは私ではない。ではいったい誰なのか。


 私はいくつかの可能性を考えた。


 まず1つ目に、AIだ。

 ここ1年のAI技術の発展は目覚しく、AI生成を禁止している小説賞もあるほどだという。


 チャットAIに要望を送ると、数秒から数分で立派な小説を書いてくれる。狂った要望を送れば狂った話を書いてくれるのだろう。


 しかし、明らかにおかしな点がある。

 それはふりがなである。『|』と『《》』でご丁寧にルビを振ってあるのだ。ここまで細かな要望も可能なのかもしれないが、AIに詳しくない私には不可能だろう。


 2つ目の可能性は『夢遊病』だ。


 全体で見るととてもつまらない物語だが、要素だけ見ていけば私の要素はいくつか見つかる。つまり、私が書いた可能性が高いのだ。


 そこで夢遊病だ。夢遊病なら私の要素を残しつつ、普通ではない文章を書けてもおかしくないのだ。


 しかし、少々おかしな点がある。

 それはふりがなである。『|』と『《》』でご丁寧にルビを振ってあるのだ。

 眠っている状態でここまでしっかりふりがなをつけられるだろうか。私には無理だ。


 次に3つ目の可能性、『泥棒』だ。


 たまたま私と感性が近い人間が空き巣に入り、私の親指を拝借してロックを解除し、この桃太郎の亜種を書き上げた。そして何も盗らずに出ていった。これが1番現実的だろう。


 また、空き巣に入った先でいきなり小説を書ける人間ならば小説投稿サイト用のルビの振り方を知っていてもなんらおかしくはないため、ふりがな問題もクリアだ。


 泥棒で確定だ。警察に相談しよう。

 というのは冗談なんですけど、何なんでしょうねホント。脳に障害が起きてるのかな⋯⋯(;´・ω・)若年性アルツハイマーとか⋯⋯?(´;ω;`)


 さすがに2ヶ月前のこの長さのものを100%忘れるってヤバいですよね(´;ω;`)病院行った方がいいんかな(´;ω;`)これ以外メモ帳全部覚えてるけど

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
深夜テンションで書いたっぽいわぁー……。 夢遊病じゃなくとも二つ目に近いかも? 私もよくある、記憶にないモノが大量に残ってたりするの。
[一言]  誤字はともかくルビは普段使っているなら無意識に使うのでは?  なんか、夜中に書いた手紙と同じものを文章から感じますわ。
[良い点]  突っ込みどころ満載な物語がステキ。 [一言]  夜中に起きて、書き上げて、また寝たんじゃないですか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