第175話 魔王
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「入絵と言ったな。お前が日本人であるな、何故魔族側にいる。」
「俺はその名は好きじゃなくてね。ルーデと呼んでくれ。」
落ち着いた声色でそう返して来たが、問題はそこではない。
何故、日本で生まれ育った人間が魔王をやっているのが気になるのだ。
「君達がそれを聞くのか。俺と変わらない犯罪者達が。」
「その様子だと自分が悪だと認めているようですね。」
「意味も無く人を殺しているからな。それはどこの世界にいようとも悪だろ。」
やはり当然のように人を殺めていたようだ。
それも感情の起伏は一切無いことから罪の意識はないと見える。
俺はルーデがこの世界に来る前も後も知らない。
だから、何を考えているかなど到底理解できないだろう。
理解できないながらも分かるのは、彼に秘められた狂気だけ。
「ここで論争を始めるのが目的かな?それなら付き合っている暇はない。さっさと殺して終わりだ。」
「随分と物騒な思考に染まったのね。猪だってもっと慎重になるわよ。」
「そうだな。俺の実家も田舎だったから良く猪が出て困ったよ。アイツら思いの他賢くて嫌になるよね。」
「そんな話してないわよ。」
コミカルな空気を作ろうとしているのか、まともに取り合う気がないのか。
どちらにせよまともな会話が出来ないのは確か。
そうなると残された選択肢はたった1つ。
「やっと望んだ形になるんだな。」
俺達が武器を取るのを見て喜ぶルーデ。
なんとなく感じていたが、生粋の武闘派らしい。
「始めようか。互いの死を賭けたゲームを。もちろん、君達に先手は譲るから安心してくれ。」
両手を広げていつでもどこからでもどうぞという意を示す。
余裕そうというか余裕なんだろう。
自分が負けるということは考えもしていない。
その自信はどこから来るのか。
未知のスキルでも持っているのだろうか。
相手が相手なだけにいつもより思考する時間が長引く。
その間は体が動かない。
隣にある死に恐怖しているからでは断じてないが、下手に動いてはいけないと脳が命令するのだ。
横を見ると誰も動いていない。
全員近い結論に至ったのだろう。
「もう十分時間は経過したはずだけどな。与えられたチャンスってのはいつもそばにあるとは限らない。そうだろ?だから、折角のチャンスも終了だ。」
「チャンスも何も本当に無防備かどうか分からないのに手を出す奴がいるか。」
「もう良い。話すのは好きじゃないんだ。【闇魔法】”深淵より深き深淵”」
深い闇が俺達の体を這い回る。
ただ薄気味悪いだけではない、触れられた箇所から確実に感覚を失っていく。
体温も感触も無くなって、自分が立っているのか座っているのかも分からない。
徐々に闇は胸部まで達し、息をする感覚すら忘れてしまう。
それなのに苦しいという感情が湧き出ない。
現状を表すのであれば無という言葉がピッタリである。
たぶん、このままでは間違いなく死んでしまう。
なのにその辛さが伝わってこないのだ。
まるで安らかに眠るかのように。
後少しで脳にまで達する。
ここで終わるのか。
長かったな。
・・・!?
まだ、始まってすらいないだろ。
目の前にいる魔王相手に何もしないまま終わりなのか。
抗え、自分の持てる限りを尽くして。
「闇を穿て!!精霊の鏡!!!」
俺の言葉に反応した精霊の鏡が微かに開いている視界の中で光り輝く。
なんとか間に合って良かった。
徐々に体に自由が取り戻されるのが分かる。
視界も呼吸も正常に戻る。
「へぇー、立ち上がるんだ。珍しい。恐怖に飲み込まれたかと思った。」
「俺はまだ戦える。本気で行かせてもらうぞ。【神格化】」
進化刀のスキルで普段は出ない力を生み出す。
負けたく無いという思いが、その力をより一層増幅させる。
他の6人も攻撃の準備は完璧のようだ。
「いくぞ!」
大城の掛け声に合わせて全員が動き出す。
「まずは先陣切って態勢を崩すのが、僕らの役目ですよね。【衝撃】!」
「後ろの攻撃をなるべく通せるようにな。【合気道】」
2つの物理的な攻撃が魔王を襲う。
しかし、確実にヒットしたにも関わらずダメージを受けた様子がないどころか、その場から1ミリも動いていないことが分かる。
「効かないよ。俺にはほとんどの攻撃が無効だ。」
魔王らしい設定ではあるがそんなチートが許されて良いはずがない。
何かしらの攻略方法があるのだろう。
となると、その鍵となるのはやはり秘宝か。
「ワシも【神通力】で援護するよ!」
「そうですね。ここは遠くから削る作戦に変えた方が賢明だ。【光魔法】”シャイニングレイン”」
「了解だ。【狙撃】」
雨のように降り注ぐ遠距離攻撃たち。
今まで動くことすら無かった魔王も流石に対策してくる。
「鬱陶しいのは嫌いだ。【闇魔法】”ブラックホール”」
全ての攻撃を飲み込むブラックホール。
こちらの攻撃はことごとく無効化されていく。
遠距離も近距離も対応されてしまってはどうやって攻撃を通せば良いのか。
またも絶望が心の中を支配する。
だが、まだ諦めてはいけない。体は正常に動く。立ち向かう理由はそれだけで十分だ。
今度は小原が動いている。俺もそれに合わせて走り出した。
小原は完全に気配を消そうとしているので、俺が目立てば目立つほど小原の攻撃が有効になる。
「【迅雷投擲】!」
ポルタガを投げつける。
それを躱す動作に合わせて一撃を浴びせた。
「思って以上にやるな、君達。」
「敵から褒められても全く嬉しくないな。」
「それは残念だ。【水魔法】”ポセイドン”」
人の形を成した水の塊が俺とルーデの間に生成される。
こうなってしまった以上、近付く為にはこれを突破する必要がある。
「数でゴリ押せば、問題はないか。【分身】」
無数に作られた俺の分身が水の化身へと飛びかかる。
「時間稼ぎ、ありがとうございました。」
魔王の後ろを位置取った小原が首へナイフを突きつける。
彼女は確信したかもしれないが、魔王の表情が正面から見える俺は見逃さなかった。
確かに口角が上がっていたのだ。
首を確実に捉えた一撃。
しかし、真っ赤な血が出ることはなかった。
この時、ようやく思い出したのだ。
彼はとっくに人間を辞めているのだということを。
ナイフの刃は、その強靭な肉体によって粉々になってしまう。
いくらなんでも刃よりも皮膚の方が強固だと誰が予測出来ただろうか。
驚いている間にもルーデの反撃が小原を襲う。
死なないにしても傷は付けられると思っていた小原は、まさかの反撃に対応出来ていない。
このままいけば、吹き飛ばれて動けないほどの重症を負うことになる。
「危ないことばっかりするわねアンタら!」
ルーデと小原の間に投げ込まれた魔導具。
地面に落ちたことによって仕掛けが起動する。
クッションのようなフワフワが現れて攻撃を吸収しているようだ。
しかし、それでも受け止めきれなかった分衝撃が小原を吹き飛ばした。
軽減しているのにあの威力。
もしも、直接喰らっていたら死んでいた可能性だってある。
小原のところには、清水が治療に行っているので問題はない。
それよりも、今は無敵にも思える魔王の倒し方を考える方が先だ。
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