第151話 英雄の裏
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「落ち着け小原。本当にその目で確認したんだな。」
「は、はい。【気配遮断】を使っていましたから確実に見ました。けど、顔は見られてませんが誰かいたのはバレてしまいました。」
小原には、キャイトとスロベティーネの同行を探ってもらうようにお願いをしていた。
それがまさかこんな結末を迎えるなんて想像もしていなかった。
殺されたのがただの魔族なら多少の驚きはあるものの納得はできる。
結果は、街を支配しているほどの実力を持っている魔族が殺された。
恐怖に怯えていたガーデハの住民であれば両手を上げて喜びたい事実。
残されているであろう残党も腕効きの冒険者を要請すれば問題はないだろうからな。
「今後の動きを改める必要性が出て来たな。」
「そうですね。謎の少年に接触するのも危険を伴いますから。」
ザワザワと下のロビーになっている階が騒がしい。
この時間は大人しく部屋に閉じこもならければいけないのに。
様子を見に行った俺達は、信じられない光景を目にする。
2人の魔族の死体が転がっているのだ。
この場所に置かれている意味は恐らく脅しを込めたメッセージ。
余計な事をしたらお前らもこうなるぞと言われているように感じる。
「やったぞー!これで解放されるんだ!」
「待てよ、残った魔族がいるだろ。」
「いやいや、この2人を殺した奴だぜ?魔族なんて全滅させてるだろ。」
盛り上がる人々の声が聞こえる。
そして、彼らの抱いていた不満や不安、怒りがここぞとばかりに語られていた。
自分達では立ち向かう勇気すらなかった癖に都合の良い奴らだ。
ここに死体を転がしたままにするのも忍びないので、外へ運び出す。
それからあまり人目に付かない場所を探してから、土魔法で墓を作る。
特別な思い出があった訳ではない。
だからこそ人間と変わらない同じ命に俺は見えた。
『あーあー、マイクテスト、マイクテスト。魔族共に支配された悲しき人々よ!今、この俺の手によって苦しみから解放された。キャイトとスロベティーネという魔族は死んだ。そして、残された魔族もすでに俺の配下にある。泣いて喜べよ!俺の名は、アイアン。この街を救った英雄だ!』
街の至る所から流れるアナウンス。
魔導具の1種を使って流しているのだろう。
恐る恐る建物から人々が出てくる。
1人、また1人と人数を増やしていき、やがては活気のある街へと変貌を遂げる。
興奮と感動からお祭り騒ぎになっていく。
ある者は、楽器を持ち出して陽気に演奏し、ある者は勢いそのままにプロポーズを。
彼らはまだ気付いていないのだろうか。
主導権を握っている者が変わっただけで何も安心出来ない。
むしろ、今までより酷い命令が下されることだって。
「おい、あっちにガーデハを救った英雄がいるぞ!」
1人の男が指を差した方向には、魔族の計21名の魔族とアイアンと名乗る少年の姿がある。
魔族達が簡単にリーダーを変えるだろうかと疑問に思っていたが、謎は全て解けた。
彼らの目は例外なく虚で、魂が籠っていない。
今まで遭遇したことはないが、洗脳系のスキルを使っているのだろう。
「そうだ!俺を崇め奉れ!いずれ魔王を倒して神になる男だ!」
その言葉に反応してしまう。
アイアンも魔王討伐を企む人物だったのか。
ということは、その異常なまでの強さも転生者だからという理由で片付けられそうだ。
他の勇者の可能性があるならば、敵対視する必要性はない。
「それと隠れてコソコソ魔王を狙ってる奴らに警告だ。俺が倒すから黙って見てろ。」
俺達の思いとは反対にアイアンは少し敵対視しているようだ。
彼の言う通りにしていれば、こちらに危害が及ぶこともないし魔王討伐までしてくれるという好条件。
しかし、何故だか消化しきれない自分がいる。
