第038話 限られた時間の中で
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食事の場には大勢の団員がいるようだ。
人数は数えられないが、これだけの人数が集合していると考えるとほぼ全員いると思って良いだろう。
「今日は新しい団員の歓迎だぁーー!!!お前ら今日は無礼講だ!!飲め飲めー!」
「言っておくが明日の訓練は普通に行うからな。飲み過ぎてまともに訓練に参加できなくても容赦はしないぞ。」
そんな容赦ない一言も聞こえるがどうやら聞こえている人間は少ないようだ。
みんなジョッキに並々のビールを注いで馬鹿騒ぎをしている。
やはり、先輩達が気になっているのは女性陣のようだ。
男の団員はみんな囲むように食卓に人が溢れかえっている。
鼻の下が伸びきっているのを見ると下心しかないようだ。
同期の顔は比較的整っていると言える。
それは男でも例外ではない。
マルスは女性団員の多くに声を掛けているようだ。
その容姿は決して悪くないし、元からコミュニケーション能力がずば抜けて高かったことからも意外と話は盛り上がっているようだ。
しかも、自分から話をするだけじゃなく相手の話を聞くのもうまい。
俺も最初の方は聞き耳を立てていたが、どれも日常会話の範疇を出ないので途中からは食事に集中している。
イラの方も楽しんでいるようだ。
話を楽しんでいるというよりも、イルは身長が160cmにならないぐらいで喋れない分表情も豊かなので小動物のような可愛がられ方をしている。
目の前に食事を運んできては美味しそうに食べるイラに男女関係なくほっこりしているようだ。
当の本人はこんなに食べられないよっていう表情をしているのでキリの良い所で料理を運ぶのをやめてあげてほしい。
で、俺の方はどうかって。
俺の周りは誰も人が寄ってきていない。と言うよりは、わざわざ人のいない端の方を選んで黙々と食事をしている。
理由は1つ。
これだけ大勢集まっているなら1人抜けていても気付かないはずだからその間にもう1度、情報が書かれた本を見ることが目的だ。
運が良ければあの奥の部屋にも入れるかもしれない。
思い立ったら直ぐにでも行動に移したいので、食事を急ぐ。
しかし、簡単には事が進まないらしい。
わざわざ人目を避けている俺の横に座ってお酒を嗜もうとする人物が1人。
「君はあの輪には入らないのかい。」
騎士団長様。
もっとも実力を持っているだろう人間だ。
何をしようとしているのかと聞けばきっとその回答を持っているだろう。
本人の口からポロっと出てくれば問題はないのだけど、それぐらい能力の人間が騎士団の頂点に立てるとは到底思えない。
となると、ここは適当にこの場を逃れて調査を開始するほかにないだろう。
「良いんですか?騎士団のトップが俺のような人間に絡んでいても。」
「何を言っているんだ。君も今日の主役だろ。」
そう言いながら、持っていたワインを1口飲む。
そして、また言葉を続けた。
「それに私はあの中の誰よりも君に興味があるんだ。」
「それは愛の告白と受け取ってもいいんですか。」
この場で茶化した雰囲気を出せば、機嫌を悪くしていなくなるかもしれないという1つの望みをかけて言ってみた。
彼女の方を見ても俺から視線を逸らすことはない。
むしろ、俺の目を見たままに話を続ける。
「普通の人間はそこで私に対してそんな言葉を言ったりは出来ないさ。それに、君に特別な感情を抱いているとしたらこの場から逃げようとせずに本心んで会話をしてくれるのかな?」
きっと彼女は【読心術】のスキルは持っていない。
だが、長年多くの人を見てきたであろう彼女にはお見通しだということか。
それでも目的まではまだ気付いていないだろう。
「俺もまだここに入ってばかりの未熟な身。だから、抜け出してこっそりと特訓でもしようかと思ったのです。この言葉に嘘偽りはありませんよ。」
「そうだと良いけどな。でも、今日はもう遅い。それに過度な特訓は体に深刻な影響を及ぼす。違うかい?」
「そうですね。それならば、この俺で良ければ話相手をさせていただきましょう。」
