第080話 狐火
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「人数はたくさんいるようだけど、使い物になるのは少しばかりね。」
自分の実力に酔いしれた挑発的な言葉だ。
彼女の言葉は俺達にとって耳が痛い話。
どれほど良いスキルを持っていようとも本人に戦闘の意識やセンスが無ければ、無いのと同じこと。
俺と上野、大城を主軸に騙し騙し攻略を進めていったが本来であるならそれぞれがソロでも活動できる力が欲しいところ。
「俺に集中しろよ狐女。今日は敗北を味わうことができる特別な日だ。」
「あら。味方を庇うために1人で戦うつもり?」
そんな立派な気持ちから来る言葉ではない。
俺との戦闘に集中させれば他の奴らが動きやすい。
それで背後から不意打ちでも与えればと思ったからだ。
その意思を汲み取って動いてくれる人が何人いるかが問題だけどな。
「無言で刀を振り回すなんてちょっと行儀の悪い子。お仕置きは必要かな?」
新しく取得した【一心化】を使っているのに急激に伸びた爪1つで防がれている。
そして、その後ろからは綺麗燃える蒼の炎。
防御に集中しようとするが、この場から後退するのを相手は許してくれない。
これは避けようがないと思い、スキルの準備をするが意外な形で抜け出すことになる。
「【反転】!ワシらだって戦力になることを証明したい!」
井村の機転によって俺と狐の位置が入れ替わる。
それによって放たれた蒼の炎は狐に直撃する。
全身を炎で燃やされても動揺の1つも見せない。
むしろ、この状況を楽しんでいるような笑顔を見せる。
炎の中から見えるその笑顔は狂気以外で形容することはできないだろう。
「邪魔に入ったということは戦う覚悟があるということだよね?」
今度は狙いを井村に変えて襲い掛かる。
しかし、こちらも簡単には接近を許さない
上野と大城がフォローに回り、迎え撃つ態勢を整える。
「遅いし、邪魔よ!」
その容姿からは考えられないほどの馬鹿力によって壁まで吹き飛ばされる2人。
不意打ちでこれほどの被害が出ているのではない。
こちらも全力でぶつかる覚悟を持っていたのに、これほどの力の差を見せられる。
その場から動くことが出来なくなった井村。
また、先程のように【反転】を使わせるしか助かる手段はないか。
しかし、今の俺でもあの勢いを止めることはできるか。
俺がとりあえず声を掛けようとした時、2人の間に投げ込まれたコイン。
「残念、魔導具ぐらい匂いで分かるって!」
何か仕掛けがあったであろうコインは真っ二つ。
宮武なりの精一杯の援護だったかもしれないが見破られてしまえば効果はない。
「こういうのって最後まで油断しない方がいいわよ?バカじゃないんだから。」
コインからは煙が漏れ出す。
それも鼻につくような匂い。
「まさか、ガス!嫌な小細工してくるのね。」
自分の炎が暴発することを恐れて解除する狐女。
そして、鼻が良いのか匂いに顔をしかめている。
「そんなことするわけないじゃない、アタシまで危険が及ぶじゃない。ただ匂いをつけただけよ。」
「ずる賢い女もいるみたいけど所詮は猿知恵ね。結局は圧倒的な個の前では無力なのよ。」
「あなたより弱いかどうかは試してみる?」
これはきっとハッタリだ。
いくら宮武が覚醒者のスキルを持っていたとしても1人でどうにかなるような相手ではないことは、本人が1番知っているはず。
相手はプライドが高く挑発に乗りやすいようだ。
これを思い描いてたかどうかは分からないが一直線に宮武の方へと向かう。
「え、えい!吹き飛ばし札!」
今まで積極的に戦闘へ参加しなかった小原が狐女へ攻撃を仕掛ける。
小原のスキルによってこの接近には気付けていないようで、かなりの距離を吹き飛ばされる。
恐らく、宮武が小原でも使えるような魔導具を選別して渡しておいたのだろう。
「私だって戦える。私だって。」
きっといつまでもお荷物ではいられないという気持ちがあったのだろう。
直接傷をつけなくとも戦い方は無数に存在する。
ここからの小原の成長はゆっくり見守ることにして、今はあれをどうにかしないと。
「あれ、どうしますか?手も足も出ないですよ。」
「何か弱点があれば、そこを集中的に狙うんだけどな。」
「とにかく真っ向勝負は避けましょう。そして、時間を稼ぎつつ一ノ瀬さんの作戦が出るのを待ちますので。」
作戦は俺が担当するのか。
この状況でその役割は荷が重すぎる。
頭によぎるのは失敗の2文字。
味方の戦力でさえ、完全には把握していない。
今、分かるところだけで考えようにも勝てるビジョンは浮かばない。
「面倒よ。面倒面倒ゥ!!!【全獣化】」
小原の攻撃は、宮武を救うと同時に狐女の心に火をつけることになったようだ。
大きさも迫力も何もかもが先程とは桁違い。
その中で1つだけ良いことがあるとするなら、的が大きくなったことで攻撃が当てやすいことくらいだ。
「相手も本気を出してきたぞ!1回でも攻撃を喰らえば瀕死は免れない、集中しろ!」
大城の言葉で全員が気合いを入れ直す。
ここからは1つのミスも許さない時間になるだろう。
耳を裂くような咆哮を上げながら俺達へ蒼の炎を飛ばしてきた。
無数とも思えるその数を全員で受け流す。
「【運命天論】!」
場の流れを変える宮武のスキル。
次々と俺達を狙った攻撃は、外れてあちらこちらへと飛んでいく。
この一撃で気付いたことは、攻撃の種類はそこまで多くないということ。
圧倒的なパワーがあるからそれで十分だと考えているのか分からないが、物理的な突進と遠距離の炎を攻略出来れば勝ちは目前だ。
「狙うのは隙の多い物理攻撃だ!特に振りの大きい爪での攻撃が狙い目だ!」
完全に獣となった狐が俺達の言葉を理解しているとは思えないので大きな声で作戦を伝える。
これ以上引き伸ばしても得策とは思えないので、ここから一気に仕掛けて長引かせないようにする。
すでに解除されていた【一心化】をもう1度発動させて、右足への攻撃を試みる。
狐は足元まで視界がないようで抵抗されることなく足元へと刀が届く。
「こんなに硬いのかよ。」
毛が鉄よりも硬く傷をつけることが出来ない。
「俺が動きを封じる!その隙を上野がつけ!」
「僕ですかー。あの炎に勝てる気がしないですよ!」
「【幻想の豪雪】!体を氷漬けにしたが、これも長く持たないぞ!」
「これを見せるつもりなかったんだけどな。まぁ、いいか。倒せなさそうだし出し惜しみしないでいこう。【悪心】」
いつもとは全く違う雰囲気の上野。
そして、作り出される炎は黒よりも黒かった。
今までのは、全力ではなかったということか。
それならば、他の2人も同じように実力は未知数。
実力が見えたかと思えば、まだまだ底知れぬものが眠っている。
狐も反撃とばかりに炎を生み出すが、全くと言って良いほど相手になっていない。
数秒で大きく変化する常識に脳の処理が追いつかないまま、俺達の勝利で幕が閉じた。
その異様な強さに誰もが気付いていながらも、話題に出すことが出来ない。
その答えがきっと恐ろしい物だと理解しているから。
色々あったが10階層までの攻略は予定通り。
明日もこの調子で進めば攻略完了だ。
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