第094話 別々の道
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「それがどう言う意味か分かっているのか。」
「あぁ。だけど、1つ言おう。ここにいても、壊滅して終わりだ。それなら、逃げればいくらでもやり直せる。」
「では、こちらの要求はその冒険者が洞窟に入るのをやめさせることだ。親切にこちらに忠告していることは理解した。しかし、それならばそちらの進行をやめればいいだけの話だ。」
「やめれば、鉱石の採掘の邪魔をしないと誓えるか。」
「元々、こちらから人間を襲ったことなど一度もない。いつも、そちらが我々を見るなり攻撃を仕掛けてくるのだ。」
それに関しては仕方ない話だ。
見た目は完全に魔物でこちらとしては、警戒する他ない。
しかも、相手は武器などを持っていて戦闘ではかなりの腕があるように見える。
「どうしましょうか。ここから、冒険者の進行を止めるてがあるとは思えないですよ。」
「それに交渉が出来たなどと言っても信じてくれるかどうか。」
問題点はそこだ。
リザードマンの要求を飲むには、ここであった魔物と会話したという状況を飲み込んでもらうしかないのだ。
普通、魔物と会話が出来ると言ったら頭のおかしな奴としか思えないけどな。
「俺達としてはそれで話を付けたいところだが、どうやって説得すればいいのか悩む。」
「それもそうだろう。何せ、貴様らが特殊だからな。ここには何年も過ごしているが、人間と会話したのは後にも先にも今日だけだ。」
「時間さえあれば必ず。」
「人間の中にも良心を持った奴らがいるとしれて満足だ。」
良心などではない。
これが最善だと思ったからそうしようとしただけだ。
俺達に善の心など宿ってはいないのだから。
「我々は誇りと尊厳を保つために戦う。例え、ここで散ろうともそれが生き様だ。ほら、時間がないのだろう。早くここから去るんだ。魔物の仲間などという噂が広まれば生きづらいだろう。また、生きていれば会えるさ。」
「何も力になれなくてすまない。」
その言葉の後は何も返事がない。
これ以上の滞在は危険だと判断したので、こちらも引き返すことにした。
最初に来たリザードマンの村の入り口まで来ると足音が聞こえる。
それもかなり速いスピードでこちらに迫っているのが分かる。
魔物かと思い刀を構えるがその予想は違ったようだ。
そのままの勢いで俺達の横を通り過ぎる影は明らかに人の形をしていた。
まさか、もうエイジオ達がここにたどり着いたのか。
エイジオの登場によって、今から起こる惨劇を想像すると心が居た堪れない。
「おっと、お前は奴隷オークションにいた冒険者じゃないか。」
俺の存在に気づいたのか、わざわざ歩みを止めてこちらに来る。
「なんだ、今からリザードマンの討伐か?俺もなんだけど、譲ってやろうか。」
「いや、ここの討伐はやめておくことにしたんだ。」
「進化刀を持っているのに随分と弱気だな。まぁいいか。ミレイヌ、お前の実力を試す時が来た。最大限の魔法スキルを使ってみせろ。」
あの時落札していたエルフの奴隷か。
首には何かを装備しているのが見える。
きっとあれが奴隷になった証なのだろう。
エイジオの命令に従って、魔法スキルを発動する。
しかも、その威力は地形を変化させるほどの威力があるだろう。
「【風魔法】”サイクロンバースト”」
淡々と放つ魔法は、リザードマンの村を一気に破壊する。
民家には女・子供がいたらしく、崩壊した民家の下敷きになってしまっている。
「おぉー、すごいけどこれからに期待ってところだな。いくぞ、お前ら。」
後ろから3人の冒険者が出てくる。
エイジオが認めるほどの実力ということは、コイツらもA級の実力があるのか。
やめろという言葉は胸の奥に仕舞う。
こうなることは分かっていたが、リザードマンの意志を尊重したのだから。
帰り道の洞窟は、来た時よりも静かに感じた。
「もう帰りかい?」
「リザードマンの巣窟で”銀狼の牙”と遭遇した。だから、俺達は必要がないと判断して引き返した。」
「お、おうそうか。なんか来た時よりも元気がないけど、大丈夫か。」
言葉を交わした魔物が目の前で無惨に死んでいく姿があれほど悲しいとは思わなかった。
確かに見た目は人ではないが、俺達と同じように心があり、文明があった。
種族が魔物であるという理由だけで殺す人間は、果たして正義と呼べるのだろうか。
消えない疑問は、馬車の中でも終わらなかった。
「気にすることないわよ。アタシ達の目標は、魔物の心配をすることじゃないでしょ。」
「その通りだ。むしろ、逆で魔物を憎み、殺し、魔王の喉元に剣を突きつけることが俺達のすることだ。」
冷酷でありながら、的を射る発言だ。
あくまでも自分の目的を第一に考え、そこからブレる考えを排除する。
慈悲の心を持てば剣が鈍り、少しの隙が生まれる。
今は大丈夫、この先もきっと、などという油断が出来てしまうなら最初から慈悲を持たなければいい。
「どうして・・・。どうして、そんなに酷いことが言えるんですか!」
「そうですね。今の言葉には賛同できませんよ。」
「あのリザードマンも私達と何も変わらなかったじゃありませんか。それなのにどうして心のないことを。」
これは偽善か、それとも善か。
どちらか分からないにせよ、他人を慈しむ心を持ちそれを大切にするからこその発言。
間違ってもあれが正解であったとは口にしない。
「道理を通すために非道にならないといけないことだってあるのよ。」
「それが今だったというのですか。魔物と人間の関係だったから仕方ないと。僕は納得できない。」
大きな対立。
自分の考え方を曲げることはできないからこそ、ここでぶつかり合う。
ヒートアップする会話に、俺と井村、小原は入らない。
ただ、傍観を続ける。
そしていくつか言葉のラリーが続いた後に、井村が口を開く。
「もしも、リザードマンと会話をしていなかったら魔物を殺したことが残酷だとは思わなかった。もしも、リザードマンが好意的でなかったのなら、これが非道だとは思わなかった。そう、ワシは思うけどね。」
「何が言いたいですか井村さん。」
「過程が少し変われば見方は大きく変わるように、人によって見える視点は違う。その視点を言葉に出して強要するのは支配でしかない。思想はもっと自由であれ。」
「それぞれの意見があるからぶつかり合うのも必然だけど、思いを伝えるくらいにしておけ。仲間割れをするのが1番最悪な選択肢だ。」
この話に終わり所をつけるなら今しかないと思い、井村に乗っかる。
もちろん、両方納得はしてないだろうし、言いたいことを言い合った方が健全だろう。
それでも、言い争いを望まない者がいることを理解しておくべきだ。
小原は小さく塞ぎ込んでしまい怯えている。
人の負の感情に人一倍敏感で、繊細な人間だからな。
これ以上口論を聞いているのは精神的負担が大きいだろう。
その様子をやっと見た4人は、口論を止めた。
俺と井村の意見に納得したからではない。
実際に今の状況は好ましくないと見せられたからである。
そうしているうちに時間はあっと言う間に過ぎ、ギルドに着いた頃にエイジオのパーティがリザードマンの巣窟を制圧したとの報告が俺達の耳に入ることとなった。
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