第159話 花咲く
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「やっと終わりましたね。小原さんが覚醒した時はどうなるかと思いましたけど。」
どうやら他の人達も小原の覚醒を見ていたらしい。
いつもと様子が違いすぎて暴走しているとすぐに勘づいたようだな。
当の本人である彼女はまだ目を覚まさない。
時間にしてかれこれ2時間は経過している。
軽い気絶であるならとっくに起きていてもいる頃だ。
深刻な状況だと誰もが理解しているからこそ空気は重くなる。
誰が次の言葉を発するか。
それを探り合っている。
「ちょっとして下準備が大変なことになったわね。」
溜め息をわざと吐いて見せる宮武。
それもそのはず。
魔族の抗争の巻き込まれるかと思いきや、新たな転生者の出現。
この短期間で日本人の転生者に遭遇する機会が多くなっている。
不思議と魔王城に寄せ集められているのではないかと思うほどだ。
「僕としては良い経験になったと思いますよ。ラスボス前の準備運動みたいで。」
「軽くいうね。ワシら死ぬ可能性もあったのに。」
「まぁ、結果的に生きてますし問題無しですよ。」
「そのボジティブなメンタルを少しでも僕に分けて欲しいよ。」
元気な上野とは対照的に疲労感から項垂れる井村。
その歳であれだけ動けていれば十分元気な方だと思う。
戦闘に関していえば、器用にオールラウンダーな立ち回りをこなしてくれているので助かっている。
なので、今くらいは弱音を吐いていても許されるだろう。
「うっ、うぅーー。」
小さく呻く小原。
雑談に花を咲かせようとはしているが、全員彼女の容態を気にしていた。
少しでも反応を見せれば全員が駆け寄るのは当たり前のこと。
「大丈夫ですか?どこか痛むところとかありませんか?」
体に響かないように細心の注意を払った声で清水が問いかける。
まだ自分の体に何が起こったのか分かっていないのか辺りをゆっくりと見渡している。
何往復したか分からないぐらいでようやく状況を理解する。
掛けられた毛布を掴んで顔の半分を隠す。
あまり注目されるのは慣れていないようで、恥ずかしさで顔を真っ赤にしている。
本来ならその気持ちを汲み取ってやりたいところだが、全員心配する気持ちが勝る。
「あのなんで皆さん私を囲んでいるのでしょうか。・・・ちょっと恥ずかしいかも。」
「自分が倒れる前のことは思い出せる?」
「うっ・・・。ちょっと頭が痛くてなって来ました。」
こめかみを押さえて頭痛を訴える。
これ以上の詮索は控えないといけないと察した。
「まだ体調回復まではこの街で休憩でもしますか。」
「残すところは魔王討伐のみだと考えると疲労を取っておくのも悪くない。」
「何しようかしら。美味しいものを食べても良いし、散財したって悪くないわね。」
咄嗟に空気を変えるための提案にしては、上手く話題が広がる。
自由に使える時間は今度残されていないと考えるとこの休みの使い方は重要だ。
「そうだ!皆んなで何かしませんか?折角なんですし!」
「何かって何するんだよ。」
「そうですよね。ここは異世界なので娯楽施設も少ないですから。」
「読書会でもする?」
「絶対に嫌よ。」
「なら、何か別の提案でもあるんですか。」
「近辺調査として、魔物を狩りにでも行くか。」
休日なのに体を動かすのはどうなのだろう。
いつまで経っても決まらない平行線の会話に誰もが頭を悩ませる。
「私行きたい場所があります。」
普段は自ら意見を出すタイプではない小原が発言したことに驚く。
「ここ街の人が噂しているのを聞いたんですけど、この近辺に綺麗なピンクの花を咲かせる木があるらしいです。」
恐らくそれは桜の木。
日本の木がここにあったとしても最早驚くことはない。
「花見か。咲いているんだとしたら悪くないかもしれないな。」
「外で食事ってのも風流だしね。」
全員の意見が固まったらしい。
普段は使うのをサボっている【料理】とかいうスキルを使ってみるのも悪くない。
方向性が決まれば話合いの手際は良くなる。
誰が何を担当するのか決められていく。
料理担当に割り振られたので、荷物持ちとして買い物にでも行くことにしよう。
その間にも余っている材料で料理を作るらしい。
時間はまだ2時を回ったところ。
話合って今から準備をして出発すれば晩御飯には間に合わせられるだろうという結論に至った。
「じゃあ、俺は買い物に行ってくる。」
そう言い残して宿屋を出た。
朝まで天気は最悪だったのにも関わらず俺達の提案を肯定するかのように晴れている。
自分の記憶を辿りながら道を歩いていると1人の魔族が接触してくる。
「お前に話の続きが合って来た。」
まだロクスケに話足りないことが合ったようだ。
場所を変え、路地裏で話すことにする。
ボスの2人が殺された今堂々と街の歩くメンタは残されていないらしい。
「あの後全員で話合って2つのチームが統合することになった。」
「妥当と言えば妥当だな。弱くなった勢力だと勘付かれればこの街の統括が難しくなるだけじゃない。他の魔族が襲ってくることも考えられる。」
「俺もそうなると思って話を進めていたからな。そうなると誰がチームのトップに立つかという問題がある。」
「自分が推薦されて自信がないとかか?」
「情けない話だがな。お前に相談したのはたまたまだ。気にしなくても良い。」
気にするなと言われても表情は助けを求めている。
別に普通の魔族ならどうなろうと俺の知ったことではない。
だけど、無関係という間柄ではないからこそ背中を押してやるべきではないかと思う。
足りないのは自信だけ。
人間に見せたくはない弱味だ。
それでも話したのは俺達の実力を認めてのこと。
「んで、聞いたのか。」
「誰にだ。こんなことを相談できる魔族は・・・。」
頭に過ぎるのは豪快な笑い声を上げる彼の顔。
「なんて言ってるかくらいお前なら分かるだろ。例えそこにいなくたって、記憶から消える訳じゃないし。」
「そうだな。きっとキャイトさんなら迷うな!って言って笑いながら背中を叩くだろうな。」
それでも考える素振りを見せる。
覚悟を決めるのにはそれだけの時間があっても良い。
すぐに決めるのも悪いことでないが、今後をどれだけ見据えているかが走り出しに大きな影響を出す。
「行くしかないだろうな。俺が迷っている以上に下の奴らも迷っている。あの人の意思を受け継ぐためにも歩みを進めなかればならない。」
「もう俺の手助けはいらないな?」
「あぁ、十分過ぎる程受け取った。人間が嫌になったらいつでもここに来ると良い。」
ほんの僅かにその背中がキャイトの影と重なって見える。
後は勝手に地に足を付けて成長するだろう。
買い物を待っている人間がいるので怒られない内に帰ろう。
大量の荷物を持って帰るとキッチンを借りている小原と清水が迎えてくれる。
2人は和気藹々と料理をしていたようなので邪魔したみたいで申し訳ない。
背中を丸めて淡々と作業を進めていく。
全てが終わる頃には全員が戻っていた。
「さぁー!出発しましょう!」
ノリノリの上野が拳を突き上げる。
落ち着けと口では言うものの俺も内心では楽しみだ。
今日は幸運にも満月の夜。
どんな景色が俺達を迎えてくれるだろう。
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