この好機を逃す訳には行かないと思ったが、これで計画を悟られても意味がない。
それに、どれだけ拘束されるかは俺次第。
俺の返答に満足したらこの場を離れるかもしれない。
「そうだ。それで良いんだ。よし!君の故郷の話をしてくれ。人柄というのは環境に左右されやすい。君と言う人間を知るには良い話題だろう。」
故郷か。この話は想定できない訳では無かった。
むしろこの場だけで無く、異世界に飛ばされしまってから聞かれたら困るとは常々考えいた。
しかし、その受け答えの回答はまだ作られていない。
作り話をするか、それとも本当の話をこちらの世界に寄せて話すか。
はたまた何1つの偽りのない話をするか。
どれをとっても正解とも不正解とも言えない。
いや、その場にならないとわからないというのが正しいだろう。
さて、今回はどれを選ぶべきなのか。
それを考える時間を作るほど真実味がなくなってしまう。
「俺の故郷ですか。随分と帰っていないのでぼんやりとしか。」
「ほお。帰らない理由は聞いても良いのかな。」
「両親は15の時に事故で失いました。それからは雇われの身として日々金を稼ぐ日々。そして、それは同じ土地だけには収まりませんでした。興味の向くままに歩き、街を超え、国を超えと過ごして来ました。色々な街を見て気付いたのです。故郷がどこなど関係はない。自分がいる道を見失わなければそれだけで良いと思ったのです。」
これが嘘か。それとも本当なのかそれは俺以外には知り得ない
しかし、これだけの熱量で語れば嘘だとは考えにくいものだろう。
「君の考え方はやはり周りの人間とは違うようだ。ティキアを愛し、それを守る者としては土地に愛着を持ってほしいものだけどね。」
「それはこの騎士団に入って以上、全てを捧げる心算であります。」
「いやいや、そこまで考えを変えろとは言っていないよ。どちらかと言えば私も君の考え方は好きだからね。でも、だからこそ残念だ。」
「残念と言うのは?」
「最近、街のことについて探りを入れている集団がいるらしい。それも7人も。彼らはどうやら探しものをしているようだが、我々が何かそのことについて知っているのではないかと思っているらしい。」
言いたいことは分かって来たががまだ確証はないはず。
言い逃れしようと思えばどうにでもなる段階だ。
「しかし、彼らは7人から6人に数を減らして活動をしているらしい。それが何故だが分かるか。」
なぜ俺に疑いの目が掛けられたのか不明だけど、これ以上の追求を許してはいけない。
「別行動をしているからでしょうね。」
「あぁ。それが大正解だよ。」
残っているグラスのワイン。
それをグッと飲み干してこちらを見る。
「私は、見つけた鼠は逃したりはしない。しかし、君は私の興味を刺激する。良かったなイチノセ・イサムくん。」
俺のフルネーム。
これが分かる人間は限られている。
こっちに同じく飛ばされてきた6人ぐらいだが、知る方法はある。
「同じ【鑑定】持ちでしたか。もしも仮にあなたの考えが合っていたとしたらどうするおつもりですか。」
「君には元いた所のことは忘れて、ここでの生活を楽しんでもらいたい。いわゆるスカウトってやつだよ。」
「簡単行くと思いますか?俺は相手が誰であろうと噛みつくタイプですよ。」
「まぁ、君の目的は知らないが自由に見て回るといい。全ての計画を知った所で止められはしないから。」
俺はここで無駄な言葉を発しない。
これ以上、相手に情報を与えてしまうのはいけないからな。
まさか初日でバレてしまうとは思わなかったが、結局のところ後2日で全てを終わらせないといけない。
それに事情を知った騎士団長も何か仕掛けてくる様子は見られない。
油断させて隙をつくことも考えられるが、そんなことをするようには思えない。
ならばお言葉に甘えてこの場から抜け出して捜索を続けよう。
俺は、盛り上がりを見せる食堂を抜け出してあの場所に足を運んだ。
誰にも見られていない今を狙って。
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