第147話 重鎮
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「まぁ、座れや。腰を据えないと話せないことも1つや2つあるだろ。」
客人が来ることもあるのか内装にこだわりを感じる。
金に身を任せた成金趣味というよりは、凡人である俺にもどこか風情を感じさせる物ばかり。
ここに来た目的もそっちのけで目が奪われてしまうほどである。
「どうした小僧。良いモン見つけら持っていくか?」
あまりに目が騒がしかったのかキャイトの方から声を掛けられてしまう。
短く否定しておいて話を進めてもらうことにした。
年甲斐もなくはしゃぐのは俺の担当ではないのにと反省している。
話合いの出鼻を挫かれてしまったことで妙な空気感が流れてしまうが、上野がコホンと1つ息を吐き無理に話を始めた。
「まず失礼極まりない方法で接触を図ったことに関して謝罪申し上げます。」
「何を過ぎたこと言ってんだ。俺は過去を振り返らないタイプ。その場で怒らなかったということはそいうことだ。」
「寛大なお言葉に感謝します。」
相手と実際に会ってビビっているのか、それとも敬語を使うことで相手の心象を良くするためのテクニックなのか。
上野なら高確率で後者だな。
ここからは、どうやってキャイトから魔王城の話を聞き出すかが重要になってくる。
敵のアジトにいるので、いつ戦いになっても可笑しくない。
その証拠に俺達を取り囲むように魔族の部下が配置されている。
立たされている人数と配置を見る限り、キャイトの近くに配置されているのが幹部と見て間違いないだろう。
「んで、急かすようで悪いんだけどよ。話の内容ってのを聞かせてもらっていいか?俺ってのはせっかちな生き物だから、さっきからウズウズして仕方がねぇー。」
「それなら手短にお話しさせてもらいますね。」
俺達は一瞬だけ表情を固まらせた。
手短にということはオブラートに包むこともせずに聞くつもりだということ。
それも魔族であるキャイト本人にである。
ここまで明るい感じで進行していた会話も終わりを告げることを意味している。
それだけは阻止したいが無駄な動きをすれば首が飛びかねない。
唯一できることは全神経を使って進化刀をすぐに取り出せる準備をしておくことぐらいだ。
「魔王城についての情報を聞かせて欲しいですね。」
流れる沈黙は今まで経験したどれよりも肌に突き刺さる。
相手の表情は怒りや戸惑いなど様々だが、肝心のキャイトは黙って上野を見つめるだけ。
上野もそれに対してニコニコと笑顔で返している。
そこにある心理的駆け引きの要素がどこまであるのだろうか。
「それは俺に聞いてるってことで間違ってないか?」
「えぇ。武器のことなら鍛冶屋に聞くように、魔族のことは魔族に聞くのが1番確実でしょう。」
「ガハハハ!そいつは言えてるなぁ。・・・でもよ、相手を間違えたら死ぬってのは分かっているのか?」
この状況において、その問いは生死を分ける。
今からでも嘘でした許してくださいと命乞いをすれば許されるかもな。
上野の顔を見る限りそんなことを言う可能性は0に等しい。
「勿論答えてくれてもくれなくても問題はないですよ。それは個人の自由ですし。それに、この後スロベティーネさんにも会おうと思っているので、そちらから聞けば良いので。」
眉がぴくりと動くキャイト。
流石に敵対している相手の名前を出されるとは思っていなかったのだろう。
上野の言葉は内情をしているという意味も含まれている。
それにより一層高度な駆け引きになったのは間違いない。
「おい、そこのチビ。アンタさっきのは脅しと捉えていいのかい?もしそうだとすれば、この鉛がアンタの脳みそをぶちまけることになるけど。」
赤い髪を靡かせた女の魔族が拳銃を懐から取り出し、上野の頭に目掛けてセットする。
救いであるのは、キャイトの許可がない限り無駄な発砲されないと思って良い。
「おい、ナナ。その物騒な物をしまえや。」
「しかし、キャイトさん。アイツが・・・」
「おい、聞こえなかったのか?2度目は言わねーぞ。恥かかせんな。」
黙り込んだ赤髪は言われたままに銃をしまう。
もちろん、納得している訳ではないようだがキャイトの言葉には逆らえない。
気まずく心地が悪い空気に嫌気が差したのか、葉巻を取り出して一息吐こうとする。
それを察した幹部の内の1人が、指先で火魔法を発動させ火を付ける。
やはり、威厳のある奴の葉巻というのは似合っているなといつも思わされる。
任侠映画にでも迷い込んだ気分だ。
吐き出された白い煙が、暗め色の多いこの部屋に映える。
「魔王城のの情報が欲しいだったな。腹割って話するならよ、俺は魔王がどうとかは興味ねぇから話してやってもいいんだけど。今の状況を察してもらえるだろ?スロベティーネとの対立があるんだ。」
「何かしらリターンがないと話す気には慣れないってことですよね。」
「察しが良いじゃねーか。何かしらの旨みがどっちにもあるから交渉ってのは成立するもんだろ?」
全ての交渉を上野に任せているが、こちらから提示できる手札を持っているとは思えない。
そうなれば、あちらの提示をある程度飲み込む覚悟が必要になる。
魔族との交渉と聞けば良いイメージがないのは当たり前。
良くてキャイト側の加勢しろと言われる可能性がある。
「そんな肩張って聞く必要はないが、ちょっとした遣いを頼まれてくれればいんだよ。」
「内容を伺わせてもらいます。」
「さっきスロベティーネに会いに行くって言っていたよな。そこで相手の戦力がどのくらいなのか調査してくれれば良い。正確なことまでは分からなくとも人数の変化がないとかで良いんだ。」
「つまり情報収集を頼みたいということですか。確かに対立している魔族が情報を探ろうとするのはリスクが高いですからね。引き受けはしますが、相手が正直に戦力をひけらかす可能性は低いので信憑性は薄いかと。」
「お前良いなぁ。そんなこと馬鹿正直に伝える必要もないのにな。うーん。」
上野の正論に頭を悩ませるキャイト。
そこに先程、葉巻に火を付けていた魔族が耳打ちをしている。
あちら側の参謀が彼なのだろう。
言葉を聞くキャイトからも信頼をしているのが伝わってくる。
数秒間だけの相手の会議を終わったようで、すまないすまないと軽く謝りを入れてから交渉を再開する。
「ならもう1つ付け加えさせて貰おうか。」
「ハードルが高いのはやめてもらいたいですね。」
「なぁーに、んなに難しいこっちゃねーよ。スロベティーネとの交渉をした時に、表向きでは従った振りをして裏切れ。」
「行動するのは簡単ですけど、欺くのは難しそうだ。でも、それが条件というのなら飲み込みましょう。こちらとしては四の五の言ってられる余裕はないですから。」
交渉は無事成立したということであちらの持っている情報を聞く。
相手が嘘をついているとも限らないので真偽の審判を使っているが、全く持って嘘は付いていないようだ。
スロベティーネの所にも行くと言っていたが、もしもそこでも情報を得られたならすり合わせをして信憑性を増させることも出来る。
疑問があるのだとすれば、何故こうも簡単に情報を渡してきたのか。
いくら悪事を働く魔族であっても、味方をそれも魔王を簡単に売るような組織であるならばあっと言う間に壊滅しているはず。
それとも人間の常識など通用しない集団なのか。
見送りまでするキャイトの存在を背中で感じながら考えた。
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