第145話 ずる賢い女
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深夜の街は午前中と同様に凄まじい盛り上がりを見せている。
空白の数時間が嘘だったように笑い声が絶えない。
この異様さを市民が誰も感じないのだろうか。
魔族に支配されていても声を上げ、自らのプライドと街の治安を守るために立ち上がるものはいない。
それが弱者に定められた末路なのかもしれない。
決して抗うことのできないまま、囚われた心身を憂いに思い死んでいく。
彼らも分かっていながら甘んじて受け入れているのだ。
希望ある未来を望む勇気よりも変化を恐れそのままを望む気持ちが勝った。
しかし、気付いていない。
もう随分と前から日常など崩壊していることに。
「まずは、この時間帯飲食店を狙うのが基本でしょうか。」
「人が多い方が情報を集めやすいかもしれないが、その分監視の目に引っかかる可能性も高まるだろうな。」
「そうでしょうね。今日だけで住民が報復を恐れて魔族の指示に従っていることが分かっているのよ。つまりは、人が多いところを避けるべきね。」
「確率的な問題で言えばそうかもしれませんが、どこにどれだけ監視の目があるか分からない状況で可能性を0にするのは不可能。いずれかのリスクは背負うことになりますよ。」
俺の言い分と宮武の言い分は同じようだが、上野の理屈が分からない訳でもない。
結局の所は、既にマークされているだろうからいずれは嗅ぎ回っていることが伝達される可能性が高い。
そうなれば今逃げたり隠れたりするのは無意味だと言える。
場所を決めるのにも一苦労するのは、集団行動の醍醐味とも言える部分だ。
7人全員で動くかどうかも決めていないが流れ的にがそうなるだろう。
昼間のように一気に3人もの魔族と遭遇する可能性だって0ではないのだから。
「それならあるんじゃないですか?絶対的に監視がいない場所が。」
どうやら清水には思い付く宛てがあるらしい。
この街に来て探索を行えた時間もごく僅かだというのに、意外と抜け目のないやつだったようだ。
珍しく清水が先頭で移動を始めている。
こういう時は決まって上野や大城が先を歩くので、自信満々な彼女が意気揚々と先陣を歩くのは少し不安だ。
それと同時にどこへ連れて行かれるのかと興味の混じった視線が向けれていた。
お楽しみはとっておきたいので敢えて目的地を聞くような真似はしない。
数回目に来てはいるが慣れない道のりをスルスルと進んでいく。
「ここか。敵でないにしろ俺は良い印象を持たれていないだろうな。」
「完全な孤立した空間であるのは確かですけどね。」
到着した先にあったのは、清水だけでなくこの場にいる全員が見覚えのある路地裏。
賑わう人の声や明るい街灯とは無縁の場所がそこに広がっている。
「どうやって情報を得るつもりだ。まともに会話をしてくれるとは思えないが。」
「人の心を掴むにはまず胃袋掴むことからですよ!」
言わんとすることは分からなくもないが、それは恋愛の時に使う手法だろと突っ込みたくなる。
本人が真剣なのでその気持ちはグッと堪えることにした。
だって、もう料理の準備が始まってる。
もちろんこれは昼同様に俺達の分を作っっているのでなく、隔離された路地裏の住人達に分け与えるためのものだ。
鼻歌混じりに次々と完成させた料理を並べていく。
住処に篭っていた人々も、外の騒がしさに気付きゾロゾロと集まり出した。
「テメェーら、また食事を見せつけに来たのか。1度はやられちまったがこっちにだってプライドってのがあるんだ。実力行使させてもらうぞ!」
まだ何も説明していないのに暴力的な奴らだ。
けれど、これが挑発しているように捉えられるのも否定できない事実。
2度も3度も愉快な食事の場面を見せ付けられるのは彼らにとってこの上ない屈辱。
世間から隔離されひもじい思いをしていた人間にとっては許されざる仕打ちだ。
こちらの思惑を成功させるためには暴力的な解決は好ましくない。
それでも止まる気配はないので威嚇くらいはさせてもらうがな。
襲い掛かってくる男性住民達の前に立ち塞がる。
何か攻撃をする訳ではないが、相手の動きを止めるには十分効果的だ。
昼間のことを目撃していないはずもなく実力の差を理解している賢い判断。
そう賞賛を心の中で送っていると勇気ある者がトテトテと清水に近づいていく。
母親らしき人物がそれを必死に止めようとするがわんぱくな子供は意を返さず進む。
「これ味味してくれるかな?」
流石は子供の扱いが慣れている清水。
あくまでもお手伝いだという体で話を振る。
子供も近づいて黙って見ているだけだったが、協力して欲しいと言われれば話は別だ。
「バカ!それには毒が入ってるかもしれないぞ!」
大きな声で誰かが止める。
その声の主がはっきりとは分からないが、毒なんてわざわざ盛っている訳がないだろ。
手間の掛かるやり方を選ばなくとも仕留めるだけなら確実に可能だ。
「お、おいしい〜!!!」
一瞬オーバーなリアクションを見せたので焦ったが、どうやら味が問題ないことが確認されただけのようだ。
清水は純粋な子供の感想に乗っかるように、料理を配ろうとする。
「皆さんにぜひ食べていただきたくて腕によりをかけて作りました!昼間の謝罪の意味も込めてありますのでよろしければ食べてください!」
両手を拡声器の代わりにして、この場にいる全員に聞こえるように話掛ける。
それと同時に警戒を少しでもされない為に、清水自身は並べられた料理から距離を取った。
心の汚れた大人なら何か裏があると思ってまず料理に手を付けない。
しかし、子供達は親の気持ちなど露知らず笑顔で食べ始めた。
「本当だ!こんなに美味しい料理食べたのいつ以来かな〜!」
止めように止められるはずが無かった。
子供がこれほどまでに笑顔で食べているのだから。
そうなれば自分達の食欲にも嘘を付く理由がなくなる。
料理を手に取って恐る恐る口に運ぶ。
最初に出たのは感想でも笑顔でもなく、目から溢れる涙だった。
語らなくとも彼らの境遇がどれほど悲惨なものだったかが分かる。
辛かっただろうなんて言葉で共感しようとするのも烏滸がましいと思えほど。
こんな感動的な場面に遭遇しているのにも関わらず、1人だけ無関係だからと言わんばかりに彼らの所へ向かう女性が。
「今、それ食べたわね?食べたんなら話を聞かせてもらおうかしら。」
「な、なんだと!これは昼間の謝罪でくれたもんだとあの女が。」
「清水もずる賢い女よ。きちんと謝罪”も”含めてって言ってたでしょうが。」
「だ、騙された。」
確かに言われてみればそう言っていた。
しかし、あの場面でそこまで考えている人間がいるだろうか。
俺でも素直に受け取ってしまう可能性が高い。
今度から清水に何か貰うのは控えよう。
「何よその言い方は。もちろん、話を聞かせてもらうのはアンタらにもメリットがあってに決まってるじゃない。」
「俺達にも?」
「アンタらがここまで虐げられてきたのは何故?守るべきものを守るために戦うことを選んだからでしょ?なら、反撃の時間は今この瞬間から始まるのよ。」
誰も信じられない話を聞いている顔をしている。
簡単には解決できない問題だと思っているからだ。
それでも、誰1人として宮武から目を背ける者はいなかった。
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