第168話 記憶に残るもの
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「ここから僕の本気を見せないとね!【魔族解放】!」
魔族解放をするとリコワルドの服装が一気に変わる。
どこにでもいそうな服装からアイドルらしい装飾の派手な物へ。
これで料理の腕が上達するとは思えないが、形から入っている方が気合いが入るのかもしれない。
一方、清水もセットの後ろへと連れて行かれる。
少し時間が掛かっている様子なので心配だ。
しかし、心配とは裏腹にしっかりと戻ってくる清水。
怪我をしているなどの変化は無いようだ。
あるとすれば、清水も対をなす色合いのアイドルらしい服装に着替えたことくらい。
恐らく、恥ずかしくて着替えるのを渋って時間が掛かったのだろう。
「それじゃー!各々始めちゃってねー!食材はそこにおいてあるから!」
それぞれ自分の後ろに材料が置いてある。
俺達の食材に特別悪質な仕掛けがしてあるように思えないが、リコワルドの食材の様子がおかしい。
明らかに高級そうな物ばかりが置かれている。
同じ食材であってもその質は高い。
これは、不利な状況になってしまった。
勝ちを掴み取るためには、料理の腕で勝つ以外方法はない。
しかし、清水には料理のスキルを持っていないので、相手が料理スキルを持っていれば厳しい対決になるだろう。
「落ち着け清水。相手はもう動いているぞ。」
リコワルドは、慣れた手付きで食材を手に取り出した。
ちゃんとどちらが良いか目利きまでしている。
それに対して、まだ羞恥心が勝る清水はぎこちない動きで後ろを振り返る。
セットの正面では、大きなタイマーが動いているのであれが制限時間ということだろう。
無限に時間がある訳ではないので、少しでも素早い動きが求められる。
「〜〜〜♪よいしょ、よいしょ、タンタンタン!」
軽快なリズムを口ずさみながら、食材のカットに移っている。
普段はスキルの効果に頼りっぱなしの俺は、材料だけ見て料理を当てることは不可能だ。
何か分かれば対策が出来るという訳でもないが、相手の作る物を知っている方が幾許か心が楽になると思う。
そんな一方で、清水はまだ料理に悩んでいるようだ。
手に取ってはやっぱりやめたという動作を繰り返す。
このままでは時間が来てしまって、負けてしまうのは確定だ。
なんとして、正気に戻さないと。
「落ち着いていけー!何を作れば良いか迷ったらいつも通りのメニューで良いぞー!」
「そうですよー!慣れてる料理が結局1番美味しいです!」
他の6人から応援でようやくいつも通りに戻ったようだ。
そして、もう1つ嬉しいことにメニューが決まったらしく手際良く材料を選んでいる。
こちらはリコワルドと違って材料だけで何を作るか分かってしまう。
正直な感想を言うと悪くない選択だと思う。
普通の料理対決ならいざ知らず、これはアイドル対決も含まれている。
その点を考慮するとまだ勝機があると思って良い。
「ここから僕のギアも上げていくよー!」
隣を見ると、すでに料理を1つ完成させていた。
それで手が止まるなら良かったが、どんどんと次の料理も作られていく。
しかも、デザートまで作ろうとしているらしい。
フルコース並みの料理を見て呆気に取られていたが、清水の目は死んでいなかった。
自分の料理にだけ向き合って、丁寧な作業で進めていく。
切った材料を鍋に入れ、灰汁をすくいながらじっくりと煮込む。
煮崩れしないように細心の注意を払いながら、味を整える。
加えて、こちらもデザートまで準備する。
主食の料理を食べると甘い物が欲しくなるからな。
そこまで配慮された戦略なら完璧だ。
あれだけスタートダッシュに遅れた清水だが、なんとか持ち直すことに成功した。
後は黙って清水の勝利を祈るのみ。
ピピピッ ピピピッ
「終了〜〜!動くのはストップしてね!」
終了の合図を告げるタイマーの音。
これ以上、手を加えさせないためか大きな声で動かないようにと忠告してくる。
現段階で盛り付けられた皿を見ると圧倒的にリコワルドの方が豪勢だ。
こちらが勝つ為には味で勝負するしかないのかも知れない。
「で、勝敗はまだやって決めるんだ。まさか、全員そっちの手下を採点係にするとか言い出さないだろうな。」
この勝負は票数が多い方が勝つ仕組みだ。
必然的にどれだけ自分側の人間を用意しておけるかで、勝敗をコントロールできる。
もしも、公平にジャッジすると言い張るのであれば少なくともどちら側の人間でもない人を1人は用意しておく必要がある。
「それは安心してほしいよ!公平性を保つ為にこんなゲストを用意しております!張り切って登場してください、どうぞー!」
誰が登場するのかと気になったが、その興味も数秒もしないうちに消え去る。
どこからどう見たって魔族である奴らが5人も登場した。
明らかに八百長をするつもりだ。
「今、どこが公平なんだって思いましたね。安心してください!彼等にはなんと!な、な、なんと!記憶を消すスキルを施しているので、全く偏りのない審査をしてくれるでしょう。」
魔族の言っていることをいちいち鵜呑みにするはずのなく、真偽の審判の反応を確かめる。
確かめた結果、嘘ではないようだ。
一応、清水にも合図を送っておく。
そもそも、そんな強力なスキルがあるなら俺達にも勝てるだろと思ったが、心の中だけに留めておこう。
まずはお手本をと言わんばかりに審査員の前に並べられるリコワルドの料理。
驚かされるのはその品数だ。
普段料理をしている人間でも到底作れない数を作っている。
ただ、品数が多いだけなら良かった。
「う〜〜ん!!!これはとても美味しいですね!」
「それにこの種類の豊富さ。飽きというのが全く来ない。」
「デザートもパティシエレベルじゃない!」
絶賛の嵐。
まだ清水の料理が出てきていないのにも関わらず勝ちを決めたかのような雰囲気だ。
次は清水の番だ。
恐る恐る料理を運んでいる。
リコワルドと違い料理の数は少なかった。
「ほほう。これはカレーライスとリンゴのコンポートか。」
スプーンで一口分を取って食べる。
先程の料理と違って、何度か食べた後に頷いて見せる審査員。
「このカレーには何が?」
「ルーだと油が多すぎるのでスパイスから作ってあります。でも、それだけだと辛くなりすぎると思ったのでチョコレートを少しだけ。」
納得しているみたいだ。
静かに審査が進んでいく。
どうやら結果が決まったらしく、結果発表が始まった。
1票目:清水 2票目:清水 3票目:清水
蓋を開けてみれば、清水の圧勝。
結果発表が終えると、律儀に講評が入る。
「味や驚きではリコたんが勝っていたけどねぇー。思いやる気持ちというかなんというか、俺達のことを1番に考えているってのが伝わってきたね。」
「健康に気を使ってカレーを調整したり、疲労に効く栄養価があるリンゴのコンポートにしたり。」
「1番の決め手は、印象に残ったことかな。リコたんのは、美味しかったけど何を食べたかって聞かれたらハッキリとは思い出せないや。清水さんのは思い出に残るカレーだったね。」
「と、ということで勝ったのは清水たーん!!!なんか予想外の結果は結果だったけど、約束だから通って良いよ!」
他の魔族と違って何とも潔い奴だ。
負けを認めってあっさりと通しやがった。
俺達的にもそっちの方が良いので助かるが。
急いで服を着替えて戻ってくる清水。
勝ったのは良いが、どこか不機嫌だ。
「その〜なんだ、服似合ってたぞ。」
「記憶から消してくださーーい!」
今日1番の大声が響き渡った。
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