第162話 冷静で熱い男
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意外な顔見知りの登場に盤面は大きく変わる。
魔王討伐に他の人の手を借りるとは情けないが今は仕方ない。
「これは一体どう言う状況でしょうか。私には理解が出来ませんね。」
「俺達がお前を倒すということだ。」
「ここまで来れたのは事実。私がしっかりと相手をしてあげましょう。」
俺達も全員戦う準備が出来ている。
真正面からのぶつかり合いは今にも始まりそうだ。
そこに待ったをかける男。
「アイツは俺1人で十分だ。無駄に体力を消費する必要もない。」
大城が1人で戦いたいようだ。
本来であるなら、ここは止めるべきだろう。
相手の強さも把握できていないし、1人で勝てるような相手とも思えない。
もしも、大城をここで失うようなことになれば後に支障が出ることも明白。
ただ、彼の意思は固い。
こうなれば、俺達が何を言おうと押し通すつもりだろう。
「負けることだけはないようにな。」
「俺が負けるなどありえない。」
自信を持って前進する。
「良いのですか1人で。私は、生憎手加減という言葉を知りませんが。」
「全力で来る来ないも勝手だが死にたくないなら本気を出すこともおすすめする。」
大城の挑発にイズチは少しだけ眉を動かす。
丁寧な言葉遣いで冷静さを装っているが、人一倍感情的なのかもしれない。
しかし、大城はこれ以上の心理戦を仕掛けない。
あくまでも勝つのは戦いの上での話らしい。
無言で相手の距離を計る。
1歩ずつ緊張を持ちながらも距離が縮まる。
そして、どちらが仕掛けてもおかしくない間合いになった時大城が仕掛けた。
「先手はいただく。【悪心】」
最初から相手との能力差を埋めるために【悪心】を発動させる。
これでも相手と同等になったくらいだろうか。
一瞬、こちらの変化に驚いたイズチも攻撃を仕掛けてくる。
「そのオーラ。私は生きてきた中で見たこともないような力ですね。どうやらゆっくりとしている暇は無さそうだ。【魔族解放】”アンデットマジシャン”」
イズチの姿が変わる。
黒い靄の中に包まれて多少見える顔は酷く爛れて肉は削げ落ちている。
映画で見るゾンビを想像すれば分かりやすい。
【魔族解放】後は隙無く魔法を連発。
1発でも当たれば死ぬのではないだろうかという威力だ。
手出しはするなと言われたが後ろに被害は及ばないように動く。
後ろの心配はいらないから集中しろと合図を送ると大城はイズチだけを見つめる。
そして、腰のホルダーから二丁の拳銃を取り出した。
いつも付けているのは知っているが実際にあれで戦う姿は見たことがない。
「乱射するだけの能がない芸で終わりか?俺は1発あれば十分だぞ。」
全く大城に当たる気配のない攻撃と違い大城の攻撃は1発で脳天を捕える。
あれほどの強さを見せておいて脳天一撃で幕締めとはあっけない。
「痛いですね。物騒な人は嫌いです。もしも、次狙うことがあればここを狙うことをお勧めしますよ。」
トントンと軽く自分の心臓を叩く。
まさか心臓以外の箇所に攻撃しても意味がないというのか。
頭に穴が空いたまま話されるの気持ちが悪いな。
出来ることなら早く決着を付けて欲しいところだ。
今度は離れた距離からではなく一気に距離を詰めて攻撃を仕掛ける大城。
拳銃を近距離で扱うのは体術の心得も持ち合わせているから出来ること。
見る限りイズチは遠距離を得意としているのは誰が見ても明らかだ。
対応出来ないと思っていたが、杖を棍棒の様に振り回し応戦してくる。
「弱点が何かぐらい自分でも分かっていますよ。それを補うのが真の強者というもの。」
あの距離での発砲を防ぐのも動体視力と反射神経が良いからだ。
全く隙の見えない戦闘に俺達は固唾を吞んで見守るしかない。
「避けるだけなら俺にでも出来るぞ。」
「反撃の機会を伺うのは戦闘の定石ですよ。」
杖での攻撃を警戒して防御の体勢に入る。
しかし、言葉だけで実際に攻撃は無かった。
仮にフェイクではあると知っていたとしても意識せざるを得ない。
身体能力だけで無く駆け引き強さも求められる勝負。
果たして大城だけに任せていいのだろうか。
意地やプライドを守るためだけに戦わせるのは問題だ。
「手出すなよ。俺のプライドだけじゃない。コイツを1人で倒せなようじゃ先に進めないからだ。」
全員の気持ちを汲み取っている大城が念を押してくる。
実力不足ならば、魔王討伐どころではない。
そうでないと証明したからこそ1人で戦うらしい。
「心配はいらないでしょうね。言った言葉には責任を持つ人ですから。」
「黙って見ておくしかなさそうね。」
ギアを上げた大城は、より激しく攻撃を繰り広げる。
普段の冷静な戦闘と違い荒々しい。
ダメージを受けるのも覚悟の上で攻めている。
「アンデットの私でも滅多にしない戦法ですよ。」
「無駄口はいらない。俺は今、これまでにない程集中しているからな。」
「失礼致しました。しかしながら、こちらも敵にとって最善の状態を作らせる訳にはいかないのでご了承ください。【禁術】”アンデットフュージョン”」
アロットの冒険者と戦闘してた骸骨が一気にイズチの下まで吸い寄せられていく。
奇怪な音を立てて崩れていく骸骨。
残ったのは、形を保っていた骨だけ。
どうなるのかなど想像するに容易い。
宙に浮いた骨がイズチを守るように覆う。
本体の姿は完全に隠れて餓者髑髏のような見た目になる。
元の形態とは違い圧倒的なパワーで押し切るタイプらしい。
大城の観察は終えて、これで倒せると判断したのか。
「でかい的は狙いやすくて良い。【幻想の豪雪】」
「それで勝てるとは到底思えませんが。【魔族解放】”黄泉霊気”」
凍つく2つの空気が混ざり合う。
白くなった世界の中で2人は戦っていて、どうなっているかが分からない。
分かるのはこの戦いの勝利の行方は、より強い技を放った者に訪れるという単純明快なことだけ。
見ているだけでこっちまで凍りつきなそうなので、その場に立っている2人の身体的ダメージは計り知れない。
緊張感のある状況の中で大城のいた位置から音が聞こえる。
ちょうど人が倒れ込むような音。
脳裏に過ぎる嫌な想像が当たっていないことを願う。
晴れる冷気の中から姿を現すものはいない。
あるのは粉々になった骨と倒れている2つの生命。
どちらが動くのか、はたまた2人とも。
「うぅ、歳は取るもんじゃないな。寒さが少しだけ体に染みる。」
大城は膝に手を当てて立ち上がる。
強がっているが、体に深刻なダメージがあるのは確かだ。
駆け寄る清水によって回復スキルが使用される。
「俺は覚悟を見せた。もう後先のことはどうでも良い。ただ、全員で魔王を倒したい。」
普段はあまり自分の感情を話すタイプでない大城から出た意外な言葉。
本心かどうかは真偽の審判を使わなくとも分かる。
「次は僕の実力を改めて見せてやりましょかね。」
「本当に大丈夫なのアンタ。大城が一生に一度言うか分からない熱いセリフに触発されたんだじゃないでしょうね。」
「バレました?」
上野と宮武によっていつもの空気を取り戻す。
大城にとってもいつもの感じでいた方が有難いだろう。
アロットの冒険者達やサポーター達をヴァイスのゲートで帰してから、次の階へ進む。
前を歩く大城の背中はいつもより大きく見えた。
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