「彼の発言がどれほど本気だったとしても魔王討伐には、秘宝が3つ必要ですよね。彼はそのことを知っているのでしょうか。」
「知らない可能性は限りなく低いだろうな。たぶんだが、俺達が秘宝を揃えたことも知っているはずだ。」
「危険はまだ消えていないということですね。というか、2人を殺している分アイアンの方が脅威だと思いますし。」
どちらにせよ接触してこない以上はこちらから距離を縮める必要もない。
群衆に紛れてアイアンから距離を取る。
その間に彼からの視線を背中で感じたのは気のせいだろうか。
「流れがガラッと変わりましたね。」
「直接的にはアイツと戦うことなんてないでしょ?」
「相手が望んで来たら話は変わってくるだろ。」
「何よ大城。アンタ、そうなったらわざわざあのガキと真正面から戦うつもり?」
この街を救ったのは、間違いなくアイアンだ。
救世主が俺達を捕まえろと命令されたら確実に街中が動き出す。
もしも、一般市民と戦いをするならば殺してしまわないように加減が必要になる。
相手は無限に湧いてくるのに、それを続けるのは現実的に不可能だ。
「説明は省くが、アイアンの敵はこの街の敵になると思えば良い。」
難しいことを嫌う宮武へ分かりやすい言葉で説明する。
意味を理解したら宮武もそれ以上何かを言うことは出来ない。
「あ、あのー。もうこの街から出ませんか?ここに拘る理由って今まで街よりも少なかったですし、魔族があんな風になった現状ではどうにも。」
最後は濁しているが、間接的に意味がないと言いたいのだろう。
ネガティブな思考に陥りがちな小原からの意見はかなり的を得ている。
魔王城突入の下準備として訪れたに過ぎない。
情報がないまま魔王城に挑むリスクは増えるが、残ることにもそれと同様のリスクがあると思って良い。
「少し時間を置かないか。夜までにそれぞれの意見をまとめておくということで。」
冷静になる時間を作るのは話合いにおいて重要である。
「そんな時間はないんじゃないか?ネズミ共。」
先程まで遠くで演説していた声が近くに聞こえる。
声を聞いた瞬間から小原の震えが止まらなくなっている。
アイアンが直接来たということは、狙いはやはり。
「で、誰が秘宝を持ってるので?バラバラに管理してる?」
「話しても良いが渡すつもりはないぞ。」
「良いの良いの。奪い取るつもりだったから。」
まさかこのタイミングで奪い取りに来るとは。
先程の演説を見て、今は内政の掌握を優先するのだと思ってたいた。
「怖がらないで欲しいなー。俺はただ大人しく渡してくれれば傷付けるつもりはないのにさぁー。」
首からぶら下げている真偽の審判が反応しない。
つまり、アイアンの言っていることは本当だ。
大城に一度合図を送っておく。
「宮武、渡してくれ。」
宮武は指示に従って秘宝を出す素振りを見せる。
もちろん、本物は井村が1つと俺が2つ持っているので宮武が持っているはずがない。
「これがお探しの物よね。」
閃光玉は投げ込む。
目を瞑らなかった者の世界は白く染められている。
直前まで行動を予測できなかったアイアンも目はしっかりと開いていた。
「そんな小細工は通用しないんだよね。あっ、1個だけ俺でも分かる秘宝見つけた。」
井村が腰に付けていた天叢雲剣に目掛けて走り出す。
「俺に反転を使え!」
咄嗟の判断で、井村と位置を入れ替わる。
だが、1秒にも満たない瞬間に奪われてしまう。
ぶつかり合う進化刀と天叢雲剣。
「あれ?意外と未完成の進化刀と互角か。目的の物は1つ回収できたし、後はおもちゃの性能でも試そうか。」
続々と現れる魔族達のせいで、この場から立ち去るアイアンを追えない。
余裕そうに歩いているのが腹立たしい。
「次は残り2つも掛けて殺し合いでもしようよ。」
微かに聞こえた声がそう宣言していた。
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