第156話 延長線上の議論
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「軽く言っているが、その人形が起こしたことの責任はアンタが取るってとことで良いだよな?」
「責任?何か非があったような言い方だ。」
「どこかで監視していたんじゃないのか。見ていたとすれば、何をしたかぐらい分かっているだろ。」
「見ていたよ、あの子を作り出して最初から最後までを。その上で、どこに非があったのかと聞いている。」
怒りでも煽りでもなく純粋な疑問。
彼は本心から疑問に感じているのだ。
そこに偏った価値観は存在しない。
自分の持っているデータを全て使って客観的に考えても理解できなかったのだろう。
「2人も殺して俺達から秘宝を奪った。これが悪いことだとは思わないのか。」
「まず、殺したのは魔族だろ?俺達、人間にとっては敵である存在を殺して問題があるとは思えない。もしかして、魔族との接触を重ねる内に嫌悪感が薄れたとかかな。そうだったとするなら、実に面白い研究ができそうだ。」
情報の1つ1つが彼の興味を刺激している。
それが悪意のない煽りへと繋がっていることに気付いてはいない。
「魔族として生きるのが悪という訳でもないだろ。」
「それは生産性のない議論だ。いざとなれば平然と人を殺すさ。俺達が食べる為に家畜を殺すのと同じような感覚で。」
「肉を食べない人間だっているだろ。」
「その生き物が噛みつくと分かれば、どんな生物だって殺すだろ。」
「それは魔族とは関係ない。」
「関係ないよ。俺はあの実験体が人を殺したとしても同じことを言うだろうさ。」
俺に分かるように論理を展開するため、魔族を引き合いに出したようだ。
実際の意見は魔族だろうと人間だろうと関係はないらしい。
「撤回してください。今の言葉撤回してください。この世に死んで良い命なんてどこにもないです!」
「実に感情的な意見だ。今後の参考に続きを聞きたい所だけど、ここで生死観を披露し合うのはちょっとな。あっ、そうだ。そこの彼女も魔族を殺していたみたいだけど、この実験体とどう違うのかな。」
その言葉に清水は押し黙る。
平賀が言っていることは正しい。
アイアンを悪とすらならば、小原も悪ということを証明してしまう。
清水の心がそれを許さないのは分かりきったことだ。
「そ、それなら秘宝のことはどう説明するんですか!」
相手のペースに飲まれてしまった清水は声を荒げて反論する。
感情的になるほど、相手の冷静さを対照的に映る。
それが余計に心を揺らがせる。
「秘宝のことも一概に悪かったとは言えないね。実験体も魔王討伐の意志を示していたでしょ?でも、秘宝は1つずつしか用意されていない。なら、1番有用に使えると証明する為には実力の誇示が最も効率的だ。」
「俺達が集めたという功績は一切無視か。成功確率で言うならアンタの理論も納得出来るが、倫理観を含まれば不正解だろ。挑戦券を得るのは労力を費やした俺達だ。」
「倫理観か。俺の1番難しい分野だ。線引きが曖昧な割に大事にしろってうるさい。もちろん、極論な話を理解出来るけど、細かいことを言われたらどしても。」
「簡単な話だろ。人の努力を0に変えるような邪魔をするなってことだ。」
彼はまだ納得していない。
むしろ、自分とは相容れない理論を展開するこの議論を楽しんでいる。
それに付き合うのは癪だ。
これ以上は言葉を発することなく、アイアンを回収する平賀を見届ける。
謝罪の一言を聞ければ満足できたのかもしれないが、それは叶わないだろう。
自分のやることを済ませた平賀がこちらに近付いてくる。
「そうだそうだ。これが言っていた秘宝だろ?」
アイアンから回収した天叢雲剣を見せてくる。
日本人である彼も名前を聞けば分かる秘宝だ。
腕を前に突き出して渡してくれとアピール。
「これの所有権は俺に移っているから渡さないよ。」
「魔王討伐をする訳でもないなら返してもらいたいが。」
「これはきっと良い研究データになる。それを簡単に渡す訳にはいかないだろ。それとこれは単純な疑問なんだが、何故魔王討伐拘る。魔王は確かに悪の象徴として人間界では語られているが、実際にした悪事は語られていない。」
「魔族を束ねているのは魔王だろ。魔族が人を平気で殺すことだってあるなら、魔王を倒して止めるのが最善だ。」
「本当にそうかな。また、新たな魔王が生まれてしまうと思う。それが、今よりも攻撃的で活発に行動するタイプなら被害は増加するだけ。」
理論的に説明して魔王討伐の必要性があるのかと問われる。
しかし、こいつにどんな理由を言っても難癖を付けられるだろう。
数分間しか話していないが、そういう人間であると理解できる。
冷静に相手の意見も取り入れているように見せて、粗を見つけて自分の意見を優位に立てせることしか脳にない。
ならどれだけ話をしても無駄になるだけ。
「話合いは十分楽しめたか?」
「あぁ、満足だ。俺の考えもしないような意見をこうも沢山聞かせて貰えるなんてな。」
「じゃあ、ここからは実力行使の時間だ。」
進化刀を手に取り、刃先を向ける。
動揺の1つくらい見せてくれれば可愛いものだが、予想はしていたという態度。
「ワープを使って逃げるとは思わないのか?」
「ワープの仕様はさっき見ていた。便利そうではあるが自分が速くなる訳ではないからな。」
「大正解。でも、君は勘違いを1つしている。俺が戦うことを想定に入れていないことさ。」
この男が戦うのは、確かに考えていない。
お世辞にも戦いに向いている体型ではないし、ましてや、動き辛そうな白衣を着ているからな。
「俺は、研究と工作を愛した男。その特異な戦い方を篤とご覧あれ。」
なんでノリノリなんだよ
しかも、相手に先手を取られてしまった。
白衣の裏側からゴソゴソと物を取り出して地面に設置する。
ネズミの形をしたロボットか。
嫌な予感しかないので【影操作】で全てのロボットの動きを止める。
数秒後、予感は的中していたらしく大きな音と共に爆散。
もしも、これが俺達の下まで来ていたのなら足を捥げていただろうな。
「相手は乗り気みたいだな。清水は小原が目を覚ますまで安全を確保してやってくれ。」
「分かりました。一ノ瀬さんも死なないでくださいね。」
清水が避難したのを確認した。
これで巻き込む心配をしないで戦える。
「あの機械は時間式ではなく、人体感知式にすべきだったかもな。気を取り直して、これを。」
ワープゲートが開いた。
そこから逃げ出す可能性も考慮して攻撃の準備をするが、予想とは違い事象が起こる。
アイアンと似たよなけれど顔や性別などはバラバラの機械が4体。
「どうだ?俺の機械兵達だ。それぞれに、悲しみ、愛しさ、笑い、探究をセットしてある。君なら相手出来そうだから良いデータが取れそうだ。」
一斉に襲ってくる4体。
いくらなんでも数が多い。
これを相手にするのは苦労しそうだ。
「ちょっとは活躍させてほしいっすね。」
「無様に洗脳されてましたぁーじゃ格好がつかないもんね。」
ハクヤとルルンが駆けつけてくれる。
これで俺が負担する相手の数は減るな。
「洗脳されてる間に腕は落ちてないだろうな。2人とも。」
「「もちろん」」
魔族と人間の異例なタッグがここに誕生した。
平賀から秘宝を取り返さないといけないが、2人の成長も楽しみだ。
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