第032話 動きだす火
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あれは昨日と同様に激しく燃える炎だ。
昨日の火事は単なる偶然ではないんだと挑発してくるように犯行が行われたのだろうか。
この燃え広がる火を見るからに燃え始めてそう時間は経過していないはずだ。
そうなればこの近辺に犯人がいる可能性は十分に考えられる。
人混みの中から分かっていない犯人を探し出すのは不可能だ。
それならば、今は犯人を探す手掛かりになりそうなものを見つけ出さなければいけない。
そう思い現場に近づこうとするが、ティキア騎士団がすでに消火活動を準備していて近づけない。
なぜ、すでにティキア騎士団がいるんだ。昨日の到着までには4・5分は掛かっていたことからも、近くにいたとしか考えられない。
遠くから火事の様子を見守ることしか出来ない俺に背後から近づく者の気配を感じる。
手が俺のすぐ近くまで迫っているその瞬間、俺は振り向いて相手の顔を確認する。
その顔は、犯人からと思ったが俺がよく知っている顔だった。
「一ノ瀬君。あれって火事だよね。昨日の犯人がまた現れたってことかな。」
「井村か。今日はもう宿に帰ったのかと思ったよ。」
「いや、ただ散歩をしながら本の題材になりそうな物を探していたんだよ。」
「この世界でも本のことばっかりだな。」
井村の手には何か買い物をしていたような後はない。
だとすると本当のことを言っているのだろう。
仮に嘘だったとしても昨日の犯行が無理な時点で犯人とは考えられない。
「1日1件ずつ起こるのだとしたら明日もまた事件が起こる可能性があるね。」
「この事件についてどう思う。」
「ワシの考えでいいなら少しだけ。水魔法でも消えにくいってことは高レベルの【火魔法】が使える実力者らしい。でも、そんな人物がこの街を狙う理由は?そもそもそんな人物がいるかどうかも定かでは。」
言いたいことは理解できる。
この街で高レベルスキルを覚えてるとしたらティキア騎士団か冒険者のどちらかだろう。
しかし、冒険者はそこまで腕の立つ者は見当たらず、ティキア騎士団は自由に行動できる時間は限られている。
残った可能性は旅人や市民のフリをしている何者か。
いや、1人だけ高レベルの【火魔法】を使えるやつを知っているな。
レイン
彼女は出会った時から不明な点が多く、自分自身も記憶喪失だと言っていた。
1回目も2回目も俺の近くにいたことから犯行が可能とは思わないが、何かしらのトリックがあるならわざと俺達に近づいてアリバイを証明する人として使っているのかもしれない。
なんて、深く考えすぎた結果無理のある推理を考えてしまっている自分に冷静さを保つように言い聞かせる。
「一ノ瀬さん!どうやらその感じ助手として調査は始まっているみたいですね。」
「上野か。他のやつらはどうした。一緒じゃないのか。」
「僕は今帰ってきたところなので。」
そう言って何か買い物をしてたであろう紙袋を見せつけてくる。
この時間まで荷物を持っているので、宿には1度も帰っていないのは本当だろう。
「何か犯人に繋がる手掛かりはありましたか。」
「それが、ティキア騎士団が先に来ていたから現場には近づけていない。でも、また【水魔法】でも消火に手こずっているのを見る限り、同じ高レベルの【火魔法】が出火原因と見て間違いない。」
「昨日と同一犯の可能性ですか。それの情報はかなり重要かもしれませんね。2件目が発生したことを見るに次もまた起こる可能性が十分あると考えて良いでしょう。もし、犯人を見つけ出すなら明日の夕方までですね。そうしないと明日も同様に犯行が行われますから。」
「それまでに犯人を見つけ出せるのか?」
「最悪、犯人を見つけ出す必要はないですよ。次の犯行現場が分かればその場で捕まえれますから。」
法則性がある。
そう言いたそうだが、俺にはそんなものがあるとは到底思えない。
最初は、野菜らしき食品を扱っている店。
そして、今回は民家だ。
まとまりなど全く持って感じられない。
