第085話 悲しい勝利
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「氷漬けにされた時にはちょっと焦ったね。でも、勝ち目は元々無かったんだ。」
「さっきまでやられていたのに余裕そうな口ぶりだな。」
「1度僕を追い詰めたぐらいでそこまで威張れるなんて感心するよ。死に近づいている意識はないのかな。」
内心は焦りでいっぱいだが、それを顔には出さない。
今は戦いの最中。心理を悟られないようにするのもテクニックの1つだ。
そうして、少しでも多くの駆け引きをして稼いだ時間で勝つ方法を模索するしかない。
「【迅雷投擲】!」
ポルタガを投げ込み防御をさせる。
いくら、強くてもこの速さの攻撃なら躱すこともできないはずだ。
そして、その攻撃を防いる間に近距離戦を畳み掛ける。
「考えが見え透いているよ。」
その場から動くこともせずに避けられてしまい、懐に入る時には迎え撃つ体制を整えられている。
しかし、1人なら対応されてしまうかもしれないが2、3人でいけば苦戦するはず。
その意思を汲み取った上野、大城が近接戦闘を仕掛ける。
「これはこれは。雑魚が何人寄ってきても結果は変わらないということに気付けないのか。もう少し絶望を味わせてあげるべきだったかな。じゃあ、これを使うか。【悪心】」
上野の使っているスキルと同じものだ。
溢れる邪悪な雰囲気にこちらまでが呑まれそうになる。
きっと力も今までの何倍も違うだろう。
振りかざされた進化刀を前にあるのは絶望の2文字。
このままでは直撃を免れないことは分かっていても身体が動かない。
他の人の声や周りの音さえも今の俺には届かない。
死。それがこの戦いにおいて俺が辿る末路だったのか。
最後に何か1つでも足掻いてやりたいところだな。
『すぐそこにあなたを感じる。ここまで来てくれたのですね』
あの時に聞いた声。このどこかにいると言っていたやつだな。
この状況で聞こえてくるのは、どうしてだろうか。
今は、そのことを考えている暇などない。
『何か強大な敵と戦っているのを感じます。そして、今まさに死と直面した瞬間であるということも。』
そこまで感じ取られているなら話は速い。
この会話に割いている意識を目の前の世界へ向けようとする。
『お待ちください!私は、精霊クリスタ。今あなたの望む力が手に入るはずです。』
俺の望む力。こいつとまともに勝負できる力を手に入るなら。
『鏡が近くにありませんか。私が鏡に入り込めば精霊の鏡としてあなた方のお力になれることでしょう。』
精霊の鏡。
俺達が求めている精霊の鏡は本来鏡が本体ではなく、それに宿る精霊だったのか。
とはいえ、鏡を持っている人なんているわけがない。
いや、このダンジョンで清水は落ちていた鏡を拾っていたはずだ。
『彼女ですね。わかりました。この戦いに必ず勝機があらんことを。』
意識が完全に戻るとそこは進化刀を振り下ろされた続きからだった。
何が起こるのかが気になっている。
先程の会話があったからだろうか、自然と負ける気はしてこない。
「きゃあーー!」
後ろの方から何か叫び声が聞こえる。
その声は恐らく清水の声だ。
そして、その後にこの場全体を包み込む真っ白な光。
眩しいというよりも神々しいという方が合っている光に悶え苦しむクライネ。
「なんだぁああ!!!あの秘宝か!完全に封印したと姉様が言っていたのに!」
「もう何度目になる形成逆転だろうな。」
「ほざけ!魔族が人間なんぞに負けるなんてことはありえないんだよ!本来の力なんて使えなくとも勝てると証明してやろう!」
「ラストバトルに相応しいな。」
何故か大城、上野、宮武、清水まで倒れ込んでいる。
覚醒者の3人は魔族に近い力だから神聖な力に弱いのかもしれない。
そうじゃなくても、至近距離で受けていた清水も気絶してしまっているからな。
そう考えると弱体化されただけで収まっているクライネはやはり次元が違うな。
「い、一ノ瀬さん!か、髪が!」
「真っ白だよ真っ白。なんか雰囲気も違うし。」
もしかすると、俺に言っていた望む力というものかもしれない。
「死ねぇーーー!【禁術】”死界”」
進化刀に纏った黒いオーラ。
それとは逆に俺の進化刀は白いオーラが。
刀自体もいつもと違うような気がする。
「どうやら、お前と俺の力逆転したようだな。」
軽く力を込めるとクライネは壁にまで吹き飛ばされる。
今まで苦労した戦いは、赤子の手をひねるようなものになってしまった。
名前:進化刀 四式・裏 【白鴉】
説明:神聖な力を受け一時的に姿を変えたもの。使用者は譲れない正義感のあるものでないとならない。
通常時の力に加えて悪に立ち向かう力がある。
スキル:【進化】Lv4 【頑丈】Lv4 【攻撃力上昇】Lv4 【吸収】Lv3 【一心化】Lv1 ???
どうやら刀自体が変化しているようだ。
「形成逆転だ。大人しく地面に這いつくばって寝ておけよ。」
「こんな結末が許さてたまるかぁ!!!お姉様!!!最後に僕は美しい華を咲かせてみせますからね!」
何をしようとしているのか。
それが分からないかったが俺の足を掴み意地でも離そうとしないコイツを見て理解した。
「最後は自爆して道連れってことかよ。」
「君だけは一緒に死んでもらうよ。だってあの中で1番厄介だからね。」
頭を斬り裂いたがそれでも自爆を止まる気配がない。
もう爆発まで数秒も残っていないだろう。
「【反転】」
気絶していないメンバーの中に井村が残っているのを忘れていた。
こうして、無傷とはいかないまでも全員が生き残る形でダンジョンを攻略することができた。
「あの光。それに一ノ瀬君の格好も。」
「どうやら精霊の鏡の効果らしい。恐らく、神聖な力を周りに付与する力を放つのだろうな。」
「他の人達も驚いて気絶しましましたね。どうしましょうか。」
「念のため周りを捜索しておくか。何かいいアイテムがあるかもしれない。」
あれほど強い光を浴びたのなら起きるも数分は掛かるだろう。
残った3人で壁などを入念に調べる。
「なんかここの壁だけ薄いような気がします。」
「薄い?確かにノックすると奥に空間があるよな音がするな。」
これはもしかすると大きな宝が隠されている可能性もある。
そう思い、壁を破壊すると想像も出来なかった光景が広がっている。
他の2人も信じられない光景に言葉を失っている。
「ワン!ワン!」
ヴァイスだけはお構いなしに部屋の中へと入っていく。
1匹だけを部屋の中で放置する訳にはいかないので俺達も足を踏み入れる。
「これ人でしょうか。」
機械の中に水らしきものと人が入っている。
『ここまで来てくれてありがとう。』
精霊クリスタの声。
俺はこの機械にそっと近寄り手を添える。
『私はもう魂しかこの世に存在することはできないのです。だけど、それでも人の役に立ちたい。』
「必ず役に立つ。俺達は魔王を討伐する存在になるんだからな。」
『その日をずっと待っていますね。』
本体があるにも関わらず、直接は会話することができない状況。
彼女自体はずっと前にここで息絶えたのかもしれない。
俺達を救った秘宝の秘密は、あまりにも悲しく切ない結末を迎えていた。
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