第144話 爆風に乗って
誤字脱字や文章の下手さについてはご了承下さい。投稿予定時間になるべく投稿できるようにします。
よければ、評価とブクマ等していただければ幸いです。
警告に従うままに宿屋に戻る。
宿屋の受付にも人は立っておらず、犯罪の温床になりかねない。
それを分からないような人間が店を経営しているとは思えないので、やはり先ほどの男の脅威によるものか。
まぁ、今考えようにも情報量が少な過ぎて結論を出すまでに至らない。
もう少し待てば時も過ぎて人も増え出すだろう。
そこで再度挑戦という形にするのが丸く収まる。
暇になってしまった以上は、ベッドに身を任せゆったりと瞼を閉じていようと思う。
ここはちょっと値が張る宿屋なだけあってアロットの王宮のベッドと比較しても遜色がない。
リラックス効果でも付与されているのではないかと錯覚するほど心地が良い。
「ワフッ!」
突然現れた1匹の犬によって、束の間の休息も終わりに。
元気良くベッドの上を飛び跳ねている姿に物理的にではないが、しっかりとした癒しを感じる。
本当であればベッドで飛び跳ねる行為は良くないと分かっているので、飼い主である俺が止めなければならない。
・・・止めなければ
いや、出来る訳がないだろ。こんなにも嬉しそうにはしゃいでるヴァイスをガシッと掴んでここから下すことなど不可能だ。
そしてなにより、俺がそれを望んでいないというのが大きい。
普段はお留守番を任せているのでこういう時はかまってあげたいものだ。
よしっと思ってベッドから起き上がると同時に訪問を知らせるノックが聞こえる。
このタイミングで訪れる人間など他6人の中の誰かだと決まっている。
なので、何も気構えることなくドアにチェーンを掛けることもなく開ける。
立っているのは、顔が酷く腫れ上がっていて誰なのかも判別ができない人間だった。
辛うじて、身体的特徴から相手が男性なのではないかと推測できる。
様々な箇所に損傷が見られており一方的な暴力だったことは明らかであるが、どれだけ観察を続けても俺の部屋に訪ねてきた理由が分からない。
「・・・ごれぇ。」
震えるようなはっきりとしない声で何かを手渡してくる。
何かと思って受け取ってみると、小さな包みとその箱を縛るリボンに挟まるように手紙が添えられてあった。
プレゼントにしては本人が直接届けないこないのは少し不自然にも感じるし、そもそもこの世界にそこまでの関係性を築いた人間はいない。
これ以上は何も考えなくとも、手紙にその答えが書かれているだろうと思い目を通している。
文面は綺麗な字で書かれていて所々に散りばめられた血がアクセントに。
これを持って来た男の手が血だらけになっていることから、目の前の奴が書いた可能性が高いか。
肝心な内容を読むと送り人も推測できる。
『お前のせいでハニーと俺は酷い目にあっただろ。この仕返しはこの場で果たす。プレゼント気に入ってもらえると嬉しい。』
あのバカップルが送りつけて来たに違いない。
小箱の中に何か仕掛けがあるのは見なくても分かるので、開けるかどうか迷っているとボロボロの状態の配達人が俺の腕を掴む。
負傷しているせいか振り解くのには苦労しないだろうが、何が目的か勘繰ってしまう。
カッ カッ カッ と刻みに何か動く音がする。
この音は例えるなら時計の針が一定のリズムで進む音。
箱と復讐と時計の音。
この3つの条件が揃った時点でお約束の展開であることに気付いた。
力無き拘束を振り解き、窓のある方へダッシュする。
後どれくらい時間が残っているか分からない。
そんな不安な状況だと窓までが遠く感じる。
しかし、救世主は遅れて登場するのだった。
俺よりも速いスピードで窓に駆けつけ器用に前足で窓を開けるヴァイス。
ピンチを救う展開に持って行ったヴァイスは後で沢山愛でてやろう。
「【迅雷投擲】!いけぇーーーー!!!」