しばらく、ティキア騎士団の消火活動を観察しながら現場に近づけるようになるタイミングを待つ。
俺達の帰りが遅いことを心配してくれたのか、みんなが揃ってこちらに向かってくる。
「帰りが遅いと思って来てみれば、また火事か。」
「これって、同一犯。ってことですか?」
「小原さんの言ってる可能性が高いけど、まだそうと決まった訳では。」
大城、小原、清水、宮武の順番で現場に到着。
どうやら、本当に俺、レイン、井村、上野は宿に帰っていなかったようだ。
「みんなは宿に戻っていてください。僕と一ノ瀬さんで少し現場を調べてから帰りますので。」
「待て。確かにもう夜だから女性陣は帰らせた方がいいかもしれないが、俺は手伝うぞ。」
「そうだね。人数が多い方が広い範囲探せるからね。」
井村、大城も積極的に調査の手伝いをしてくれるようだ。
女性陣はあまり興味なさそうな宮武に腕を引っ張られて宿の方に戻っていく。
「レインも帰って良かったんだけどな。」
「いや、私は残る。面白そうなことになってきたからな。」
そんなことを話している間にティキア騎士団が消火を終え撤収していく。
今回も前回も消火だけして帰ったところを見るに死者や怪我人を出していないのだろう。
「始めますか。捜査開始ですね。」
4人でバラバラになって証拠を見つけ出す。
そして、まず最初に声を出したのは井村だった。
「すまないが、ちょっとこっちに来てくれ。」
呼ばれて行った先には焼け焦げた布の破片が落ちている。
「これは一体?」
「ワシにも分からない。けど、何かヒントになるかなと思って。」
井村は何か分からないがとりあえず報告したらしい。
「犯人の衣服に燃え移った可能性もあるんじゃないか。」
「それで咄嗟に消火して逃げたと。でも、可能性としては低いですね。魔法は遠距離からでも使えますしので、わざわざ近づく必要性も。」
「まず、勝手に断定しているが【火魔法】と決まった訳ではないだろ。ここ異世界。何が起こっても不思議じゃない。例えば、魔道具を使った可能性もある。何か消えにくい仕掛けをして、時差式で発動させれば誰も見られずに犯行が可能だ。」
「その1つがこの布ということですか。これが魔道具本体か細工に使用したものか分かりませんが可能性はありますね。」
「俺からも1つ良いか。」
そういうとまた別の場所に連れて行かれる。
そこは民家と民家との狭い通路。奥にはまた別の路地が見える。
大城は下を指差している。
「ここ、水で流れて見えにくいものもあるが奥の路地からこっちの路地に向かって歩いてきた足跡が見える。」
「犯人のものか野次馬のものかはハッキリとしないですが、仮に犯人だとすると人通りの少ない路地からわざわざこっちの路地に来たことになりますね。その狙いはたくさん考えられますね。」
確かに犯人の狙いを絞ることは難しい。
民衆に紛れて自分のした犯行を眺め愉悦に浸るため。
それとも後から来た野次馬だと錯覚させるため。
考えれば無数に理由など思いつく。
「困りましたね。地球の常識がこの世界でも通じるとは限りませんし、ここはやはりあの手を使うしかないでしょうね。」
「聞き込み、か。目撃証言なんかがあれば1発でその人も体格、性別などで人物像が割り出せる。」
「仮にそうでなかったとしても不可解な点からヒントに繋がる可能性も高い。」
「どちらにせよ。明日は、この件について調べるしかないよ。また同じことが起こるからね。」
「女性陣にも協力して貰えば、証言もより集まるだろう。」
みんなやる気を出しているようだが、本来の目的からだいぶ道が外れてしまっている。
なので、俺は並行して秘宝のことについても調べておくことにした。
それと、あの読むことが出来なかった謎の文字も一緒に。
もしかしたら、秘宝と繋がっているかもしれないからな。
放火犯は一体誰なのか。
どんな目的があって行っているのか。
もしかしたら、その理由には正義があるのかもしれない。
それに、俺も。いや、俺達もその放火犯と同類の犯罪者なのだ。
そう思うと少し胸が痛む音がした。
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