物凄い勢いで飛ばされていく小箱が、丁度窓を通過して外に出た瞬間に爆発して散っていく。
何事もなくて良かったという安堵感と投げるのが遅れていれば自分の腕が吹き飛んだ可能性がある恐怖に震える。
これだけの爆発音が鳴り響けば宿屋や近辺の住民が騒ぎ立ててもおかしくないが駆けつけたのは仲間の6人だけ。
「大丈夫ですか!」
「一体何の騒ぎよこれは。」
「事情は後で話すからそこの男を拘束しておいてくれ!」
「拘束も何も気絶して倒れ込んじゃってるわよ。」
俺が勢いよく振り解いたので、反動で壁にでも頭をぶつけてしまったのだろう。
こうなれば話を聞くどころの騒ぎではないので、清水の【回復魔法】で傷を癒して目が覚めるのを待った。
まともに情報を入手できていないこの状況において、貴重な情報源を逃す訳にもいかないからな。
「この人ってあの門番の人じゃないですか!?」
顔の腫れが引いてきてパーツがはっきりと分かるようになると、確かに今日あった門番がそこにはいた。
ルールの伝え忘れがどうとか言っていたので、その罰としてここまで仕打ちを受けたと思われる。
それにしても酷いな。
今考えるとあの腕を掴んだのだって自爆覚悟で俺を殺せという命令だったはずだ。
結局は同じ死が待っているだけなにここまで盲目的に行動できるのは異常としか言えない。
目を覚ました男は不思議そうに自分の体を隅々まで観察している。
「生きている。・・・それに傷もどこにもない。」
この空間に他にも人がいることなど分かってもいないようだ。
それほど自分の生を実感するのに時間が必要だったということ。
飽きるほど眺めてた後にようやく自分が置かれている状況に気付いた。
「い、いいい、生きてる!!!なんでだ!」
自分が生きている以上に驚いているようだ。
きっと何が起こっていたのかは記憶にない。
それにこの動揺は、俺が生きていることで不都合があるから起こるもの。
「どこへ逃げても逃げ場はないですよ。今味方につけるべきは貴方を脅している人間ですか?それとも目の前の僕達ですか?」
この2択は甘い誘惑。
手を差し伸べる優しい手が彼にはどれほどの救いに見えるだろう。
それもこれも上野の戦略の上。
言葉の中に冷たい利益だけを求めた狙いが含まれているとも知らずに。
静かに2回頷く。
言葉にするまでの勇気はなくとも態度に示すことはできる。
「まずはどうしてあのような怪我を負っていたのか聞かせてもらってもいいですか。」
彼は胸の内に秘めていた怒りを吐き出すように感情を込めて語り出した。
「お前らにこの街のルールを教えていなかったとか言って、ハラマイとワネーブルがいちゃもんを付けてきやがったんだよ。確かにこの街にはアイツら魔族が決めたルールが存在するが、それを旅人に教えろという通達は無かったのに。」
この街にはルールが定められているらしい。
その中の1つには13時から16時までの外出や施設の運営を禁止するというものがあるようだ。
ルールを破った俺達にたまたま遭遇した彼らは機嫌を損ねて八つ当たりをしていたということか。
悲惨な目にあった魔族について質問をしようと思ったが、それを阻むようにどこからか声が聞こえる。
『まぁ、あの門番が殺せるとは僕も思ってなかったけど、この街のルールを伝えることには成功したみたいだね。僕らはいつでも君達のことを見ている。じゃあね、用済みな奴隷くん。』
声が途切れた途端に彼は苦しみ出した。
清水も【回復魔法】を必死に使用しているが、結局は口封じの為に死亡する結末に。
彼には申し訳ないが、これで俺達も状況を進めることが出来た。
死を無駄にしないよう絶対に魔王に関する情報はいただいていく。
安らかに眠る彼にそっと白いハンカチを掛けた。
ご覧いただきありがとうございました!
宜しければブックマーク、いいねお願いいたします。
毎日22時から23時半投稿予定!